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【AIに仕事を奪われるコンサルタント】第8章 社長の思い込みが崩れる

「A4」1枚アンケートは、その後も少しずつ集まっていった。

最初の三枚を読んだ時点で、コンサルタント佐伯亮介はすでに手応えを感じていた。

だが、十枚、十五枚と増えるにつれて、木暮家具が本当に選ばれている理由は、さらに鮮明になっていった。

佐伯は、集まった回答をすべて印刷し、質問ごとに色分けして整理した。

購入前の悩みには青。
購入前の不安には赤。
購入の決め手には緑。
購入後の感想には黄色。

机の上に並べていくと、同じような言葉が何度も出てきた。

ネットで買うのは不安だった。
大型店では誰に相談すればいいか分からなかった。
部屋に合うか自分では判断できなかった。
高いものをすすめられそうで不安だった。
急かされずに選べたのがよかった。
家の写真を見ながら一緒に考えてくれた。
買った後も相談できそうで安心だった。

佐伯は、赤ペンで丸をつけながら思った。
これは、前回の提案書には入っていなかった。

前回、佐伯が使っていた言葉は、こうだった。

品質。
地域密着。
安心。
丁寧。
購入後フォロー。
相談できる家具店。

どれも間違ってはいない。
しかし、お客様の言葉はもっと具体的だった。

「品質が良い」ではなく、
安い家具を買って後悔したくない。

「相談できる」ではなく、
大型店では誰に聞けばいいか分からなかった。

「安心」ではなく、
高いものをすすめられず、急かされなかった。

「購入後フォロー」ではなく、
買った後も相談できそうで安心だった。

同じように見える言葉でも、温度が違う。

会社側の言葉は、説明だった。
お客様の言葉は、実感だった。

佐伯は、その違いにようやく気づき始めていた。

数日後、木暮家具でアンケート結果の共有会を開いた。
参加したのは、二代目社長の慎也、先代社長の隆一、スタッフ数名だった。

テーブルの上には、アンケート回答のコピーが並んでいる。

佐伯は、最初に言った。

「今日は、私の意見をお伝えする前に、まずお客様の言葉をそのまま読んでいただきたいと思います」

隆一は、少し不満そうだった。

「お客様の声は大事だろうが、うちが選ばれているのは品質だ。長く使える家具を置いているからだ」

慎也は何も言わず、アンケートに目を落とした。

佐伯は、一枚目を読み上げた。

「購入前に悩んでいたこと。『ネットで安いソファを見ていたが、座り心地が分からず不安だった』」

続けて読んだ。

「購入前の不安。『予算より高くなるのではないか。買った後に合わなかったらどうしようと思った』」

そして、決め手。

「『何種類も座らせてもらえて、急かされなかったこと』」

隆一は、黙って聞いていた。

佐伯は、二枚目を読んだ。

「『家の雰囲気に合うものが分からなかった』」

「『値段が高いものをすすめられないか少し不安だった』」

「『部屋の写真を見せたら、合う色や大きさを一緒に考えてくれたことが決め手になった』」

三枚目。

「『サイズが台所に合うか不安だった』」

「『寸法の測り方まで教えてくれて、必要なら見に来ると言ってくれたことが決め手だった』」

スタッフの一人が、小さく言った。

「これ、いつも普通にやっていることですよね」

慎也がうなずいた。

「だから、強みだと思っていなかったんだと思います」

隆一は腕を組んだまま、黙っていた。

佐伯は、あえて少し間を置いた。

そして言った。

「社長がおっしゃる通り、品質は木暮家具さんの大切な強みです」

隆一は佐伯を見た。

「ただ、今回のお客様の声を見ると、お客様は最初から品質だけを見て来ているわけではありません」

佐伯は、アンケートを一枚持ち上げた。

「お客様は、迷っています」

ネットで買うか。
大型店に行くか。
安い家具で済ませるか。
でも、失敗したくない。
家に合うか分からない。
高いものをすすめられたくない。
急かされたくない。

その状態で木暮家具に来ている。

「そして、最後の決め手になっているのは、品質そのものというより、品質を納得して選べるように一緒に考えてくれたことです」

慎也が深くうなずいた。

隆一は、まだ何も言わなかった。

佐伯は続けた。

「お客様にとって木暮家具さんは、ただ家具を売っている店ではありません」

佐伯は、ホワイトボードに書いた。

家具選びで失敗したくない人が、急かされずに相談できる店

スタッフたちが、その文字を見た。

佐伯はさらに書いた。

家に合うか不安な人が、写真や寸法をもとに一緒に考えてもらえる店

そして、もう一つ。

売って終わりではなく、買った後も頼れそうだと思える店

慎也が、ぽつりと言った。

「これなら、うちらしいです」

その言葉に、スタッフも小さくうなずいた。

隆一は、しばらくホワイトボードを見ていた。

やがて、低い声で言った。

「でも、品質がなければ、そんな相談をしても意味がない」

佐伯はうなずいた。

「その通りです。品質は土台です」

隆一の表情が少し緩んだ。

佐伯は続けた。

「ただ、お客様に最初に伝える言葉としては、『品質が良い家具です』だけでは弱いのだと思います」

