FOCUSRITE「Scarlett」(オーディオインターフェイス)の再評価/「定番」は今も「最適解」か?
◆はじめに
FOCUSRITE「Scarlett」は、オーディオインターフェイスの入門機として広く知られていますが、単なる初心者向けという印象だけで済ませてしまうのはもったいないほど、実は優れたポテンシャルを秘めた製品です。
私自身、これまで数多くのオーディオインターフェイスを試してきており、2025年7月現在、自宅ではAPOGEE「Symphony Desktop」、外出先での簡易的な録音にはROLAND「Rubix24」(こちらは「ふるさと納税」で入手)を使用しています。
「Rubix24」は、本体のノブやボタンで多くの操作ができるため、外出先でも直感的に扱えて便利なのですが、ヘッドホン端子が1つしかないため、2人での作業では別途ヘッドホンアンプを用意する必要がありました。
また音質面で大きな不満がある訳ではないものの、自宅外でももう少し良いサウンドで録音をしたいと思うケースが増えてきました。
そこで、ヘッドホン端子が2つあり、かつ個別に音量調整ができるコストパフォーマンスの高い機種を探すことにしました。
各メーカーの製品を比較検討した結果、意外にもFOCUSRITE「Scarlett」シリーズのスペックがなかなか優れており、アウトボードとの組み合わせも可能であったりと使い勝手などを含めた総合力が高い印象であったため、最終的に「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の購入を決めました。
今回は、Scarlett 8i6 (gen. 3)の購入をするに至った理由と、そのスペックの高さについて解説したいと思います。
◆ヘッドホン端子が2個あるオーディオインターフェイスの候補
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」を購入するにあたり、比較検討した機種についてご紹介します。
ESI ( イーエスアイ ) / Amber i4
ヘッドホン端子を2つ備えるオーディオインターフェイスの中で、最安値クラスの製品です。
仕様上のスペックも優秀で、視認性の高いメーターも魅力的でした。
背面に電源スイッチがあり私が望んでいる機能は全て満たしていたのですがドイツの老舗メーカーらしい筐体のデザインが好みに合わず、今回は購入を見送りました。
Native Instruments ( ネイティブインストゥルメンツ ) / KOMPLETE AUDIO 6 MK2
Native Instruments「KOMPLETE AUDIO 6 MK2」の製品の魅力は、付属する豪華なソフトウェアやクーポンですが、私は既にKOMPLETEのソフトウェアを所有しているため、候補から外しました。
ARTURIA ( アートリア ) / MINIFUSE 4
ARTURIA「 MINIFUSE 4」は、優れたスペックとコストパフォーマンスに加え、デザイン性の高さも魅力的な製品です。
ブラック、ホワイト、シャンパーニュの3色から選べる点も素晴らいです。
USBハブとしても機能するため、USBポートの少ないノートパソコンでの利用には非常に便利です。
最後まで有力な候補でしたが、耐久性やサポート体制に関する情報が少なかったこと、電源スイッチが搭載されてないこと、そして価格と性能などを比較した結果、後述の「Scarlett 8i6 (gen. 3)」にわずかに及ばず、見送ることにしました。
STEINBERG ( スタインバーグ ) / UR44C オーディオインターフェイス
STEINBERG 「UR44C」は、この価格帯でXLR入力端子を4つ備えている点は魅力的ですが、今回の用途ではXLR入力は2つで十分なため必要以上の機能でした。
また、他の機種に比べて音質的な点でスペックに見劣りする点があったため、候補から除外しました。
SSL (Solid State Logic) ( ソリッドステートロジック ) / SSL2+MKII
SSL (Solid State Logic) 「SSL2+MKII」はは最後まで候補に残っていた機種です。
周囲でも使っている人がおり、サウンドは何度も聞いているため高音質であることは間違いなく、操作パネルが本体上面にあるため、直感的で迷うことなく操作できる点も大きなメリットです。
ただ「より良い音」で録音をしたい時には、メイン機の「Symphony Desktop」を使用するため、役割が重複する部分がありました。
また、操作パネルが上部にあるため、デスクの下などの狭いスペースに設置するのが難しいと感じました。
性能に対して価格がやや高めであること、さらに海外のサイトでWindows 11のアップデート時にクリックノイズが発生するという報告も散見され、その点も少し懸念材料となりました。
予算5万円以内でメインのオーディオインターフェイスを1台だけ選ぶという状況であれば間違いなくトップクラスの製品ですが、既にSymphony Desktopが手元にあるという状況や、周囲に持っている人がいることなどを考慮して今回は購入を見送りました。
ICON DIGITAL ( アイコンデジタル ) / 32Ci
ICON DIGITAL「32Ci」は伝説的なアナログコンソール「Harrison 32C」にインスパイアされたアナログプリアンプを搭載しており、高級感のあるデザインも魅力的です。
しかし、市場に出回っている数が少ないのか、耐久性や安定性に関する情報が非常に少なく、サブ機として導入するには高価であるため、今回は見送りました。
MOTU ( モツ ) / M6
私は以前にMOTUの「M2」を愛用しており、その音質や使い勝手の素晴らしさは十分理解していたため、「M6」も選択肢の一つでした。
しかし「M2」と異なり「M6」は入力端子が背面に集中しているため、今回の用途での使い勝手が良いとは言えず、サブ機としては価格も高いため(以前よりもかなり値上がりしてる)、候補から外しました。
FOCUSRITE ( フォーカスライト ) / Clarett+ 4 Pre USB
FOCUSRITEの「Clarett+」シリーズは、「Scarlett」シリーズの上位モデルにあたり、優れたスペックとコストパフォーマンスを誇ります。
Focusriteの伝説的なISA 110マイクプリアンプを再現する「AIRモード」も搭載されており、追加のマイクプリアンプなしで魅力的なボーカルサウンドを得られます。
