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みかん|風まかせ文芸部

冷蔵庫の中に、一個だけ残ったみかん。
買ったのはいつだったろう。

袋の中で最後まで残るみかんは、
決まって少し小ぶり、色が薄い。

どこか私に似ていて
取り出せない。

扉を静かに閉めながら思う。
いじらしく思うなら食べてあげるべきか。

翌日も、その翌日も、みかんはまだそこにいた。

取り出したのは、数日後。
特に食べたかったわけではない。
踏ん切りをつけたわけでもない。
陽射しに春を感じた午後だった。

皿に載せたみかんを眺めてから、むいた。
指先に、冬の香りがうつった。

思い浮かんだのは、こたつの上のみかんの山。
テレビの音。誰かの笑い声。

いつの話だろう。 実際の記憶だろうか。
そんな気がするだけだろうか。

一房口に入れる。
甘い。少し酸っぱい。

残りを全部むいた。

誰に出すわけでもないのに、
きれいに並べた。

一房ずつ食べる。
みかんがお皿からゆっくり消えていく。

最後の一房を口に入れたとき思った。
もう一個あればよかったのに。





冷蔵庫と陽射しの中のみかん

iさんの風まかせ文芸部に参加します。



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