教員の働き方改革に、塾が一石を投じる!?テクノロジーと人の介在で取り戻す、“子どもと向き合う時間”
「もっと子どもと向き合いたいのに、時間がない」
──教員時代に何度も感じたこのジレンマが、ずっと心に残っています。
日々の授業準備、校務分掌、会議、保護者対応。
その一方で個々の子どもとしっかり向き合う時間は削られていく。
しかも、自分の労働時間は無限に延びていき、プライベートもままならないのです。教員不足が叫ばれる今、状況はさらに悪化しているのではないでしょうか。
そんな中、耳にした「先生の駆け込み塾」というプロジェクト。コノ塾という学習塾の授業についての説明を聞き、教室での授業見学ができるというイベントです。
民間の塾が、学校教員向けに“無償で”そのノウハウを提供?
塾✕学校?一体、どんな連携ができるというの???
今回、数々のギモンを胸に説明会&体験会を取材してきました。
この記事を書いた人
中村 藍
教育大学を卒業後、公立小学校教員に。以来22年間にわたり、小学校・特別支援学校で延べ1000人以上の子供と保護者に関わってきました。現在は、教育関連のWebメディア・雑誌への寄稿や監修、書籍執筆などを行っています。高校生と中学生の母。
残業が月14時間に削減!?教員の時間を取り戻す“ヒント”とは

「コノ塾」では、テクノロジーと人の力を融合させた学習支援が実践されています。中でも印象的だったのは、生徒の学習行動を「察知・診断・処方」という三段階で分析し、適切なタイミングでサポートする仕組みです。
例えば、タブレットで記録される「動画の視聴状況」「演習の正答率」などから、生徒一人ひとりのつまずきを“察知”し、その原因を“診断”し、対応策を“処方”します。特筆すべきは、これらの情報がシステム上で「見える化」されている点です。
コノ塾ってどういう指導してるの?という方は、こちらをお読みください。
勉強に苦戦中の息子をもつ私が、公私混同で全力レポしました!
コノ塾のシステムのメリットは、指導の精度が高まることだけではないようです。
IT化によって教員側の負担が減り、コノ塾の教室長の中には、残業時間が月14時間程度にまで削減されたという例もあるのだとか。
月14時間はすごい......!
「先生の駆け込み塾」って、要するにどういうイベントなの?

「先生の駆け込み塾」は、株式会社コノセルが運営するコノ塾の社会貢献プロジェクトとして立ち上がりました。背景には、教育格差や教員の過重労働といった社会課題があります。
「コノセルの事業を通して、“教育の経済格差”、“先生の過酷な労働環境”という2つの社会課題を解くことで、より良い教育環境を築いていきたいと考えています。
今ある教育の仕組みに新しいデジタルツールを導入する足し算の考え方ではなく、デジタルがあることを前提とした教育現場の新しい正解の形を提案しないと社会は変わらない」
そう語る田辺CEOは、元教員の社員たちと現場の声を共有しながら、学校教育への貢献を模索しているといいます。

「教育は学校と塾という分断された構造で語られがちだが、生徒にとってはどちらも先生。より良い学びを提供するために垣根を超えて協力したい」。田辺氏のそんな言葉からは、“垣根を越えた協働”への本気度と理念を感じました。
勉強に悩む子ども。救うのは本当の意味での「個別最適な学び」