しかし、「Clarett+」シリーズは近年値上がりが続いており、2023年頃には7万円以下で販売されていた「Clarett+ 4Pre」は現在10万円近くになっています。
サブ機としては価格が高く、メイン機の「Symphony Desktop」と役割が重複する部分もあったため、今回は見送ることにしました。
FOCUSRITE ( フォーカスライト ) / Scarlett 8i6 (gen. 3)
上記のとおり、自宅外での簡易録音用として、ヘッドホン端子を2つ備え、個別に音量調整ができるコストパフォーマンスの高い機種を探したものの、なかなか決定打となる製品が見つからない状況が続いていました。
そのような中、目に留まったのがFOCUSRITEの「Scarlett 8i6 (gen. 3)」です。
「Scarlett 8i6 (Gen. 3)」は、もともと4万円台前半で販売されていた製品ですが、新型の「Gen. 4」が発売されたことで旧モデルとなり、私が購入を検討していた2025年8月初旬には、サウンドハウスでセール価格の26,800円で販売されていました。
また、FOCUSRITEの公式サイトでは再生品が26,520円、新品が31,200円で販売されており、ヘッドホン端子を2つ備えた機種の中では、他社製品と比べても非常に安くなっていました。
正直なところ、FOCUSRITEの「Scarlett」シリーズには「初心者向けのオーディオインターフェイス」という印象を持っており、あまり関心がありませんでした。
しかし、念のため仕様上のスペックを確認してみると、それなりに優れた性能を持っていることが分かりました。
◆FOCUSRITE「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の主なスペック
最終的に購入することになったFOCUSRITE「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の主なスペックは以下のとおりです。
一般的にオーディオインターフェイスのスペックは、メーカー発表値と実測値が異なる場合があります。
しかし、FOCUSRITEは音響機器の老舗メーカーであり、世界中で広く普及しているということもあり、海外のフォーラムやYouTubeチャンネルなどで実測データが多数公開されているため、有名メーカーが公表しているスペックに誤りがあるとフォーラムやYotubedで話題になりやすい傾向があります。
そのため、FOCUSRITEが公式で発表しているスペックは比較的信頼性が高いという前提の上で、スペック上の性能を評価したものであることを付け加えておきます。
またオーディオインターフェイスの音質は、アナログ部分やクロックの正確さなどによっても左右されますが、以下の評価はあくまでも仕様上のスペックに基づいたものであることはご了承ください。
◇マイク入力
周波数特性:20Hz - 20kHz ± 0.1dB
これは、オーディオ信号が低音域の20Hzから高音域の20kHzまで、わずか±0.1dBの変動で忠実に再現できることを示しています。
周波数特性の目安は以下の通りです。
±3dB以内:最低限の実用レベル
±1dB以内:音楽制作に十分なレベル
±0.1dB以内:ほぼ計測限界、ハイエンドADC/DACクラス
この数値からも、「Scarlett 8i6 (gen. 3)」が非常にフラットで原音に忠実な音質を実現していることがわかります。一昔前であればプロの現場でも通用すると言われていた優れたスペックです。
ダイナミックレンジ:111dB
ダイナミックレンジは、最大の信号とノイズフロア(機器が持つ固有のノイズ)の差を表す指標で、数値が高いほど音量の幅が広く、静かな部分から大きな音までをクリアに表現できます。
一般的なダイナミックレンジの目安は以下の通りです。(A/D変換の場合)
90dB前後: 安価なオーディオインターフェイスの最低限の実用レベルです。
100dB以上: 音楽制作に十分なレベルです。
110dB以上: 中価格帯機材としては優秀なレベルです。
118dB以上: RMEやApogeeの上位機種など、計測限界に迫るハイエンド機器のレベルです。
最近のハイエンドのオーディオインターフェイスの中には実用性の範疇を大きく超えたとんでもない数値を叩き出す機種も増えてきましたが、「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の111dBという数値も、このクラスのオーディオインターフェイスとしては十分に優秀でです。
THD+N:<0.0012%
THD+N(Total Harmonic Distortion + Noise)は、元の音に加わる歪みとノイズの合計値を表す指標です。この数値が小さいほど、より透明度の高い、クリアな音で録音できます。
一般的なTHD+Nの目安は以下の通りです。
0.01%以下:ハイファイレベルであり、ほぼ透明な音質です。
0.005%以下:高級オーディオインターフェイスに匹敵するレベルです。
0.001%前後:歪みがほとんど聴き取れない、計測レベルの非常に高い性能です。
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の0.0012%という数値は、この価格帯の製品としては非常に優秀な性能と言えます。
ノイズEIN:-128dBu(A特性)
ノイズEIN(Equivalent Input Noise)は、マイクプリアンプが持つ自己ノイズを、入力換算で表した値です。この数値が低いほど、ノイズが少なく、微細な音もクリアに録音できます。
一般的なノイズEINの目安は以下の通りです。
-120dBu以下:実用レベル
-126dBu以下:高性能なマイクプリアンプのレベル
-128dBu以下:業務用ハイエンド機器の水準に近いレベル
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の-128dBuという数値は、この価格帯の製品としては非常に優秀であり、業務用機器に迫るレベルです。これは、特に静かな音源の録音や、感度の高いマイクを使用する際に、その真価を発揮します。
最大入力レベル:9dBu(最小ゲイン時)
これは、マイク入力がクリップせずに受け入れられる信号の最大値です。
