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【AIに仕事を奪われるコンサルタント】最終章 AIに怯えていた自分へ

数か月後、佐伯亮介は小さなセミナー会場に立っていた。

テーマは
『「A4」1枚アンケートでAIに仕事を奪われない人になる方法』

参加者は二十名ほど。

広告制作会社の人。
ホームページ制作会社の人。
中小企業診断士。
販促支援をしている個人コンサルタント。
印刷会社の営業。

肩書きは違う。

だが、表情はどこか似ていた。

不安。
焦り。
戸惑い。
そして、自分の仕事がこれからどうなるのか分からないという顔。

佐伯には、その気持ちが痛いほど分かった。

少し前まで、自分も同じ顔をしていたからだ。

AIに仕事を奪われるのではないか。

提案書も、チラシのコピーも、ホームページの文章も、SNS投稿も、AIが作れるようになった。

クライアントは、まずAIに相談する。
AIで作った文章を持ってくる。
AIで販促案を出してくる。

その時、コンサルタントは何で選ばれるのか。

佐伯自身、答えが分からなかった。

佐伯は、参加者を見渡してから話し始めた。

「少し前まで、私は本気で思っていました。自分の仕事は、AIに奪われるかもしれないと」

会場の空気が少し変わった。

何人かが顔を上げた。

佐伯は続けた。

「私は販促コンサルタントとして、独立して十年やってきました。商工会議所でセミナーもしました。中小企業の相談にも乗ってきました。自分なりに実績もありました」

一度、言葉を切った。

「でも、ある老舗家具店で、こう言われました」

佐伯は、スクリーンに一文を映した。

この提案、AIに聞いた答えとほとんど同じなんです。

会場が静かになった。

佐伯は、その時のことを話した。

木暮家具という創業五十年の家具店。
大型店とネット通販に押されて、売上が落ちていたこと。
自分は、いつものように提案書を作ったこと。

ターゲットを明確にしましょう。
強みを打ち出しましょう。
不安を解消しましょう。
ホームページを改善しましょう。
SNSで発信しましょう。

「どれも間違ってはいませんでした」

佐伯は言った。

「でも、間違っていないことと、その会社だけの答えになっていることは違いました」

参加者の一人が、静かにメモを取った。

佐伯は続けた。

「私はその時、気づきました。自分は販促の専門家として提案しているつもりでした。でも実際には、一般論を分かりやすく整理していただけかもしれないと」

その言葉に、会場の何人かが小さくうなずいた。

佐伯は、当時の自分のノートをスクリーンに映した。

一般論では選ばれない。

「この一行を書いた夜、正直かなり落ち込みました。AIに負けたと思いました。自分の仕事はもういらないのかもしれないと思いました」

佐伯は、参加者を見た。

「でも、そこから考え方が変わりました」

次のスライドに、木暮家具のお客様の声を映した。

ネットで買うのは不安だった。
部屋に合うか分からなかった。
高いものをすすめられそうで不安だった。
急かされずに選べたのがよかった。
写真を見ながら一緒に考えてくれた。

佐伯は言った。

「前回の私の提案には、この言葉がありませんでした。社長の話を聞き、店の強みを整理し、競合を見て、自分の経験で提案していました。でも、実際に買ったお客様の言葉を聞いていなかったんです」

佐伯は、スクリーンを切り替えた。

そこには、新しいチラシのコピーが表示された。

ネットで家具を買って、失敗したくない方へ。

「このコピーは、私が机の上で思いついたものではありません。お客様の声から見つけたものです」

佐伯は、木暮家具で起きた変化を話した。

チラシを見た女性が、
「自分のことだと思いました」
と言って問い合わせてきたこと。

その女性が来店し、相談しながらソファを選んだこと。

帰り際に、
「売り込まれなかったので安心しました」
と言ってくれたこと。

そして、その声がまた次の広告や接客改善の材料になったこと。

「この時、私はようやく分かりました」

佐伯は、ゆっくり言った。

「売れる広告は、コンサルタントがゼロから作るものではありません。お客様の声の中から見つけるものです」

会場の空気が、さらに集中していくのを感じた。

佐伯は、次のスライドに五つの質問を映した。

1.購入する前に、どんなことで悩んでいましたか?
2.何でこの商品・サービスを知りましたか?
3.購入する前に、どんな不安がありましたか?
4.何が決め手になって購入しましたか?
5.実際に利用してみてどうでしたか?

