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【AIに仕事を奪われるコンサルタント】第10章 売れる広告は、作るものではなく見つけるもの

コンサルたんの佐伯亮介は、木暮家具のチラシ案を前にして、しばらく手を止めていた。

画面には、前回とはまったく違う原稿が並んでいる。

以前のメインコピーは、こうだった。

高品質な家具をお探しの方へ。

悪くはない。
だが、どこか遠い。

誰にでも言えそうで、誰にも深く刺さらない。

今、画面にあるコピーは違った。

ネットで家具を買って、失敗したくない方へ。

佐伯は、その一文を見ながら思った。

これは、自分が机の上でひねり出した言葉ではない。

お客様のアンケートにあった、

「ネットで安いソファを見ていたが、座り心地が分からず不安だった」

という声から見つけた言葉だった。

次の見出しも、お客様の声から生まれた。

部屋に合うか分からない家具選び、一緒に考えます。

これは、

「家の雰囲気に合うものが分からなかった」
「部屋の写真を見せたら、合う色や大きさを一緒に考えてくれた」

という声から見つけたものだった。

さらに、佐伯はチラシの中段にこう入れた。

こんな不安はありませんか?

・ネットでは座り心地が分からない
・部屋に合うサイズや色が分からない
・高いものをすすめられそうで不安
・大型店では誰に相談すればいいか分からない
・買った後に困った時、相談できるか不安

この項目も、佐伯の想像ではない。

すべて、お客様が実際に書いた言葉から拾ったものだった。

佐伯は、画面を見ながら小さく息を吐いた。

広告は、作るものだと思っていた。

コピーを考える。
構成を考える。
見せ方を考える。
どうすれば反応が出るか、自分の頭で考える。

もちろん、それも必要だ。

だが、本当に反応する言葉は、ゼロから作るものではなかった。

すでに、お客様の声の中にあった。

コンサルタントの仕事は、それを見つけることなのだ。

佐伯は、チラシの構成を整えていった。

最初に、お客様の悩みを置く。

ネットで家具を買って、失敗したくない方へ。

次に、不安を言語化する。

座り心地、サイズ、色、部屋に合うかどうか。
画面だけでは分からない家具選びの不安を、木暮家具で一緒に解決しませんか。

その下に、木暮家具ができることを書く。

木暮家具では、実物を見ながら、急かさずゆっくりお選びいただけます。
部屋の写真や寸法をもとに、暮らしに合う家具選びを一緒に考えます。

そして、選ばれている理由を並べる。

木暮家具が選ばれている理由

・何種類も試して、納得して選べる
・部屋の写真を見ながら相談できる
・サイズや寸法の測り方も確認できる
・高いものを無理にすすめない
・購入後も相談しやすい

最後に、お客様の声を入れる。

「ネットで安いソファも見ていましたが、実際に座って選んでよかったです」

「部屋の写真を見せたら、合う色や大きさを一緒に考えてもらえて安心しました」

「台所がすっきりして、もっと早く相談すればよかったと思いました」

佐伯は、以前の提案書にあった言葉を思い出した。

地域密着。
高品質。
丁寧な対応。
安心のアフターフォロー。

どれも間違ってはいない。

しかし、お客様の心には、もっと手前の感情がある。

失敗したくない。
売り込まれたくない。
家に合うか不安。
誰に相談すればいいか分からない。
買った後に困りたくない。

その感情に触れずに、いきなり「高品質です」と言っても届きにくい。

佐伯は、そこがようやく腹に落ちてきた。

その翌日、佐伯は木暮家具で新しいチラシ案を社長の慎也に見せた。

慎也は一枚目を見た瞬間、前回とは違う反応をした。

「これ……うちのお客様のことですね」

佐伯はうなずいた。

「はい。お客様のアンケートから作っています」

慎也は、チラシの文章を黙って読み進めた。

そして、途中で手を止めた。

「『高いものをすすめられそうで不安』って、書いて大丈夫ですかね」

佐伯は言った。

「むしろ、書いた方がいいと思います」

「でも、こちらからそんなことを言うと、逆に不安にさせませんか?」

「すでに不安に思っている人はいます。書かなければ、その不安は消えません」

佐伯は、アンケートのコピーを指さした。

「この方は、実際にそう書いていました。でも、木暮家具さんで相談して、高いものを無理にすすめられなかったから購入された。なら、その不安を先に言葉にしてあげた方が、同じ不安を持つ人は安心します」

