29歳無職、中国で警察に職質される
シルクロード無職旅の続きです。
中国・新疆ウイグル自治区の伊寧という町で、警察に職質されてパスポートとスマホを没収されました。
「また面倒なことになった…」と覚悟した数時間後、同じ警官にランチをご馳走になり、地元の「新疆版二郎系ラーメン」まで案内されます。
緊張とゆるさが同居する、中国の最果てで過ごした一日の記録です。
アラサー、安宿を卒業する
歳を取るごとに自由を失うとは、このことだなと思いました。
もう、安宿のドミトリーに泊まるのが、ちょっとしんどい。

いい雰囲気だったが移ることにした
20代前半のころは「バックパッカーは安宿のドミに泊まってなんぼ」と変な意地もありました。30歳を目前にすると、シャワー室のカビやびしゃびしゃの床など、細かいことが気になり始めます。
「別にお金がないわけじゃないしな…」
と自分に言い聞かせ、伊寧で泊まっていた安宿・青骊客栈から別のホテルへ移ることに。朝起きると宿には誰もいなかったため、挨拶もできないまま、そっと宿を出ました。
バックパックを背負って解放西路へ出ます。

ビルが立ち並ぶメインストリートは、思っていた以上に栄えていました。行き交う若者たちもどこか垢抜けています。私の頭のなかにあった「辺境の町・伊寧」のイメージは、あっさりと上書きされました。
新疆で宿を探すのは大変です
北京では普通に泊まれたホテルが、新疆では「外国人お断り」で焦りました。

宿を移るため、まずは如家ホテル(中国全土にあるホテルチェーン)を2軒あたってみました。
しかしどちらも「このホテルでは外国人は宿泊不可」とあっさり断られます。以前、北京の同じホテルには泊まれたのに、新疆ではルールが違うのです。
宿を探すのがこんなにも大変なのか…
2軒目の如家ホテルのお姉さんが「このホテルなら大丈夫」と教えてくれたのが、解放西路沿いにある「瑞陽皇冠酒店」でした。名前からして明らかに高級ホテル。
一応ホテルのリンク貼っておきます:
体力と機嫌はお金で買う
行ってみるとなかなか立派な外観でした。「格調高いというよりは金をかけた造り」という表現がしっくりくる、中国独特の趣きでした。
フロントで恐る恐る料金を聞いてみると、1泊188元。思っていたほど高くはなかったです。
つい貧乏旅行者らしく「部屋に窓はありますか?」と聞いてしまうと、フロントのお姉さんは「房間沒問題!」と、少し呆れたように答えます。あなたのような貧乏旅行者が気にするようなことではない、部屋は全く問題ないから安心しろ、そう言わんばかりの口調でした。

部屋に入ってみると、ツインルームにデスクとソファ、清潔な水回りと想像以上のクオリティでした。ベッドもふかふかで気持ちがいい。安宿のドミトリーの3倍以上の価格でも、精神的な消耗を考えればむしろ安く、アラサーになって「体力と機嫌はお金で買うものだ」と実感しました。
宿が決まって気持ちが楽になり、ベッドでごろごろ。1時間ほどしてから外に出ました。
平和な人民公園でダンスを見る

町の中心にある人民公園へ入ろうとしたところ、入口で警官に呼び止められました。
パスポートを見せるよう言われます。まあ新疆ではよくあることなんですが、慣れていないと緊張します。「どこから来た?どこへ行く?どこに泊まっている?」と、矢継ぎ早に定型文のような質問が続き、しまいには泊まっているホテルに確認の電話まで入れられました。
心の底から、「ちょっと高くても瑞陽皇冠酒店(伊寧の高級ホテル)に移動しておいてよかった…」と思いました。青骊客栈のような、パスポートのコピーすら取らない宿に泊まり続けていたら、もっと面倒なことになっていたはずです。やっぱり私は旅運がいい。
公園自体は、拍子抜けするほど平和です。

濃い緑に包まれた遊歩道を歩き、広場へ抜けると、中年男女が音楽に合わせてダンスを踊っていました。ウイグル風のリズムもあれば、いかにも中国っぽい歌謡曲もあり、民族も年齢もごちゃ混ぜになって、みんな楽しそうでした。
少し離れたベンチでは、中年の男女がトランプをしていました。

不注意からの職質、そしてパスポート没収
人民公園を抜け「ウイグル民居一条街」へ向かいました。

伝統的なウイグルの家々が並ぶ通りで、門構えの装飾や色使いがとても華やかです。ウイグル族の他に、カザフ族、漢族、ウズベク族、シボ族、タタール族が居住しているそうです。

カシュガルの土色の町並みよりも、伊寧は全体的に色彩が明るい印象を受けます。鮮やかな青や緑で塗られた扉を見つけるたびに、ついシャッターを切ってしまいました。

そうして写真を撮っていたところ、意図せずパトカーを写してしまいました。
直後、警官に呼び止められます。
「ちょっとパスポートを見せて」
そのままパスポートとスマホは没収され、警官はパトカーでどこかへ…
別の警官に「近くの店で待て」と言われ、薄暗い小さな食堂に(やや強引に)入れられました。
やがて、どこから来たのか3人の警官が集まり、店内の空気は緊張で張りつめます。