ハイエンド機種と比較すると、「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の+9dBuという数値はやや低めです。
そのため、ドラムの録音やエレキギターアンプの近くでの録音など、非常に音圧の高い音源を扱う際にはクリッピング(音割れ)を起こす可能性があります。
この点は「Scarlett 8i6」のマイク入力における唯一の弱点と言えるかもしれませんし、低価格帯のオーディオインターフェイスはデジタル部分は強くても、こういったアナログ部分が若干弱い傾向があります。
しかし、ボーカルやアコースティックギターなどの一般的な録音では、上記のスペックでもまず問題になることはありませんし、「Scarlett 8i6」にはPADスイッチが搭載されており、入力レベルを10dB下げることができます。
さらに、XLR端子が2つしかないこのモデルで、複数のマイクを使用してドラムを至近距離で録音するような人はいないと思いますので、実用上この点が問題となることはあまりないと思います。
ただ、ヘッドルームが低いため、入力信号が飽和しやすく、録音時にわずかに「丸み」やコンプレッションのような効果がかかる可能性は考えられます。人によっては昔のMTRのようにかえってミックスの中で音が馴染みやすくなるという感じる場合もあるかも知れません。
ゲインレンジ:56dB
ゲインレンジは、マイク入力の信号を増幅できる幅を表します。この数値が大きいほど、出力の低いマイクでも十分な音量で録音できます。
一般的なゲインレンジの目安は以下の通りです。
50dB以下:出力の低いダイナミックマイクでは、ゲインが不足する場合があります。
55dB前後:大半のコンデンサーマイクやダイナミックマイクで十分なゲインを確保できます。
65dB以上:リボンマイクなど、出力が非常に低いマイクも外部プリアンプなしで直接接続できます。
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の56dBというゲインレンジは、一般的なコンデンサーマイクやダイナミックマイクでの使用には十分な性能です。
ただ、感度の低いダイナミックマイクを音源から離して使用する場合など、より多くのゲインが必要になる場面では、外部プリアンプの追加を検討する必要がありそうです。
◇可変ライン入力 1-2
周波数特性20Hz - 20kHz ± 0.1dB
可変ライン入力1-2の周波数特性は、マイク入力と同様に20Hz - 20kHz ± 0.1dBです。
この数値は、プロの現場でも通用するレベルの優れた性能を示しています。外部機器(シンセサイザー、ハードウェアコンプレッサーなど)を接続した際に、元の音源の周波数バランスを忠実に再現できます。
ダイナミックレンジ110.5dB(A特性)
ライン入力のダイナミックレンジは110.5dBです。これはマイク入力の111dBに匹敵する、優れた数値です。
ハイエンド機種と比較するとわずかに下回りますが、こちらも以前であればプロの現場でも問題なく使用できると言われていたレベルです。
THD+N<0.002%
マイク入力の0.0012%に迫る非常に低い数値で、人間の耳ではほとんど聞き分けができないレベルです。
接続した外部機器からの信号が、ほとんど歪みやノイズを加えることなく、極めてクリアな音質で録音できます。
最大入力レベル22dBu(最小ゲイン時)
非常に高い数値で、プロ仕様のミキシングコンソールや外部マイクプリアンプなど、高出力の業務用機器からの信号も余裕を持って受け入れることができます。
クリッピングの心配はほとんどなく、様々な機器との組み合わせにも柔軟に対応できます。
ゲインレンジ56dB
ライン入力のゲインレンジも56dBと広いです。
出力の低いアナログシンセサイザーやヴィンテージ機材など、様々なレベルのライン信号を適切な音量で録音できます。外部機器の種類を選ばず、柔軟に対応できる優れた性能です。
◇インストゥルメント入力
周波数特性 20Hz - 20kHz ± 0.1dB
マイク入力やライン入力と同様に、周波数特性は非常にフラットです。ハイエンドクラスと呼べる優れた性能で、楽器本来の音色を忠実に捉えることができます。
ダイナミックレンジ 110dB(A特性)
こちらもハイエンド機に比べると若干小さい数値であるものの、優秀な数値です。
THD+N <0.03%
前記のマイク入力・可変ライン入力のスペックに比べると数値が大きめです。
ギター入力回路がトランジスタやJFETバッファを通る影響で、わずかに色付けが生じる可能性がありそうですが、ギター録音の用途ではむしろ自然なことなので特に気になるレベルではないと思われます。
最大入力レベル 12.5dBu(最小ゲイン時)
十分なヘッドルームがあるため、アクティブピックアップを搭載したギターや、ブースターペダルを使用した場合でも、クリッピングの心配はほとんどありません。
ゲインレンジ 56dB
幅広いゲインレンジをカバーしているため、ほぼ全ての楽器に対応できるレベルです。
インピーダンス 1.5MΩ
楽器用入力端子のインピーダンスは、ギターやベースの音質に大きく影響します。
1MΩ以上あれば、高音域が失われる「ハイ落ち」を防ぎ、透明なサウンドで録音できます。
最近では2MΩ以上の製品も増えていますが、1.5MΩでも実用上全く問題ありません。
◇ヘッドフォン出力
ダイナミックレンジ 104dB(A特性)
ダイナミックレンジは、ノイズフロアと最大音量の幅を示す指標です。
ヘッドフォン出力のダイナミックレンジは、リスニング環境のノイズの少なさや、音の細かなニュアンスの再現性に影響します。
ヘッドフォン出力のダイナミックレンジの目安は以下の通りです。
90dB: 安価な機器の最低限のレベルです。
100dB以上: 音楽制作に十分な、透明度の高いサウンドです。
110dB以上: ハイエンドスタジオクラスのレベルです。
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の104dBという数値は、ハイエンド機には及ばないものの、可聴ノイズはほとんどありません。
THD+N <0.002%
ヘッドフォン出力のTHD+Nは0.002%未満です。
一般的なTHD+Nの目安は以下の通りです。
0.01%以下: ハイファイオーディオの水準です。
0.005%以下: 高級オーディオ機器のクラスです。
0.001%前後: 計測器レベルです。
