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【AIに仕事を奪われるコンサルタント】第7章 お客様の声を集める難しさ

佐伯亮介は、アンケート用紙を作りながら、どこか楽観していた。

たった五つの質問。
これなら、お客様も答えやすいはずだ。

購入前の悩み。
知ったきっかけ。
購入前の不安。
購入の決め手。
購入後の感想。

この順番で聞けば、木暮家具が本当に選ばれている理由が見えてくる。

そう思っていた。

しかし、現実はすぐに佐伯の期待どおりには進まなかった。

数日後、木暮家具でスタッフ向けの説明会を開いたときのことだった。

社長の慎也がスタッフを集めてくれた。

ベテランの女性スタッフが二人。
配送担当の男性が一人。
レジと事務を担当する女性が一人。
そこに先代社長の隆一も加わった。

佐伯は、「A4」1枚アンケートを配った。

「今回お願いしたいのは、購入されたお客様にこの五つの質問に答えていただくことです」

スタッフたちは、用紙を見ながら黙っていた。

佐伯は続けた。

「目的は、評価を集めることではありません。これから同じように家具選びで悩んでいる方に、木暮家具さんの良さを正しく伝えるためです」

そこまで説明したとき、ベテランの女性スタッフが手を上げた。

「これ、お客様に面倒だと思われませんか?」

佐伯は、一瞬言葉に詰まった。

もっともな不安だった。

「確かに、お願いの仕方は大切です。忙しい時に無理にお願いする必要はありません。納品後に喜んでくださった方や、相談の中で関係ができている方からお願いする形で大丈夫です」

別のスタッフが言った。

「悪いことを書かれたらどうしますか?」

今度は、先代の隆一も小さくうなずいた。

佐伯は、正直に答えた。

「悪いことが書かれる可能性もあります。ただ、それも大切な情報です。何が不安だったのか、どこで迷ったのかが分かれば、次のお客様に先回りして伝えることができます」

スタッフたちは、まだ少し不安そうだった。

配送担当の男性が言った。

「年配のお客様だと、文字を書くのが面倒な方もいますよ」

慎也が佐伯を見た。

佐伯はうなずいた。

「その場合は、聞き取りでも大丈夫です。お客様が話した言葉を、スタッフの方が代わりに書いてください。大事なのは、きれいな文章ではなく、実際にお客様が言った言葉です」

