東京へ行っても|シロクマ文芸部|ひとりじゃない
▼こちらの物語の続編に当たります
お正月。母と二人。
父が他界してから、三回目の正月。
大掃除を終え、すっかり片付いた自分の部屋で目が覚めた。
私は三月には就職して東京へ行く。
元日の朝。
母は早くから起きて、おせちの準備をしていた。
「お母さん、手伝うよ」
「大丈夫よ。もうすぐできるから」
そう答えて母は微笑んだ。
日の出まではもう少し時間がある。
食卓には、二人分のおせちが並んだ。
伊達巻、黒豆、数の子、煮しめ。
すまし汁の、うちのお雑煮。
「いただきます」
向かい合って二人で手を合わせたときに気づいた。
去年は、食卓に置いてあった父の写真が今年はない。
「お母さん」
私は取り上げかけていた箸を置いた。
「お父さんの写真、飾らないの?」
母は手を止めた。
「あなたが、もう東京に行くから」
母は静かに言った。
「写真を飾ると、お父さんがかえって寂しがると思って」
私は何も言えなかった。
母は続けた。
「お父さん、あなたが東京に行くのを、きっと喜んでると思うの」
微笑みながらそういう母の声は少し震えているようだった。
私は立ち上がって、仏壇の前に行った。
父の笑顔の写真を取り出すと、食卓の上に置いた。
「お父さんも、一緒に食べよう」
母は目を潤ませた。
「ありがとう」
三人で、おせちを食べた。
食後、母と二人でコタツに入った。
テレビでは、お正月の特番をやっている。
「お母さん」
みかんを食べながら私は言った。
「東京に行っても、正月は帰ってくるからね」
「無理しないでいいのよ。仕事もあるでしょうし」
「帰ってくる」
私はもう一度言った。
「帰ってくるから」
母はコタツの上で私の手を握った。
「ありがとう」
窓から、冬の日差しが差し込んでいる。
お正月。 それは、始まりの日。
新しい年、新しい生活が始まる。
けれどこの家で過ごした日々も、父との思い出も、母との時間も。
私がどこに行こうと続いていく。
「お母さん」 私は言った。
「お正月、一緒に過ごせて良かった。
ちゃんと、帰ってくるから」
そう言って力を込めた私の手を
母は黙って握り返した。
小牧幸助さんのシロクマ文芸部にいつもお世話になっています。
今回の企画お題は「お正月」。
「ひとりじゃない」はこのnoteの独自企画で、シングルマザー・母子家庭の日常を描くシリーズです。
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