【AIに仕事を奪われるコンサルタント】第14章 「A4」1枚アンケートアドバイザー講座への参加
佐伯亮介が「A4」1枚アンケートアドバイザー講座に申し込んだのは、木暮家具の顧問契約が決まってから一週間後のことだった。
申し込みフォームを送信するとき、少しだけ手が止まった。
販促コンサルタントとして独立して十年。
商工会議所でも講師をしてきた。
中小企業の相談にも数多く対応してきた。
そんな自分が、今さら講座を受ける。
以前の佐伯なら、少し抵抗があったかもしれない。
だが今は違った。
AIに仕事を奪われると怯えたあの夜から、佐伯の中で何かが変わっていた。
自分に足りなかったのは、知識の量ではない。
提案書を作る力でもない。
きれいなコピーを書く力でもない。
お客様の声を正しく集め、読み解き、広告に変える力だった。
その力を、感覚ではなく、再現できる形で身につけたい。
そう思っていた。
講座当日。
会場には、佐伯と同じような立場の人たちが集まっていた。
広告代理店出身者。
ホームページ制作会社の代表。
デザイナー。
印刷会社の営業。
中小企業診断士。
販促支援をしている個人コンサルタント。
名刺交換をしていると、自然と話題はAIのことになった。
「最近、クライアントがAIでチラシ案を作ってくるんですよ」
「ホームページの文章も、まずAIで作ってから相談されるようになりました」
「提案書の価値が下がっている気がして、不安なんです」
「AI活用講座も始めたんですが、それだけでは差別化できない気がしていて」
佐伯は、その話を聞きながら思った。
自分だけではなかった。
みんな、同じように揺れている。
これまで専門家として提供してきたものが、AIで一部代替され始めている。
だから焦る。
肩書きを変えようとする。
AI活用を教える側に回ろうとする。
だが、心のどこかで気づいている。
AIを使えるだけでは、またすぐ一般論になる。
本当に必要なのは、AIに入れる材料を持つことだ。
講座が始まると、講師は最初にこう言った。
「売れる広告は、売り手の頭の中だけで作るものではありません」
佐伯は、すぐにノートを開いた。
講師は続けた。
「売り手は、自分たちの強みを分かっているつもりになります。品質が良い。技術がある。丁寧に対応している。地域密着である。実績がある。どれも大切です」
佐伯は、木暮家具の先代社長を思い出した。
「うちの強みは品質だ」
その言葉は間違っていなかった。
だが、それだけでは広告にならなかった。
講師は言った。
「しかし、お客様が選んだ理由は、売り手が思っている強みと違うことがあります。だから聞くのです」
佐伯は、ペンを握る手に力が入った。
講座では、「A4」1枚アンケートの五つの質問を、一つずつ深く学んでいった。
購入する前に、どんなことで悩んでいたのか。
何で知ったのか。
購入前に、どんな不安があったのか。
何が決め手になったのか。
実際に利用してどうだったのか。
佐伯は、すでに木暮家具で実践していた。
だから、講師の説明が机上の理論ではなく、現場の実感として入ってきた。
Q1の購入前の悩みは、広告の入口になる。
Q2の知ったきっかけは、媒体選びのヒントになる。
Q3の購入前の不安は、買わない理由を消す材料になる。
Q4の決め手は、本当の強みになる。
Q5の利用後の感想は、信頼の証拠になる。
佐伯は、講座を受けながら何度も思った。
これは単なるアンケートではない。
広告を作る順番そのものを変える方法だ。
これまでは、社長に聞いて、コンサルタントが考えて、広告にしていた。
しかし「A4」1枚アンケートは違う。
まず、お客様に聞く。
その声を整理する。
悩み、不安、決め手、感想を読み解く。
そこから広告を作る。
だから、一般論になりにくい。
だから、AIにも活かせる。
午後のワークでは、参加者同士で実際のアンケート回答を読み解く時間があった。
ある整体院の回答が配られた。
購入前の悩みには、
「どこに行っても良くならなかった」
と書かれていた。
不安には、
「本当に自分の症状を分かってもらえるか不安だった」
とあった。
決め手には、
「初回の説明が分かりやすく、無理に回数券をすすめられなかったこと」
と書かれていた。
参加者の一人が言った。
「この整体院の強みは技術力ですね」
以前の佐伯なら、同じことを言ったかもしれない。
