夏の音|風まかせ文芸部
エアコンがフル回転している。外は三十六度。窓を開けることなど考えられない暑さの中で、機械音だけが部屋を満たしている。
子どもの頃の夏は、もっといろいろな音に溢れていた。朝早くから聞こえるセミの声。お昼過ぎの風鈴の音。夕方になると始まる子どもたちの声。夜には虫の合唱が窓越しに聞こえてきた。
今は、人工的な涼しさを手に入れるために、私たちはそれらの音を手放してしまった。マンションの密閉された部屋では、夏らしい音は全て遮断されてしまう。
ふと思いついて、エアコンを止めてみた。すると、隣家のエアコンの音に交じって聞こえてくるものがある。かすかに、遠くから響くセミの声。どこかで遊ぶ子どもの笑い声。けれど木々のざわめきは聞こえては来ない。そして一気に押し寄せて来た熱気。
再び機械のスイッチを入れるまで五分ともたなかった。記憶の中の夏の音とのつかの間の出会いもそこで終わった。
快適さと引き換えにエアコンの音が再び部屋を包む。いつか自分の子供たちが思い出す夏の音は、この音なのだろうか。それでも確かに、夏なのだから。
夜になって、ようやくエアコンを止めた時、どこか遠いところで風鈴がチリンと鳴った。
こちらに収録もしていただいています。
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