この数値は非常に低く、人間の耳で歪みを判別することは不可能です。クリアで忠実なモニタリングを可能なレベルです。
最大出力レベル 7dBu
ヘッドフォン出力の最大出力レベルは+7dBuです。
一般的な目安(32Ω負荷時の目安)は以下のとおりです。
+4 dBu(1.23 V RMS):実用最低限、感度の高いヘッドフォン向き
+7〜+10 dBu(1.73〜2.45 V RMS):大半のスタジオヘッドフォンを十分に駆動可能
+14 dBu以上(5 V RMS近く):600Ωヘッドフォンや非常に感度の低いモデルも余裕
一般的なモニターヘッドホンを駆動させるには十分なレベルです。
しかし、インピーダンスが極端に高いヘッドホンを接続した場合には、十分な音量が得られなかったり、迫力が不足したりする可能性があります。
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」にはS/PDIFデジタル出力端子が搭載されているため、外部のヘッドフォンアンプを接続して、よりパワフルにヘッドホンを駆動させるという選択肢が考えられます。
Impedance <1Ω
ヘッドフォン出力の内部抵抗を表す指標です。出力インピーダンスが低いほど、接続するヘッドホンの周波数特性に影響を与えず、安定した音質を保つことができます。
一般的な目安は以下の通りです。
2Ω以下: 優秀なレベルで、インピーダンスが異なるヘッドホンを接続しても音色の変化はほとんどありません。
1Ω以下: ハイエンドクラスの水準です。
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の出力インピーダンスは1Ω未満であり、ハイエンドのヘッドフォンアンプに匹敵する優れた性能を持っています。これにより、ほぼすべてのヘッドホンを、その本来の周波数特性で鳴らすことができます。
◇ライン/モニター出力
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」をサブ機として使う場合、ヘッドフォン出力を使うケースが多いかもしれませんが、ライン/モニター出力のスペックも非常に優秀です。
ダイナミックレンジ(ライン出力) 108dB
出力信号のノイズの少なさや、音の細かなニュアンスの再現性を示す指標です。
90dB:安価なオーディオ機器の最低限のレベル
100dB以上:音楽制作に十分な、透明度の高いサウンド
110dB以上:ハイエンド・プロレベル
118dB以上:計測限界級
高級機と比べるとわずかに劣りますが、ほぼハイエンド機種と同等のダイナミックレンジを持っており、人間の耳では聴き分けが困難なレベルなので、実用上全く問題ありません。
THD+N <0.002%
出力信号にどれだけ歪みやノイズが含まれているかを示す指標です。
0.01%以下:ハイファイレベル
0.005%以下:高性能なスタジオ機材のレベル
0.001%前後:計測器レベル
この数値は非常に低く、人間の耳で歪みを判別することは不可能です。
計測器レベルの精度で、クリアな音を出力します。
最大出力レベル(0 dBFS)15.5dBu
デジタル信号が最大値(0 dBFS)に達したときのアナログ出力電圧で、この数値が高いほど、業務用機器との接続時に十分なヘッドルームを確保でき、安定した信号伝送が可能になります。
一般的な目安は以下の通りです。
+12dBu以下: コンシューマー向けの水準です。
+16〜+18dBu: 業務用水準で、十分なヘッドルームを確保できます。
+20dBu以上: ハイエンドの業務用機器のレベルです。
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の+15.5dBuという数値は、一般的な業務用機に比べると控えめですが、+4dBuを基準とするミキサーやモニタースピーカーとの接続には問題ありません。
ただし、+24dBu対応の超高入力耐性モニターに接続する場合、出力を最大にしてもモニターの性能をフルに引き出せず、音量が不足したり、余裕がないと感じたりする可能性があります。
しかし、「Scarlett 8i6」をそのようなハイエンドな環境で使用する人はいないと思いますので、通常の用途では問題になることはほとんどないと思われます。
◆FOCUSRITE「Scarlett 8i6 (gen. 3)」のその他のメリット
上記のとおりScarlett は音質面で一定のクオリティを確保しているだけでなく、以下のように機能性の点でもメリットがあります。
◇電源スイッチが付いている
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の背面には電源スイッチが搭載されています。
複数のオーディオインターフェイスを使い分ける場合、電源スイッチは便利です。
Scarlettの電源をオフにしておけば、別の機材を使用している際にトラブルを未然に防げます。
5万円以下のオーディオインターフェイスで電源スイッチを備えている機種は少ないため、この点は大きなメリットです。
以前に使用していたMOTU「M2」にもスイッチが搭載されていましたが、MOTU「M2」を長らく使用していた理由の1つは音質面だけでなく、スイッチの存在などの利便性のよるところもありました。
なお、Scarlettであっても入出力数が少ないモデルは電源スイッチが無いので注意が必要です。

◇ソフトウェアミキサーがシンプルで使いやすい
オーディオインターフェイスに付属するソフトウェアミキサーは、ノートパソコンのような小さな画面での作業には不向きな場合があります。しかし、「Scarlett」シリーズに付属する「Focusrite Control」は、比較的分かりやすい構成が魅力です。

RMEやApogeeなどに付属するハイエンドなソフトウェアミキサーに比べると出来ることは限定されていますが、その分、構成がシンプルで操作が簡単であるため、外出先でも直感的に扱うことができます。
この使いやすさは、スピーディーな作業が求められる自宅外での録音環境において、メリットだと思います。
なお、ノートパソコンの小さい画面で「Focusrite Control」の画面を開くと、PC画面に収まらないことがありますが、Windowsの設定でディスプレイ表示の拡大率を変更することでPC画面に収めることができます。
◇可愛らしいデザイン