すると、レジ担当の女性が小さく言った。

「でも、どうお願いしたらいいか分かりません」

佐伯は、用意していた紙を配った。

そこには、お願いする時の言葉を書いていた。

『今後、同じように家具選びで悩んでいる方に、木暮家具の良さを正しく伝えるために、少しだけお声を聞かせていただけませんか』

佐伯は言った。

「売り込みのためではなく、同じ悩みを持つ方のため。そう伝えてください」

慎也がスタッフに向かって言った。

「うちのお客様が、何を見て、何を不安に思って、何でうちを選んでくれたのか。僕も知りたいんです」

その言葉で、空気が少し変わった。

ベテランスタッフが、アンケート用紙を見ながら言った。

「たしかに、うちに来るお客様って、けっこう悩んでから来られる方が多いですよね」

「そうですね」と、別のスタッフがうなずいた。

「大型店を何軒も見てから来たという方もいますし、ネットで買うのは怖いと言う方もいます」

佐伯は、その言葉に反応した。

「今のような話が、とても大事です」

スタッフたちは佐伯を見た。

「大型店を何軒も見たけど決められなかった。ネットで買うのは怖かった。そういう言葉は、これから家具を買う人の心に届きます」

隆一は腕を組んだまま、黙って聞いていた。

佐伯は続けた。

「会社が『品質が良いです』と言うより、お客様が『ネットで買うのが怖かったので、相談できる店を探していました』と言ってくれた方が、同じ不安を持つ人には伝わります」

慎也が大きくうなずいた。

「それ、まさにうちに来る人の感じかもしれません」

説明会の終わりには、スタッフの表情も少し和らいでいた。

ただ、佐伯は分かっていた。

説明して納得してもらうことと、実際にお客様にお願いすることは別だ。

アンケートを取るのは、意外と難しい。

スタッフは忙しい。
お客様に気を使う。
お願いするタイミングを逃す。
書いてもらっても、短い感想だけで終わるかもしれない。

それでも、始めるしかなかった。

一週間後。

佐伯のもとに、慎也から最初の報告が届いた。

アンケート、三枚集まりました。

添付された写真を開くと、手書きの回答が写っていた。

佐伯は、少し緊張しながら一枚目を読んだ。

購入したのは、ダイニングテーブルだった。

購入する前に、どんなことで悩んでいましたか?
今使っているテーブルが古くなったが、家の雰囲気に合うものが分からなかった。

何で木暮家具を知りましたか?
昔から店があるのは知っていた。母も以前ここで買っていた。

購入する前に、どんな不安がありましたか?
値段が高いものをすすめられないか少し不安だった。

何が決め手になって購入しましたか?
部屋の写真を見せたら、合う色や大きさを一緒に考えてくれたこと。

実際に購入してみて、どうでしたか?
家に置いたら思った以上になじんで、相談してよかったと思った。

佐伯は、画面を見つめた。

そこには、前回の提案書にはなかった言葉があった。

家の雰囲気に合うものが分からなかった。
値段が高いものをすすめられないか不安だった。
部屋の写真を見せたら、一緒に考えてくれた。

これだ。

佐伯は、思わず声に出した。

「品質じゃない」

もちろん、品質も関係している。
しかし、このお客様の決め手は「品質」ではなかった。

一緒に考えてくれたこと。

部屋に合うかどうかを、自分だけで判断しなくてよかったこと。

それが決め手だった。

二枚目の回答を読む。

購入したのは、ソファだった。

購入する前に、どんなことで悩んでいましたか?
ネットで安いソファを見ていたが、座り心地が分からず不安だった。

何で木暮家具を知りましたか?
Googleで近くの家具店を調べた。

購入する前に、どんな不安がありましたか?
予算より高くなるのではないか。買った後に合わなかったらどうしようと思った。

何が決め手になって購入しましたか?
何種類も座らせてもらえて、急かされなかったこと。

実際に購入してみて、どうでしたか?
毎日使うものなので、実際に座って選んでよかった。

佐伯は、またメモを取った。

ネットでは座り心地が分からない。
急かされなかった。
毎日使うものだから、実際に座って選んでよかった。

三枚目は、食器棚だった。

購入する前に、どんなことで悩んでいましたか?
今の食器棚が使いにくく、収納が足りなかった。

何で木暮家具を知りましたか?
近所の人から聞いた。

購入する前に、どんな不安がありましたか?
サイズが台所に合うか不安だった。

何が決め手になって購入しましたか?
寸法の測り方まで教えてくれて、必要なら見に来ると言ってくれたこと。

実際に購入してみて、どうでしたか?
台所がすっきりして、もっと早く相談すればよかった。

佐伯は、ペンを置いた。

たった三枚。

それでも、前回の提案書より濃い材料が詰まっていた。

木暮家具は、単に品質の良い家具を売っている店ではない。

家具選びに迷っている人が、安心して相談できる店。
家に合うか不安な人が、写真や寸法をもとに一緒に考えてもらえる店。
ネットや大型店で決めきれなかった人が、急かされずに選べる店。

佐伯は、前回の自分のコピーを思い出した。

高品質な家具をお探しの方へ。

悪くはない。

だが、今なら分かる。

それでは届かない人がいる。

お客様が心の中で思っているのは、もっと具体的だった。

「家に合うか分からない」
「高いものをすすめられたら嫌だ」
「ネットでは座り心地が分からない」
「急かされずに選びたい」
「サイズが合うか不安」

この言葉を広告の入口にすれば、反応する人がいる。

佐伯は、慎也に電話をかけた。

「アンケート、読みました」

「どうでしたか?」

慎也の声には少し緊張があった。

「すごくいいです。三枚だけでも、前回の提案では見えなかったことが出ています」

「本当ですか」

「はい。お客様は、単に品質で選んでいるわけではありません。相談できること、急かされないこと、家に合うか一緒に考えてくれること。そこに価値を感じています」

電話の向こうで、慎也が黙った。

しばらくして、静かに言った。

「それ、僕たちには当たり前すぎて、強みだと思っていませんでした」

佐伯は、胸の奥が熱くなった。

これが、社長やスタッフだけに聞いても出にくい理由だった。

売り手にとって当たり前のことが、お客様にとっては決め手になっている。

そして、その当たり前こそが広告に使える。

佐伯は言った。

「もう少し集めましょう。十枚、できれば二十枚あると、もっとはっきり見えてきます」

「分かりました。スタッフにも共有します」

電話を切ったあと、佐伯はノートを開いた。

そして、こう書いた。

お客様の声は、会社の当たり前を価値に変える。

佐伯は、その一文をしばらく見つめた。

昨日まで、アンケートを取ることはただの作業だと思っていた。

しかし違った。

お客様に聞くことは、社長もスタッフも気づいていない価値を掘り起こすことだった。

そして、それこそが、AIにはできない仕事だった。

AIは、一般論ならすぐ出せる。
しかし、木暮家具のお客様が「急かされなかったこと」を決め手にした事実は、聞かなければ分からない。

AIは、チラシコピーなら作れる。
しかし、「サイズが台所に合うか不安だった」という具体的な不安は、実際のお客様に聞かなければ出てこない。

佐伯は、初めてはっきり感じた。

自分の仕事は、AIの代わりに考えることではない。

AIが知らない材料を集めること。

そして、その材料を売れる言葉に変えること。

三枚のアンケートは、佐伯にそのことを教えてくれた。

まだ小さな一歩だった。

だが、佐伯にとっては大きな転換だった。

一般論を売っていた自分から抜け出すための、確かな手応えだった。

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