【おすすめ本】松家仁之著『天使も踏むを畏れるところ』
処女作『火山のふもとで』に衝撃を受けてから新作を心待ちにするようになった作家さんが、松家仁之さんである。(一方的な親しみを込めて"さん"付けさせてもらう)
実在する建築家・吉村順三をモデルにした小説を書くために、新潮社を52歳で退職する決断をしたこともあり、『火山のふもとで』と『天使も踏むを畏れるところ』に込められた熱量は半端ない。
かくゆう私も『火山のふもので』を20代後半の時に読み、建築の面白さに開眼するきっかけとなった。
『泡』の刊行から待つこと4年。待望の『天使も踏むを畏れるところ』が、今年の3月に刊行された。上下巻あわせて1000ページ超の大作を前に、読了まで何日かかるのか…とひるんだものの、冒頭で早くも帝国ホテルやフランク・ロイド・ライトが登場。一気に大好きな松家ワールドに引き込まれてしまった。
『天使も踏むを畏れるところ』のあらすじはこちらから↓
さきの大戦で消失した明治宮に代わる新宮殿を造営するまでが、建築家の村井俊輔、宮内庁の造営責任者・牧野、建設技官・杉浦、侍従・西尾、そして村井の恋人・藤沢衣子の視点から語られる。
新宮殿を造営することはイコール、新しい皇室の在り方を模索する行為でもあったことが、松家さんらしい丁寧な時代考証によって詳らかに描写されている。何かと皇室が話題になる現代においても示唆に富んでおり、今読むにふさわしい一冊と感じた。
本書を通じて考えさせられたのは、新宮殿(建築と言い換えても良い)は誰のものなのか?ということ。
小説では、徐々に村井と牧野の間で不協和音が生じていく様子がスリリングに描かれている。
結果として、村井が身を引くことになる。
建築家としての信念を貫き通す道を選んだ村井の姿からは、創作者の意図だけで完成させることができない建築の特殊な芸術性を思わずにはいられなかった。
読売新聞で連載中の新作『函』は、単行本の函作りを営む家族の物語だそうな。
次はどんな知らない世界を見せてくださるのか、刊行が今から待ち遠しい。