デザインについては個人の好みに左右される要素ですが、初期モデルと比べて最近の「Scarlett」シリーズのデザインは可愛らしく洗練されていると感じます。
音楽機材は黒やシルバーといった無機質なカラーになりがちですが、FOCUSRITEの象徴である鮮やかな赤い筐体は、部屋に置いてもインテリア的な存在感を放ってくれます。
また、暗いライブハウスやスタジオでの使用時には、その色が目立つため、間違って踏まれたり、見失ったりするリスクが低いという実用的なメリットもあるかも知れません。
個人的には、ARTURIA「MINIFUSE」シリーズの次に好きなデザインです。
◇ミキサーとしての活用
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」のマニュアルには、以下のような機能の記載があります。
Scarlett 8i6 には、Focusrite Control で設定したミックスの構成をハードウェア内に保存できる機能 があります。この機能により、たとえば、コンピューターを使用して本装置をステージ上のサブ ミキサーとして設定し、その設定を本装置にアップロードすることができます。装置の一部を構 成するシンプルなローカルミキサーとして Scarlett 8i6 を使用して、複数の楽器の全体的なミック スを制御できます。
つまり「Scarlett 8i6」本体にミキサー設定を保存できるため、PCに接続していない状態でも簡易的なミキサーとして使用できます。
6つの入力端子を活かし、複数の楽器の音量を調整するサブミキサーとして機能させることが可能です。
本格的なミキシングには専用のミキサーのほうが使い勝手が良いのは明らかですが、手元にミキサーがない状況で一時的にミキサー機能が必要になった際には、この機能が役立つことがあるかも知れません。
ステージ上での簡易的なミキシングや、複数の楽器のバランス調整などで活用できる可能性があります。
◇アウトボードと組み合わせてエフェクトループを構成できる
Scarlett 8i6は入出力数の多さを活かしてエフェクトループを構成することができます。

以下の方法でダイレクトモニタリング使用時にエフェクトが掛かった音だけを演者に返して、DAW上にはエフェクトの掛かっていない音を録音するということも可能です。
・Line Out 3-4 → 外部エフェクター入力
・外部エフェクター出力 → Line In 3-4 に戻す
・Focusrite Controlの「OUTPUTS」で「Custom MIx」を選択
・Focusrite Controlの「Hardware Inputs」で「Analog3-4」を選択
(「Analog1-2」はミュート)
・DAWのインプットには「Analog1-2」を割り当てる
この方法をとると、ゼロレイテンシーでのモニター環境を構築できます。
詳細は以下の記事を参考にしてください。
同様のゼロレイテンシー環境はBOSSの「GT-1000」などの一部のギター用マルチプロセッサーを使うことでも実現できますが、手元にあるエフェクターがドライ音・ウェット音のルーティングに対応していない場合や、ギター録音以外でエフェクトを掛けた音を演者に返しつつゼロレイテンシーを実現したい場合にはScarlett 8i6は便利だと思います。
3万円以下でアウトボードと組み合わせたモニタリング環境が構築できるオーディオインターフェイスはかなり貴重だと思います。
◇起動が早く、あまり熱くならない
この点は、DSP「非」搭載のオーディオインターフェイスに共通するメリットですが、Scarlettは起動が早く筐体もあまり熱くなりません。
メインで使っているSymphony Desktopは起動にも時間がかかりますし、夏は筐体がかなり熱くなるので、オーディオインターフェイスの下にファンを設置したほうが良かったり、風通しの悪い狭い場所には設置できなかったりと面倒に感じることもあります。
Scarlettのように素早く、場所や環境を選ばずに雑に扱ったり、持ち運びにも気を使う必要がないことはメリットであると思います
◆FOCUSRITE「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の性能の評価
オーディオインターフェイスは、基本的にスペックと音質の良さが密接に関係しますが、「Scarlett 8i6 (gen. 3)」のスペックを見てみると、5万円以下の価格帯の機器としては、それなりに優れた性能を持っていることが分かりました。
近年、MOTU、SSL、AUDIENTといった競合他社が、低価格帯でも非常に音質の良い製品を次々と投入していますが、このような市場の動向に対応するためにFOCUSRITEも「Scarlett」シリーズの性能を着実に向上させてきたのだと思います。
音質と機能性のバランス
音質に関連するスペック上ではMOTUやSSL、AUDIENTの製品のほうが優れている点が多いのですが、Scarlett 8i6 (gen. 3)自体も1トラックあたりで見た場合の音質は聴覚限界に近いレベルで優秀なので、トラック数があまり多くないプロジェクトであれば他社製品と比較しても明確に聞き分けできる程度の大きな差がある訳でもありません。
そして、Scarlett 8i6 (gen. 3)は「Scarlett 8i6 (gen. 3)」は「Focusrite Control」というソフトウェアミキサーを搭載しており、PC上でオーディオルートの設定やモニターミックスの作成を直感的に行うことができ、柔軟な制作環境を構築できるというメリットがありますし、操作性にも優れており特別な癖もないため、説明書を見なくてもスムーズに使えるというメリットがあります。
宅録に最適な設計思想
MOTU、SSL、AUDIENTの製品が、ホームレコーディング環境ではオーバースペック気味と言える程度に音質を追求しているのに対し、Focusrite Scarlettシリーズは、「一般的な宅録環境で十分なレベル」に留めつつ、そこに少しの余裕を持たせることでコストを抑えています。
その上で、ソフトウェアミキサーのような便利な機能を追加することで、総合的な操作性の良さ・使いやすさと、性能・コストを両立させています。
これらの優れた機能とスペックを考慮すると、現在の3万円以下のセール価格は非常に魅力的で、性能、価格のバランス、使い勝手の良さ、機能性などを考慮したの総合力では、同クラスの製品の中でも非常に高いと思われます。
