第2部_#11 孫正義−まさかの決断に震える
−−僕は素人なんだから、その中途半端な提案では完成形が想像できない。だから、僕がわかる物をみせてほしい。
そして後日、
舞台は大田区のサイン工場。
工場には、
実店舗と同じ大きさの
看板サインが
どんと取り付けられている。
黒塗りの車が停まり、
孫正義氏が静かに降りられた。
そこにいた皆に、
穏やかな笑顔で丁寧に挨拶をされた。
と思ったら、
孫さんと大手広告代理店は、
サインの「艶」をめぐって
熱心に議論を重ねていた。
商売 VS ブランド戦略、
なんか、
いつもここが噛み合ってない気がする。
(なぜ、孫さんの『商売』が通じないんだろう。どうしてダメなのかな。)
雪は不思議だった。
(この艶の違いだって、プロならわかる。でもお客さんにはほとんど誰にもわからない。そんなにブランドイメージが変わるのかな。どっちもきれい。だから、孫さんの好きな方で決めればいいのに。どうしてダメなのかな。)
雪は心の中でそう思っていた。
「そうはおっしゃいましても、、、、」
「ブランドの、、、、」
すると、孫さんが言った。
「じゃあ、多数決で決めよう!」
え――こんなに大事な、
1兆7,500億円を?
多数決で?
わあ、すごいわ!
新しいわ!
こんな決め方があったんだ。
まさか、まさか、
想像もしていなかった。
めちゃくちゃ面白い!
雪は胸が高鳴った。
そして、
孫さんは自ら多数決を取った。
「こっちがいい人?
はい、○人ね。」
「じゃ、こっちがいい人は?
はい、○人ね。」
孫さんは
満面の笑みを見せながら言った。
「ほら、やっぱり
僕の言った方になったじゃん。」
雪は、
孫さんの目の前に立っていた。
それでも、手は挙げなかった。
この忖度社会では、
答えがどうなるかは明白だったから。
いや、そんなことより――
なんてことだ、なんてことが起きているんだ。
こんな大事なことを、
まるで子どもが遊んでいるかのように決めていく。
この不可解さと圧倒的なパワーに、
雪の心は震えていた。
本当に嬉しそうに喜ぶ天才、
いや、桁が違う。怪物。
こんなのはじめて。
つづく
▷ 第2部_#12 孫正義―怪物のビジョン
−−孫社長の会議室の末席に座り、大手広告代理店プロジェクトを眺めていた雪がみたものは?
この物語が、今どこかの暗闇で息を潜めている方たちの、そして自分を失いかけている「誰か」の救いになりますように。
この物語は、雪の記憶と視点に基づいており、
登場する組織や人物の描写は、その時の受け止め方によるものです。
雪の不器用で必死な歩みに何かを感じていただけたら、「スキ」や「フォロー」、「コメント」で応援していただけると、とても心強いです。
『ソフトバンク黎明期・孫正義を唸らせるまで──35年間の全記録 真鍋 雪』
