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オーシャン・ドッグス🌊勇敢な犬たちの船🛳️ 第36話:いざ世界の海へ(日本編完)

完成の日は静かに来た。

0系の丸い額が朝の光を受け、白と薄青の境目で、確かに船になっていた。

官邸からサチエの回線。

「特別登録、完了。シバ・ゼロ、正式運用に入る」

岸壁に立つ片桐が、モニター越しに小さく息を抜く。

「よっしゃ。わしは神戸から見送る。頼んだで」

その時、国際回線に小さな通知音。

リッチーが目で合図した。

「ネパール政府から。インド洋の航路で人と犬がいなくなる報告が相次いでいる。港で黒い目の目撃情報も。内陸の国やけど、船員の通報が政府窓口に集まってる」

サチエの声が、すこしだけ低くなる。

「向こうも待っている。シバ・ゼロ、準備でき次第、出港を」

アンは短くうなずいた。胸の奥で光が小さく揺れる。



出港の朝。

メリケンパークの岸壁に、人々とネコ型配膳ロボが列をなした。

ロボは背中のライトマストを海へ傾け、細い光の道をつくる。

2-1-2の呼吸で、かすかに明滅する。

ブリッジ。

りうくんが全体を見回し、短く指示する。

「係留、1本ずつ。焦らんでええ。リッチー、交信」

「Kobe Port Control, this is Shiba-Zero. Request departure」

「Shiba-Zero, cleared. Fair winds」

ルークが耳と肉球で機関を聴く。

「今は気張らんでいい。気持ちよく回るところで保つ」

ルナが最終チェック。

「医療区画OK。搬送ルート2本、確保。投薬カード、配布済み」

あんこがタグを白く点滅させる。

「航海序列、同期良好。アンの見える窓は安定」

アンは前を見て、息を刻む。

「2吸、1止、2吐。…いける」

デッキでリョーマが岸に向かい、喉の底で低く一声。

「行っちゅうで」

岸壁の片桐は、ヘルメットのつばを指で上げて小さく笑う。

無線が短く鳴った。

「神戸から見送るで。ようけ守って、ようけ戻ってこい」

港のスピーカーが短く鳴る。

「神戸港ポートコントロール。シバ・ゼロ、出港許可」

りうくんがコンソールを軽く叩き、号令をひとつ。

「シバ・ゼロ、出港」

舫いが解かれる。

0系の額が朝の光を受け、海面の薄い波を割った。

ドローンの弱光リングが先導し、甲板の見える窓はぶれない。

冷光束ユニットは眠ったまま、静かに準備を終えている。

沖に出る直前、波間からルーシーが手を振った。

海緑の髪が薄金をはね返す。

「呼吸、忘れないで」

アンは振り向かない。

胸の奥で小さくただいまが生まれては消え、前だけを見る。

船尾で、猫耳の列が小さく揺れた。

光の道は、港の外へすっと伸びていく。

サチエの声が遠く、でも確かに届く。

「約束は、光の道で守る」

アンは声では答えない。拍で答える。

2つ吸って、1つ止めて、2つ吐く。

神戸の朝はやさしい灰青。

シバ・ゼロは南へ舵を切った。

次の目的地は、海の向こう。

インド洋。

ネパールから届いた、見えない呼び声の先。


日本編 完