◆FOCUSRITE「Scarlett 8i6 (gen. 3)」のデメリットと気になる点
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」は、その価格に対して非常に優れたスペックを持っていますが、いくつかの気になる点もあります。
◇バスパワー非対応
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の購入を決意するにあたり、最後まで悩んだのがバスパワーに対応していない点です。
同じScarlettシリーズでも、入出力が少ない機種や新しい世代の製品はバスパワーに対応しているものが多いのですが、第3世代のScarlett 8i6 (gen. 3)はアダプターからの電源供給が必須です。
バスパワーで駆動する機器は電源の不安定さから動作が不安定になったり、ノイズが発生したりするケースもあるため、あえてバスパワー非対応の機種を選ぶもおり、この点は使用目的や個人の好みが分かれる部分です。
私の場合は、自宅外での「持ち出し用」として使用することを前提としていたため、バスパワーに対応していないことはデメリットでした。
専用アダプターを持ち運ぶ手間や、アダプターを忘れてしまうと作業自体ができなくなるというリスクを考えると、バスパワー対応のオーディオインターフェイスのほうが安心感があります。
最近のオーディオインターフェイスには、バスパワーに対応しつつ、別途電源供給も可能な機種も増えていますので、そういった機種のほうがさらに安心感があるかも知れません。
◇マイク入力のヘッドルームが低め
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」は多くの点で優れたスペックを持っていますが、マイク入力の最大入力レベルが+9dBuであり、最近の機材と比較するとヘッドルームが低めです。
ボーカルやアコースティックギターの録音であれば問題になることはほとんどないと思いますし、PADスイッチも備えており、XLR端子が2つしかない「Scarlett 8i6」で、音圧の高いドラムの録音を試みる人はいないと思いますので、実用上大きな問題となるケースは少ないかも知れません。
ただ、エレキギターを実機のアンプに接続し、キャビネットの前にマイクを立てて録音するような場合、ヘッドルームの低さがクリッピングの原因になる可能性があります。
また、INSTを「オン」にして(インピーダンスを変えて)アクティブピックアップ(EMG57/66)を搭載したギターの音声を入力したところ、時々「プチ」というノイズが入ることがありました。
クリップしているというよりも、処理が追いついていないことによるノイズという印象でありヘッドルームに起因する問題か分かりませんでしたが、パッドをオンにしたところプチノイズは無くなりました。
ヘッドルームが低いことで録音された音声にわずかな「丸み」やコンプレッションのような効果がかかることもあるかも知れません。
個人的にはヘッドルームが高すぎる「Symphony Desktop」とは異なるアナログ的なサウンドも欲しかったため、この点はむしろ購入の理由の一つとなりましたが、人によってはこの特性が気になるかもしれません。
◇オーディオインターフェイス本体で操作できない機能がある
「Scarlett 8i6 (gen. 3)」では、一部の機能を本体のノブやボタンで直接操作できず、「Focusrite Control」という専用ソフトウェアから設定する必要があります。
INSTボタン:ギターやベースなどの楽器を直接接続する際のゲインレンジと入力インピーダンスの切り替え
AIRモード:Focusriteの伝説的なISAマイクプリアンプをエミュレートする機能
PADスイッチ:入力信号のレベルを10dB下げる機能
ソフトウェアの構成がシンプルなので、特別面倒という訳でもありませんが、インピーダンスの切替えやPADスイッチなどの基本的な操作は、本体で操作できたほうが有り難いです。
普段から「マイク1本」「ギター1本」ずつでしか録音をしないという人であれば、「インプット1」のINSTをオフにしてマイク専用にし、「インプット2」のINSTをオンにしてギター直挿し用にしておくと効率的かも知れません。
なお、同じScarlettシリーズでも、バージョンや入出力端子数が違う機種では本体上で上記の機能を直接操作できる製品もあります。
◇入出力レベルのメーターがない
「Scarlett」シリーズには、入出力レベルを正確に表示するメーターがありません。
音声信号が入力されるとゲインノブの周囲にあるLEDの色が変わるため信号やクリップの有無は判断できるのですが、正確な入力レベルを確認するにはPC上で専用ソフトウェア「Focusrite Control」を立ち上げる必要があります。
外出先でノートパソコンの小さな画面で作業する場合、ESI「Amber i4」やMOTU「M」シリーズのように、オーディオインターフェイス本体に視認性の高いメーターが付いている機種の方が便利かも知れません。
私は普段からPC上でレベル確認を行っているため特に問題はありませんが、イヤホンでYouTubeの動画や音楽などを聴いた後、再生を停止したつもりであったものの、実際には停止されていなかった、ということがあります。
このような場合、オーディオインターフェイスだけでは音声が出力されているかどうかを判断するのが難しく「気づいたら音楽が鳴りっぱなしだった」という状況に陥ることがあります。
たいした問題ではありませんが、メーター付の機材に慣れている人は気になるかも知れません。
◇サンプルレートが合っていないとDAWがフリーズする(※この問題は解決済です)
これは私の環境要因の問題かも知れませんが、Scarlett 8i6 (gen. 3)のサンプルレートと、Studio One(DAW)のソング設定上のサンプルレートが一致していないと、ソングデータを読み込んだ時にStudio Oneがフリーズします。
そして、タスクマネージャー上で「タスクの終了」をクリックしてもStudio Oneが落ちない状態になり、PCの電源を切ろうとしてもStudio Oneが引っかかってPCが落ちない状態になりました。
(電源ボタン長押しで落とすしかない)
そのため、ソングデータを読み込む際に、Scarlett 8i6 (gen. 3)のサンプルレートをソング設定上のサンプルレートに一致させておく必要があるのですが、ソングデータを読み込まないとソングのサンプルレートが確認できないというジレンマに陥りました。