「パトカーを撮っただけで、ここまでされるのか」と驚きつつも、私は不思議と冷静でした。新疆に来ると決めた時点で、こういうことは起こり得ると、どこかで覚悟していたのかもしれません。さすがにパトカーを撮影しただけで逮捕なんてことは無いだろうけど、面倒なことにはなったのは間違いないな…
その薄暗い食堂の中で待っていると、客と思しきカザフ系のおじいさんが話しかけてきました。かつて中央アジアやロシアで商売をしていたそうで、片言の日本語やロシア語、中国語を混ぜながら、にこにこと話し続けます。彼の明るいキャラクターのおかげで、張り詰めた空気が少しずつほどけていくのを感じました。
警官4人に囲まれて取調べを受ける
中国という国は人を待たせるのが好きなようです。
30分ほど経ってようやくパトカーが戻り、眼鏡をかけた若い警官が降りてきました。どうやら英語が話せるために呼ばれたようです。
彼が私の向かいに座り、残りの3人は周りを囲みます。まるで取り調べのような配置。

(写ルンですで撮影)
渡航理由や目的地など定型通りの質問をしたあとで、彼は「中国では、パトカーや警察施設を撮影するのは禁止だ」と言いました。しかしその口調は驚くほどゆるく、説教というよりは、少し長めの世間話のように聞こえました。警官に囲まれているのに、どこかゆるい雰囲気が漂う。パスポートとスマホも返してもらえることになりました。
最後に「これからどこへ行んだ?」と聞かれ、「喀賛其民俗旅游区(カザンチ民俗観光区)に行くつもりです」と答えると「じゃあ送って行くよ」と。
ん?この警官は何を言っているんだ?と一瞬わけが分からなりましたが、せっかくなので送ってもらうことにしました。
尋問が長引いたことに対する詫びなのか、それともただの厚意なのか…
真意はわからないものの、悪意がないことは感じ取れました。
警官に観光案内をしてもらう

「せっかくだし案内するよ」と。
眼鏡の警官は一度公安局に戻って私服に着替え、そのまま観光に付き合ってくれることになりました。彼の名前は周亦凡。伊寧生まれの25歳で、漢族ですがウイグル語も少し話せるそうです。
取調べをしてきた警官と、なぜか一緒に観光する。不思議な感覚でした。

周氏と2人で喀賛其民俗旅游区(カザンチ民俗観光区)を歩きました。この旅游区は2007年に政府が整備した少数民族居住区で、築100年のウイグル族の古民家やウズベク族の豪邸などがあります。石畳にパステルカラーの民家、美しい門の装飾。曇り空の下、人通りは少なく静かな住宅地のようでした。
警官にケバブをご馳走になる
旅游区内のケバブ屋で昼食をとることに。

周氏は店主とウイグル語で軽口を叩きながら、羊と鶏の串を次々と勧めてくれます。特産の飲み物・カワースは、蜂蜜の香りがする微炭酸の麦芽飲料で、スパイスの効いた羊肉と妙に合います。彼に日本での生活について話し、彼は警察の仕事や伊寧での暮らしについて話してくれました。

漢族の周氏はウイグル文化に溶け込んでいるようでした。「毎日ナンを食べるよ」と周氏は笑います。新疆生まれ・新疆育ちだと当たり前のことかもしれないですが、ウイグル文化に溶け込む漢族というのを初めて目にして、印象深い経験となりました。
食事代はすべて周氏が払ってくれました。
払ってくれるのだろうとは思っていましたが、やはり嬉しかったです。
旅游区の入り口まで戻り、周氏と別れました。連絡先を交換し「なにかあればいつでも連絡してくれよ」と言ってくれました。さらに、彼の行きつけの店を教えてくれました。今泊まっているホテルの近くにあるようでした。

警察に職質され、パスポートを持っていかれ、不安になりつつも、最終的には一緒に食事をして笑っている。伊寧という町の「緊張」と「ゆるさ」が今日一日のなかで同居していたように感じます。
新疆の二郎系ラーメン「納仁(ナーレン)」で〆る
新疆で二郎系(のような麺料理)が食べられるとは思ってもみませんでした。
周氏が教えてくれた「艾尼納仁快餐館」という店です。納仁とは馬肉の燻製のこと。カザフ料理です。周氏は昼休みによく来ると言っていて、値段も高くなかったです。
10席ほどの広くはない店内で、すでに4人組の中年男性が馬肉をつまみに酒を飲で宴会をしていました。

名物の燻馬肉納仁麺を頂きました。1杯20元。
二郎系に似たその料理は、たいへん美味いものでした。

油で白濁しかかったスープに太麺が入り、その上に馬肉の燻製とにんにくがトッピングしてあります。麺はしっかりコシがあり、にんにくの刺激がガツンと広がる。馬肉の独特の旨味と臭みが合わさって、なんとも言えない中毒性がありました。
テーブルに置かれた生のニンニクを追加でトッピングしてみるのも良し。ストーブで沸かしているお茶が、温かくてさっぱりとしていて、こちらも美味しかったです。

店を出るころには、身体がぽかぽかしていました。
職質から始まった伊寧の一日を、奇妙に優しく締めくくってくれる一杯でした。
次回:世界四大草原のひとつ「ナラティ」へ!
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