「これが、『A4』1枚アンケートの五つの質問です」

佐伯は言った。

「最初に見た時は、正直、地味だと思いました。AI時代にアンケートなのか、とも思いました。でも今は逆です。AI時代だからこそ、この五つの質問が必要だと思っています」

佐伯は、一つひとつ説明した。

購入前の悩みは、広告の入口になる。

知ったきっかけは、媒体選びのヒントになる。

購入前の不安は、買わない理由を消す材料になる。

決め手は、本当に選ばれている理由になる。

利用後の感想は、次のお客様の安心材料になる。

「この五つを聞かずに広告を作ると、どうしても売り手側の言葉になります」

佐伯は言った。

「品質が良いです。丁寧です。地域密着です。安心です。実績があります。もちろん、それらは大切です。でも、お客様が最初に反応するのは、売り手の主張ではなく、自分の悩みです」

会場の後方で、一人の男性が深くうなずいた。

佐伯は続けた。

「AIに仕事を奪われるのは、AIでも出せる一般論を売っている時です」

その言葉を、佐伯ははっきり言った。

「ですが、お客様に聞き、その会社だけの声を集め、その声を売れる言葉に変える仕事は、まだ人間にしかできません」

佐伯は、少し間を置いた。

「AIは、文章を作れます。提案書も作れます。広告コピーも出せます。でも、目の前のお客様に聞きに行くことはできません」

会場が静まり返った。

「お客様がなぜ悩んでいたのか。何が不安だったのか。何を決め手にしたのか。使ってみてどう感じたのか。その声を集めるのは、人間の仕事です」

佐伯は、自分自身にも言い聞かせるように話した。

「そして、その声を読み解き、社長の思い込みをほどき、会社が本当に選ばれている理由を見つける。それをチラシ、ホームページ、SNS、接客に変えていく。それが、AI時代のコンサルタントの仕事だと思います」

セミナーの最後、佐伯は参加者に向けてこう言った。

「AIに怯える必要はありません」

その言葉は、少し前の自分に向けた言葉でもあった。

「ただし、今までと同じように一般論を売り続けるなら、厳しい時代になると思います」

参加者の表情が引き締まった。

「これから必要なのは、AIより多くの答えを持つことではありません。AIに入れるべき本物の材料を集められることです」

佐伯は、スクリーンに最後の一文を映した。

答えを出す前に、お客様に聞く。

「これが、私がAIに怯えていたところから見つけた答えです」

セミナーが終わると、数人の参加者が佐伯のもとに来た。

最初に声をかけてきたのは、ホームページ制作会社の代表だった。

「今日の話、自分のことだと思いました」

佐伯は、かつて木暮家具のチラシを見て問い合わせてきた女性の言葉を思い出した。

自分のことだと思いました。

広告でも、セミナーでも、人が動く瞬間は同じなのかもしれない。

自分の問題だと感じた時、人は前に進む。

その代表は続けた。

「最近、クライアントがAIで原稿を作ってくるようになって、正直、自分たちの価値が分からなくなっていました。でも、制作する前にお客様の声を集めるところから関われるなら、まだ価値を出せる気がします」

次に、中小企業診断士の男性が言った。

「私は、社長へのヒアリングばかりしていました。お客様に聞くことを、もっと支援の中に入れないといけないですね」

印刷会社の営業は、名刺を差し出しながら言った。

「チラシを売るだけでは厳しいと思っていました。でも、お客様の声を集めてからチラシにする提案なら、うちでもできるかもしれません」

佐伯は、一人ひとりの言葉を聞きながら思った。

これは、自分だけの問題ではない。

AI時代に不安を感じているコンサルタントや制作会社は多い。

その人たちに必要なのは、AIの恐怖を煽ることではない。
AIの使い方だけを教えることでもない。

自分の仕事の中心を、お客様の声に戻すことだ。

その日の夜、佐伯は事務所に戻り、セミナーのアンケートを読んだ。

そこには、こんな言葉があった。

AIに仕事を奪われるのではなく、自分が一般論しか出せていなかったことに気づきました。

お客様の声を聞くことが、これからのコンサルタントの武器になると感じました。

「A4」1枚アンケートアドバイザーについて、詳しく知りたいです。

佐伯は、その一文で手を止めた。

「A4」1枚アンケートアドバイザーについて知りたい。

数か月前の自分が、まさにそこにいた。

AIに怯え、答えを探し、一般論では選ばれないと気づき、お客様の声にたどり着いた。

そして、もっと体系的に学びたいと思った。

佐伯は、静かにノートを開いた。

最後のページに、こう書いた。

AIに怯えていた自分へ。

少し考えてから、その下に続けた。

あなたの仕事は、終わっていない。
ただ、変わる必要がある。

さらに書いた。

一般論を売る仕事から、
お客様の声を聞く仕事へ。

答えを教える仕事から、
答えの材料を集める仕事へ。

AIと競う仕事から、
AIが知らない本物の声を扱う仕事へ。

佐伯は、ペンを置いた。

窓の外には、夜の街の明かりが見えていた。

数か月前、この同じ事務所で、佐伯はこうつぶやいた。

「俺の仕事は、もういらないのかもしれない」

今なら、違う言葉が出る。

佐伯は、小さくつぶやいた。

「お客様の声を聞きに行けば、仕事はまだ終わっていない」

その言葉は、AIに怯えていた過去の自分への返事だった。

そして同時に、これから同じ不安を抱えるコンサルタントたちへのメッセージでもあった。

机の上には、「A4」1枚アンケートの用紙が置かれている。

たった一枚。
たった五つの質問。

しかし、それは佐伯にとって、AI時代に本当の仕事を取り戻すための道しるべだった。

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