また、ソングデータを立ち上げた状態でソング設定上のサンプルレートを変更しようとすると、同様にStudio OneがフリーズしてPCの電源が切れない状態になります。
ROLAND「Rubix24」の場合にはそのようなことはなく、ソング設定上のサンプルレートを変更すると、Rubix24のサンプルレートも自動で変更されるので、Scarlett 8i6 (gen. 3)は不便であると感じます。
私はScarlett 8i6 (gen. 3)をサブ機として使うので、サンプルレートについては他のオーディオインターフェイスを使って合わせることで解決できるのですが、オーディオインターフェイスを1台しか持っていない環境では不便さを感じる可能性がありそうです。
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【2025年8月19日追記】
フォーカスライトのサポートに英語で「解決方法があれば教えてください」と送ったところ、2日程後に「これを試してくれ」という回答があり、バージョンの古いドライバ(focusritedriver_4.124.3_5)が送られてきました。
このドライバをインストールし直したところ無事に上記の問題が解決し、Scarlettの設定と異なるサンプルレートのソングデータを読み込みこんだり、ソングのサンプルレートを変更すると、Scarlettのサンプルレートが自動で変更されるようになりました。
これでストレスが軽減されました。
なお、古いドライバのexeファイルを開いてインストールしようとする時に「Focusrite Notifier」というアプリが終了させる必要があるのですが、自分が持っているPC2台のうち1台(Windows10)ではドライバのインストールファイルの指示に従ってこのアプリを終了させようとしてもエラーになってしまい、タスクマネージャーからアプリを終了させようとしても終了させることができませんでした。
困ったのでタスクマネージャーの「詳細」にある「Focusrite Notifier」を右クリックしてファイルのある場所を特定し、「Focusrite Notifier」のファイルを一時的に別のフォルダに移してPCを再起動し(Focusrite Notifierが立ち上がらない状態になる)、その後に古いドライバをインストールしたところ成功しました。
(この方法は適切な方法ではないと思いますのでオススメはしません。同様の問題があった時にはサポートの対処方法を確認するのが良いと思います。)
サポートからの回答も比較的早く(日曜日夜に問い合わせて火曜日に返信あり)、老舗の大手メーカーだけあってFocusriteのサポート体制はしっかりしているほうだと思われます。
(ちなみにApogeeに別件で問い合わせた時は10分くらいで返事がきました。)
◇Output3・4の出力の音量を物理ノブで調整できない
Focusrite Scarlett 8i6のOutput3・4から出力される音量は、本体の物理ノブでは調整できません。これは低価格帯のオーディオインターフェースによくある仕様です。
Scarlett 8i6本体の音量ツマミは、Output1・2から出力される音量を調整するためのもので、Output3・4には適用されません。そのため、ソフトウェアで音量を調整せずにOutput3・4に接続したスピーカーで音を鳴らすと、最大音量が出力されてしまいます。
私はこの仕様を知らずに夜中に爆音を鳴らしてしまい、スピーカーのサランネットを吹き飛ばしました。
このような事故を防ぐため、Output3・4を使う際は、まず専用ソフトウェア「Focusrite Control」のミキサー画面で「Line Output 3-4」の音量をあらかじめ下げておき、音楽を再生しながら徐々に音量を上げていく必要があります。
◇ヘッドホン端子からの出力は特定のライン出力に固定される
Focusrite Scarlett 8i6のヘッドホン端子からの出力は、特定のライン出力に固定されており、自由に変更することはできないようです。
具体的には、ヘッドホン端子1の出力は「Line Output 1-2」に、ヘッドホン端子2の出力は「Line Output 3-4」にそれぞれ固定されています。
そのため、これらのヘッドホン端子から出力される音声信号を、他のチャンネルに割り当てることはできません。
「Line Output 1-2」と「Line Output 3-4」に同じ音声信号(例:「Playback 1-2」や「Custom Mix」など)を設定すれば、「ヘッドホン端子1」と「ヘッドホン端子2」から同じ音声信号を同時に出力することは可能です。
しかし、ヘッドホン端子と紐付けられたライン出力(例:「ヘッドホン端子1」と「Line Output 1-2」)に、それぞれ異なる音声信号を割り当てることはできません。
この点はミキサーの構造をシンプルに分かりやすくするという意図に基づく設計なのだと思いますが、マニュアルやミキサー画面では音声信号の流れが詳しく解説されていないため、初めて使う人にとっては戸惑う原因になるかも知れません。
◇重いプロジェクトでプチノイズが発生することがある
Scarlett 8i6に限ったことではありませんが、負荷の重いプラグインを多用するプロジェクトでは、プチプチというノイズが発生することがあります。
Symphony Desktopでは問題なく再生できるプロジェクトでも、Scarlett 8i6ではノイズが発生することがあるため、Symphony Desktopと比べるとScarlett 8i6のほうがノイズが発生するまでの許容量が低い印象です。
MOTUの「M2」もScarlettと同様の傾向が見られることから、重いプロジェクトも再生できるSymphony Desktopのほうが特殊なのかも知れません。
ただ、Scarlett 8i6やMOTU M2はDAWを起動したままYouTubeなどの他のアプリケーションで音声を再生してもノイズが発生しにくいというメリットもあります。
一方で、Symphony DesktopはDAWが起動している状態で他のアプリケーションの音声を再生しようとするとノイズが発生する傾向があるります。