慎也は、しばらく考えてからうなずいた。

「確かに、僕たちは売り込んでいるつもりはないです。でも、お客様は来る前にそう思っているかもしれないですね」

「はい。そこを広告で先に解消します」

慎也は、もう一度チラシを見た。

「前回の『高品質な家具をお探しの方へ』より、ずっと自分ごとになりそうです」

佐伯は、その言葉を聞いて胸が熱くなった。

前回は、佐伯が考えた言葉だった。
今回は、お客様から見つけた言葉だった。

この違いは大きい。

その後、先代社長の隆一にもチラシを見せた。

隆一は、最初にコピーを見て眉を寄せた。

「ネットで家具を買って、失敗したくない方へ……か」

「はい」

「うちはネットの悪口を言うのか」

佐伯は、首を横に振った。

「悪口ではありません。お客様が実際に感じていた不安を言葉にしています」

慎也も横から言った。

「父さん、アンケートに書いてあっただろう。ネットで安いソファも見ていたけど、座り心地が分からず不安だったって」

隆一は黙った。

佐伯は続けた。

「ネットで買うのが合っている方もいます。ただ、座り心地や部屋に合うかどうかを確認したい方には、木暮家具さんの価値があります。その方に向けたチラシです」

隆一は、しばらくチラシを見ていた。

そして小さく言った。

「なるほどな。うちは、そういう人の役に立てるということか」

「はい」

「高品質と書くより、分かりやすいかもしれんな」

慎也が少し驚いたように父を見た。

隆一は照れ隠しのように、チラシを机に置いた。

「ただ、あまり軽い感じにはするなよ。うちの品まで安っぽく見えたら困る」

佐伯は笑った。

「そこは大事にします。木暮家具さんらしい落ち着きは残します」

会議が終わるころには、チラシの方向性は固まった。

ホームページのトップコピーも、同じ考え方で変えることになった。

以前の案は、こうだった。

地域で愛されて五十年。高品質な家具を安心して選べる木暮家具。

新しい案は、こう変えた。

家具選びで失敗したくない方へ。
木暮家具は、暮らしに合う一台を、急かさず一緒に考える家具店です。

佐伯は、その言葉を見ながら思った。

同じ店を紹介しているのに、まったく印象が違う。

前者は、店が言いたいこと。
後者は、お客様が知りたいこと。

その違いだった。

数日後、デザイナーからチラシの初校が届いた。

佐伯は、レイアウトを確認しながら、細かい言葉を整えていった。

目立たせるべきなのは、木暮家具の歴史ではなく、お客様の悩み。
写真で見せるべきなのは、商品だけでなく、相談している場面。
小さくても入れるべきなのは、お客様の実際の声。

デザイナーに指示を出しながら、佐伯は自分の仕事が変わっていることを感じた。

以前なら、デザインの見やすさやコピーの印象を中心に見ていた。

今は違う。

この言葉は、お客様の声とつながっているか。
この見出しは、買う前の不安に触れているか。
この説明は、決め手を伝えているか。
このお客様の声は、これから買う人の安心材料になっているか。

判断基準が変わっていた。

それは、佐伯にとって大きな変化だった。

数日後、最終版のチラシが完成した。

佐伯は、印刷前のPDFを見ながら、静かにうなずいた。

これは、前回の提案書からは絶対に生まれなかった。

自分の頭だけで考えていたら、きっとまた「高品質」「地域密着」「安心」という言葉に戻っていた。

でも、お客様の声を聞いたから、違う言葉にたどり着けた。

佐伯は、ノートに一行を書いた。

売れる広告は、作るものではなく、見つけるもの。

書いた瞬間、その言葉が胸に深く落ちた。

コンサルタントは、天才的なコピーライターである必要はない。
すべての業種に詳しい必要もない。
AIより早く文章を作る必要もない。

必要なのは、お客様の声の中から、売れる言葉を見つける力だ。

そして、その声を正しく集める仕組みを持つことだ。

佐伯は、ようやく分かってきた。

「A4」1枚アンケートは、単なるアンケート用紙ではない。

一般論に逃げそうになるコンサルタントを、お客様の本音に引き戻す道具だった。

その道具があるから、社長の思い込みだけで提案しなくて済む。
AIと同じような一般論を出さずに済む。
その会社だけの言葉を見つけに行ける。

佐伯は、完成したチラシを慎也に送った。

数分後、返信が来た。

これなら、自信を持って配れます。
前回の提案とは、本当に違います。

その一文を見て、佐伯は椅子にもたれた。

「前回とは違う」

その言葉は、佐伯にとって何よりうれしかった。

AIと同じだと言われたところから、ようやく一歩抜け出せた気がした。

まだ成果は出ていない。

問い合わせが増えるかどうかは、これからだ。
チラシがどれだけ反応するかも分からない。

それでも佐伯には、確信に近いものがあった。

今度の広告には、木暮家具のお客様の声が入っている。

だから、同じように悩んでいる人に届く可能性がある。

佐伯は、画面を閉じた。

そして、机の上に置いてあった古い提案書を見た。

そこには、前回の言葉が並んでいた。

ターゲットを明確にする。
強みを伝える。
差別化する。
不安を解消する。
情報発信する。

正しい。

でも、それだけでは足りない。

佐伯は、その資料を静かにファイルへしまった。

自分は、もうそこには戻らない。

答えを作る前に、まず聞く。
一般論を語る前に、お客様の声を集める。
広告を考える前に、選ばれている理由を見つける。

それが、これからの自分の仕事だ。

AIに仕事を奪われたくないなら、一般論を売る仕事から抜け出さなければならない。

そのためには、お客様の声を聞くことから始めるしかない。

佐伯は、静かにそう思った。

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