しかし今は違った。
佐伯は口を開いた。
「技術力もあると思います。ただ、このお客様が決め手にしたのは、技術そのものより、『分かってもらえた安心感』と『無理に売り込まれなかったこと』ではないでしょうか」
講師がうなずいた。
「いい読み解きです」
佐伯は、自分の中に新しい視点が育っているのを感じた。
以前は、回答を読んでも、すぐに売り手側の強みに変換していた。
技術力。
品質。
丁寧さ。
安心感。
今は、お客様がどの場面で安心したのか、何に不安を感じていたのか、何が決め手になったのかを見るようになっていた。
それは小さな変化ではなかった。
講座の終盤、講師がこう言った。
「AI時代に、広告制作や販促支援の仕事は変わります。文章を作るだけ、提案書を作るだけなら、AIに置き換わる部分もあるでしょう」
会場が静かになった。
佐伯も、ペンを止めた。
講師は続けた。
「しかし、AIは目の前のお客様に聞きに行くことはできません。お客様がなぜ悩み、なぜ不安になり、なぜ選んだのか。その声を集めるのは、人間の仕事です」
佐伯の胸に、その言葉が深く入った。
「そして、その声を売れる広告に変えることができる人は、AI時代でも必要とされます」
佐伯は、木暮家具の慎也の言葉を思い出した。
「ただ広告を作るだけなら、AIでもある程度できます。でも、お客様の声をどう集めて、どう読み解いて、どう広告や接客に変えるかは、自分たちだけでは難しいです」
あの言葉は、まさに今の講師の話とつながっていた。
講座が終わったあと、佐伯は会場にしばらく残っていた。
周りの参加者たちも、どこか高揚した顔をしている。
あるホームページ制作会社の代表が言った。
「今まで、お客様の声は制作後に載せるものだと思っていました。でも本当は、作る前に聞くものなんですね」
別の参加者が言った。
「AIで文章を作る前に、このアンケートが必要ですね。材料がないままAIに頼んでも、結局それっぽい文章にしかならない」
佐伯は、深くうなずいた。
その通りだった。
材料がなければ、AIは一般論を出す。
材料があれば、AIはその会社らしい言葉を広げてくれる。
つまり、「A4」1枚アンケートはAI時代に古くなるどころか、むしろ重要になる。
AIに良い答えを出させるための材料を集める道具だからだ。
帰りの電車の中で、佐伯は講座のノートを読み返した。
そこには、今日書いた言葉が並んでいた。
お客様の声は、広告の後付けではなく、広告の出発点。
感想ではなく、購入前の悩み・不安・決め手を聞く。
売り手の強みではなく、買い手が感じた価値を読む。
AIに入れる材料が変われば、答えも変わる。
佐伯は、その下に大きく書いた。
一般論を売るコンサルタントから、お客様の声を扱えるコンサルタントへ。
その一行を見たとき、胸の奥が熱くなった。
これが、自分の進む道だ。
AIに怯えていた自分は、AIに勝とうとしていた。
AIより良いコピーを書こう。
AIより良い提案書を作ろう。
AI活用を教える側に回ろう。
だが、本当に必要だったのはそこではなかった。
AIと競う前に、お客様に聞くこと。
お客様の声を集めること。
その声から、その会社だけの売れる言葉を見つけること。
そして、必要であればAIも使って、その言葉を広げること。
それが、AI時代にコンサルタントが選ばれる道だった。
事務所に戻ると、佐伯はホームページのプロフィールをもう一度開いた。
以前の文章。
中小企業の強みを言語化し、売れる販促物を作る専門家です。
佐伯は、その下に新しい文章を入力した。
「A4」1枚アンケートを活用し、お客様の声から本当に選ばれている理由を見つけ、売れる広告に変える販促コンサルタントです。
しばらく画面を見つめた。
まだ少し照れくさい。
だが、これが今の自分にはしっくり来た。
佐伯は、保存ボタンを押した。
小さな変更だった。
しかし、それは肩書きの変更ではなかった。
仕事の軸の変更だった。
佐伯は、ノートの最後にこう書いた。
AI時代に必要なのは、AIより賢いコンサルタントではない。
お客様の声を聞けるコンサルタントだ。
その一行を書き終えたとき、佐伯は初めて、AIへの恐怖が希望に変わり始めていることを感じた。
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