私が取材した回にも、現場の先生方が数多く参加されていました。
先生方からは、
「教科の専門知識だけでなく、適切な学習行動を促すための声かけのスキルも大切だということに、改めて気付かされました」
「塾での体制、指導法を学校にどう持ち込めるか、グループでの工夫などを想像しながら見学しました」
と前向きな意見がたくさん。
実は私自身、取材前は「個別最適な学びといっても、どうせ膨大な問題の中からAIがその子に合った問題を出しますよ、みたいな話なんでしょ?」と思っていました。
しかし、コンテンツ開発責任者の吉田幸弘氏はこう語ります。
「個別最適な学びというのは、個々の生徒ごとに問題を変えて出しましょうという話ではありません。
学習行動上のつまずきが何なのか、察知をし、診断、処方を適切に行って学習行動を変えていくということです。テクノロジーはあくまで手段に過ぎません」
これまで「なんとなく困っているように見える」子どもを感覚的に捉えていた教員にとって、行動ログは貴重な手がかりになります。
「子ども一人ひとりの状態をより深く見てあげられるようになる──そんな実感があります。うちは1クラスに40人いるのですが、そういった子どもたち全員にまで目を向けるのは難しい。でも、この仕組みがあると、そこまで手が届くようになることがありがたいと感じました」。参加された先生は、そう言います。
「すでにIT化が進んでいる学校も多く、今の段階でも、ある程度は子どもの様子を 『見取る』ことはできていると思います。けれど、もっと細かく、たとえば 『どの問題でつまずいて、そこにどれだけ時間がかかっているのか』といったところまでは、なかなか把握しきれていないのが実情です」
まるで1対1でずっと子どもの学びを見守ってきたかのような学習ログが手元にある──教員にとっては、有能なアシスタントが協力してくれるようなものでしょう。
とはいえ、現場には“できない理由”もある。新しいチャレンジを阻むもの

もちろん、導入には現実的なハードルがあります。
学校という組織には、ICTスキルの格差、時間割の固定性、教育委員会の方針など、さまざまな“できない理由”が存在します。加えて、「新しいことを取り入れる余裕がない」と感じている教員も多いのが現状です。
私自身、体験会を見学して人員配置は大きな課題だと感じました。
コノ塾では1人の先生が数名の生徒に対してじっくり向き合えていますが、多くの学校では一人の先生が何十人もの子どもを指導します。コノ塾と同じレベルのきめ細やかさを求めるのは、現実的とはいえないでしょう。
学校で同じスタイルの教材を同じレベルで取り入れるならば、教育ボランティアを活用したり、グループ学習を取り入れたりといった工夫が必要になるかもしれません。
「主体的・対話的で深い学び」の基盤となる可能性を感じた

学校教育現場では「主体的・対話的で深い学び」や「アクティブラーニング」の重要性が示され、学びのスタイルが大きく変わりつつあります。
一方、提示された授業動画や問題にひたすら取り組むのがコノ塾の学習のやり方。一見相反する学び方にも思えますが、コノ塾では関係性をどうとらえているのでしょうか。
「私たちのサービスは、基礎学力の底上げに貢献することを主な目的としています。というのも、基礎的な力がなければ、発展的な学びの土台がぐらついてしまい、“なんとなくやっている”という学びになってしまうからです。だからこそ、まずはその基礎の部分をしっかり支えたいと考えているのです」。田辺CEOはそう語ります。
「一方で、発展的な学びというのは、人の介在がより必要な領域だと思っています。だからこそ、教員の皆さんがアクティブラーニングや対話的な学びの準備に時間を割けるようにする。そのための時間を、私たちが基礎部分を支えることで生み出す。そうした役割分担が、現時点での理想的な関係だと考えています」。
基本的な学力の定着はコノ塾のような学習システムが担い、人と関わりながら探究学習やアクティブラーニングといった発展的な学びに集中できる素地を作る。そんな住み分けも、「アリ」なのかもしれません。
学校と塾は、協働するフェーズに来ているのかもしれない
今回の取材を通して感じたのは、「コノ塾のようなサービスを導入すべきかどうか」ではなく、「学校は、コノ塾のどこを参考にできるか」という視点の大切さです。まずは、使えるエッセンスを選んで、自校のスタイルに取り込む―それができるだけでも、忙しい日々の中で“ちょっとした余白”が生まれるのではないでしょうか。
実際、参加した先生方からは「塾と学校がつながることで、教師の視野も広がります」「こういう場があることで、刺激を受けられます」といった声が上がっていました。
民間と学校、立場は違っても、目指す先は同じ──「すべての子どもに、よりよい学びを」。この共通項を信じて、これからの教育の形をともに考えていけたらと思います。
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