Symphony DesktopでYouTubeなどを再生する際は、一度DAWを終了させるか別のオーディオインターフェイスやワイヤレスヘッドホンなどを使う必要があるので、この点はSymphony Desktopのほうが面倒です。
要するに、Symphony DesktopはDAWでの再生を常に優先しているような印象があり負荷が高いプロジェクトにも耐えることができますが、DAWを起動している間は他のアプリの音声再生が不安定になります。
一方で、ScarlettyややMOTU M2DAWを起動したままでも他のアプリの音声を比較的安定して再生できる利点がありますが、DAW内の負荷が大きくなるとノイズが発生しやすく、一長一短でどちらが優れているという問題ではないように思われます。
◇マニュアルやミキサー画面の説明が分かりにくい
Focusrite Scarlettのマニュアルは、一部に中国語フォントの漢字が混じっていたり、直訳調の分かりにくい文章が見受けられたりします。
Scarlettの機能はシンプルで簡単なので、オーディオインターフェースやミキサーの扱いに慣れている方であればマニュアルを読まずとも直感的に操作できると思いますが、初心者の方やマニュアルをしっかり読み込みたい方にとっては戸惑うかもしれません。
一方で、日本企業のRolandの製品マニュアルは、非常に丁寧で分かりやすく、説明の分かりやすさという点では大きな違いを感じます。
また、専用ソフトウェアのFocus Controlは、ミキサー画面がすべて英語で記載されており日本語化に対応していないようです。
こちらもミキサーを使ったことがある人であれば10分くらい操作すれば使い方は分かると思いますが、初心者や英語が苦手な人は混乱するかも知れません。
(なお、第4世代のScarlettシリーズのソフトウェアは日本語化に対応しているようです。)
◇リセールバリューは低め
「世界一売れているオーディオインターフェイス」とも言われる「Scarlett」シリーズは持っている人が多いですし、エントリーモデルという印象が未だに強いため、中古市場での価格が低い傾向にあります。
また、定期的に新製品が発売されるため、旧モデルはさらに中古価格が下がりやすい傾向があります。
これは中古で安く手に入れたいユーザーにとってはメリットですが、既にScarlettシリーズを持っていて買い替えを検討しているユーザーにとっては、次の機材の購入資金を確保しにくいというデメリットにもなり得ます。
◇スペック面でより性能は高い選択肢は他にもある
今回は「ヘッドホン端子が2つあるオーディオインターフェイス」という条件で比較を行ったため候補には挙がりませんでしたが、5万円以下の価格帯には「Scarlett」シリーズよりもスペック的に優れている製品が他にもあります。
例えば、Audientの「iD14mkII」や「iD4mkII」は、音質面において非常に優れた数値を叩き出しています。
使い勝手や機能には多少の癖がありますが、音質に限って言えば、この価格帯ではAudientの音質性能はトップクラスです。
ただ宅録環境では聞き分けできるレベルを超えており、オーバースペックと感じる人もいるかも知れません。
「iD14mkII」と「iD4mkII」は新品の価格は値上がり傾向にありますが、中古市場での価格は安定しており、「iD4mkII」はフリマサイトで2万円前後で購入することができます。
Apogeeの「BOOM」も、機能や入出力数に制約がありますが「Scarlett」シリーズよりも音質に関係するスペックが高い上に、ハードウェアDSPまで搭載されています。
「BOOM」ヘッドホン出力から出力される音質の評価も高いため、適切なスピーカー環境を構築することが困難な宅録勢でも音質の高さを実感しやすい製品だと思います。
他にも、高性能な部品を搭載して業界を驚かせたMOTU「M2」や、人気の高いSolid State Logicの「SSL2 MkII」なども、音質面で見ればスペック的に「Scarlett」シリーズを上回っている部分が多いです。
操作性や使い勝手などを含めて総合力で考えると「Scarlett」シリーズは魅力的な製品であることは間違いありませんし、トラック数が20個程度の宅録環境では音質面で明確な違いを感じ取れることは少ないかも知れませんが、「少しでも音質が良いオーディオインターフェイスが欲しい」という人にとっては「Scarlett」シリーズ以外にも様々な選択肢があります。
今回、私が「Scarlett 8i6 (gen. 3)」の購入を決めたのはセール価格というタイミングであったことによる影響も大きく、通常価格であれば他のオーディオインターフェイスを選んでいた可能性はありますし、すぐに他の機材に浮気をする可能性も十分にあります。
近年、オーディオインターフェース市場には、Focusriteだけでなく、Audient、Apogee、MOTU、Solid State Logicなど、長年にわたり大型コンソールや業務用機材を開発してきた名門メーカーが多数参入しており、これらのメーカーはプロフェッショナルな音響技術を注ぎ込み、従来では考えられなかったような高いスペックの製品を低価格で提供するという「スペック&コスパ戦国時代」になっています。
その結果、現在では上記のような有名メーカーの製品の多くは高い音質を誇っており、音質面での差は小さくなってきています。
そのため、上記のようなメーカーの製品であれば、音質だけでなく、使いやすさ、デザイン、ブランドイメージ、サポートの良さ、耐久性、ドライバ・ソフトウェアの安定性などを総合的に判断して選ぶという考え方もアリではないかと思っています。
◇他人の目が気になるタイプの人には合わないかも
近年、「Scarlett」シリーズは非常に優れたスペックを持ち、ホームレコーディング環境ではほとんど問題なく使用できますが、いまだに「Scarlettは初心者向けモデル」というイメージが根強く残っているのも事実です。
私はScarlettをサブ機として購入していますし、実用性を重視して機材を選ぶタイプなので他人の目は気になりませんが、中にはブランド力の高い機材を使うことで音楽制作へのモチベーションが高まる人もいます。
また、プロとして他人の録音依頼を受ける場合、Scarlettを使っていると依頼者への説得力に欠ける可能性があります。
そのため、業務用途で使う予定がある場合や、他人の評価が気になる場合は、よりネームバリューとブランド力のある製品を選ぶほうが良いように思われます。
