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第2部_#14 汐留奇襲、孫正義への忠義


汐留の高層ビルの最上階、
26階の社長フロア。

小川が流れる
日本庭園のエントランスには、
大きな屏風(びょうぶ)が飾られていた。

エストネーションのベージュのパンツの雪と、
いつもの黒いスーツの課長は、
その隅に待機していた。

呼ばれるのか。
呼ばれないのか。

雪の心臓は
早鐘のように打ちつけていた。

どれくらい時間が経ったのか。

課長の携帯にテキストが届いた。


――いざ、出陣!


長い廊下を歩くたび、
靴底が「カチ、カチ」と乾いた音を響かせる。

壁に反射するその音は、
雪の鼓動とシンクロするかのようで、
時間がスローモーションのようにゆっくり流れていた。

それなのに、雪の胸の奥では、
小さな高揚感が弾けていた。

取締役が、
中から会議室のドアを開けた。

張り詰めた不穏な空気が、
広がっていた。


何が起こるのか知らされていない、
重鎮役員たちの視線が、
雪に刺さる。

大手広告代理店の鋭い視線が、
雪の背中を撃ち抜く。

——場違いな存在。

その無言の圧が、
雪の全身にのしかかる。


手のひらに汗がにじむ。
鼓動が止まらない。


資料を広げる。


孫正義の思いを、形にしたもの。


光が渦を巻く。
美しさと、泥臭さ。
商売という戦場の、熱狂。


時間が止まったかのように、
会議室は静まり返る。


鋭い視線が、
雪の背中を突き刺す。


数秒か、数分か
――時間の感覚さえ歪む中で、
雪は息を詰めた。



——そして。

孫さんが、顔を上げた。


「うん。」


たった一言。

笑顔だった。

取締役も、静かに頷いていた。


まだ、雪は知らない。この「うん。」が、これまでにない嵐を呼ぶということを。



この帰り、
いつものようにエレベーターは来なかった。
待つ、という選択肢が、
もう雪の中には残っていなかった。

26階から、非常階段へ。
一段、二段、三段——
自分のフロアが見えた、
その瞬間。

足が、もつれた。

次の瞬間には、
もう身体は前に投げ出されていた。

手すりに触れる暇もなく、
硬い鉄に、膝と肩と、
どこかが順番にぶつかる。
——ゴン、ゴン、と鈍い音。

「だ、大丈夫ですか!? 
救急車!」

遠くで、誰かの声がした。

「……だ、……大丈夫です……
すみません……」

言葉にならない声を
絞り出した瞬間、
こみ上げてきたのは、
ヘタヘタとした笑いだった。

立ち上がろうとした視界の端に、
エストネーションのパンツの
脛のあたりが切れて、
そこから赤黒い血がにじんでいる。

それを見て、雪は、さらに笑った。


ああ、こうなるのか。

奇襲のあと、人は——
全身の力が、抜ける。


つづく

うわぁ〜きました〜!
第2部_#15 孫正義−「看板屋できるんじゃないの?」


この物語が、今どこかの暗闇で息を潜めている方たちの、そして自分を失いかけている「誰か」の救いになりますように。

この物語は、雪の記憶と視点に基づいており、
登場する組織や人物の描写は、その時の受け止め方によるものです。

雪の不器用で必死な歩みに何かを感じていただけたら、「スキ」や「フォロー」、「コメント」で応援していただけると、とても心強いです。


『ソフトバンク黎明期・孫正義を唸らせるまで──35年間の全記録 真鍋 雪』




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