隆一は黙っている。

「お客様は、品質を語る言葉に反応する前に、自分の不安に反応します」

佐伯は、アンケートの一文を指さした。

「『ネットで買って失敗したくない』」

次に、別の一文。

「『部屋に合うか分からない』」

そして、もう一つ。

「『高いものをすすめられそうで不安』」

「こういう不安が広告に書かれていれば、お客様は『これは自分のことだ』と感じます。その後で、品質や職人さんとのつながりを伝えれば、納得してもらいやすくなります」

隆一は、ゆっくりとアンケート用紙を手に取った。

そこには、食器棚を購入したお客様の感想が書かれていた。

台所がすっきりして、もっと早く相談すればよかった。

隆一は、その一文を何度も見ていた。

「もっと早く相談すればよかった、か」

小さくつぶやいた。

スタッフの女性が言った。

「こう言われること、ありますよね。買った後に」

「あるな」

隆一は、短く答えた。

慎也が言った。

「でも、それを広告には書いていませんでした」

佐伯はうなずいた。

「はい。そこがもったいなかったんです」

木暮家具の中では当たり前だった。
お客様の部屋の写真を見る。
寸法を一緒に確認する。
急かさずに座り心地を試してもらう。
購入後の相談にも乗る。

スタッフにとっては日常だった。

しかし、お客様にとっては、それが決め手だった。

売り手の当たり前は、お客様にとって価値になる。

佐伯は、そのことを目の前で見ていた。

慎也が、少し興奮したように言った。

「前回の提案では、うちの強みを品質とか地域密着とかでまとめていましたよね」

「はい」

「でも、今日の話を聞くと、もっと具体的に言えそうです」

「そうです」

佐伯は答えた。

「たとえば、『高品質な家具をお探しの方へ』ではなく、こう言えます」

佐伯はホワイトボードに書いた。

ネットで家具を買って、失敗したくない方へ。

次に書く。

部屋に合うか不安な家具選び、一緒に考えます。

さらに書く。

大型店では相談しづらい家具の悩み、急かさずゆっくりお聞きします。

スタッフの表情が変わった。

「これなら、お客様に言っている感じがしますね」

慎也も言った。

「AIに最初に聞いた時とは、全然違います」

佐伯は、その言葉を聞いて胸の奥が熱くなった。

前回、AIと同じだと言われた。
その言葉に打ちのめされた。

だが今、同じ慎也が「全然違う」と言っている。

佐伯が天才的なコピーを考えたからではない。

お客様の声を聞いたからだ。

隆一が、アンケートを手にしたまま言った。

「わしは、ずっと品質だと思っていた」

誰も口を挟まなかった。

「もちろん、品質は大事だ。そこは譲れん。でも、お客様はそれだけで選んでいるわけじゃないんだな」

慎也が静かにうなずいた。

隆一は、少し照れたように続けた。

「急かさないとか、家に合うか一緒に考えるとか、そんなことは普通だと思っていた」

佐伯は言った。

「普通にやっていることほど、強みだと気づきにくいんです」

隆一は、アンケートを見ながら言った。

「お客様に聞かないと分からんな」

その一言で、場の空気が変わった。

佐伯は、心の中で深く息を吐いた。

社長の思い込みが崩れる瞬間だった。

それは、社長を否定することではない。
会社のこだわりを壊すことでもない。

会社が大切にしてきたことを、お客様の言葉で見直すことだった。

品質という強みは消えたのではない。
お客様に届く形に変わった。

「良い家具を売っています」から、
「失敗したくない家具選びを、一緒に考えます」へ。

「地域密着の家具店です」から、
「買った後も相談できる、近くの家具店です」へ。

「丁寧に対応します」から、
「急かさず、家に合うまで一緒に選びます」へ。

同じ店なのに、言葉が変わる。
言葉が変わると、届く相手が変わる。

佐伯は、ノートにこう書いた。

社長の思い込みを否定するのではなく、お客様の声で本当の強みに変える。

それは、AIが出す一般論とは違う仕事だった。

会議の最後、慎也が言った。

「佐伯さん、この声をもとに、もう一度チラシとホームページを作り直せますか?」

佐伯は、まっすぐ慎也を見た。

「はい。今度は、前回とは違う提案になります」

その言葉には、自分でも分かるほど力があった。

前回は、自分の頭で考えた。
今回は、お客様の声から見つけた。

その違いは大きかった。

木暮家具を出るとき、隆一が佐伯に声をかけた。

「佐伯さん」

「はい」

「アンケートなんて面倒だと思っていたが、やってみるもんだな」

佐伯は、思わず笑った。

「私も、そう思います」

車に乗り込んだ佐伯は、すぐにはエンジンをかけなかった。

カバンの中には、お客様の声が入った資料がある。

それは、どんなAIにも最初からは出せない材料だった。

佐伯は、ノートを開き、今日の最後に一行を書いた。

本当の強みは、社長の言葉ではなく、お客様の言葉で見つかる。

その一行を書いたとき、佐伯は初めて、自分の仕事が少し戻ってきた気がした。

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