図書館の陽だまり|風まかせ文芸部
図書館の窓際の席に、いつものように座る。午後の陽だまりが頬に温かい。
今日も彼女が向かいの席にいた。毎週火曜日の三時頃、そこは彼女の指定席。いつも小説を読んでいる。今日は太宰治らしい。
私は経済学の教科書を開いているけれど、ついつい彼女の読書ぶりを観察してしまう。
時々、くすっと笑ったり、ページをめくる手が止まったり。私にはない素直な性格は生まれつきのものだろうか。
そんな彼女が今日は違った。
本を閉じて、窓の外をぼんやり眺めている。いつものような集中した表情ではなく、どこか遠くを見つめるような。
ふと、彼女が小さくため息をついた。
迷った末、私はメモ用紙に一行だけ書いて、机越しに差し出した。
『太宰が重たくなったら、向田邦子をどうぞ♡』
一瞬驚いた彼女がニッコリと笑った。なんだか胸がきゅんとする。私が男性だったらこれを恋と呼ぶのかもしれない。
次の火曜日。穏やかな午後。彼女は向田邦子の文庫本を読んでいる。
席に着く私に気づいた彼女は、栞代わりにページに挟んでいた紙片を取り出し、私にくれた。
先日彼女に渡した私のメモ用紙。
私の文字の下に小さく返事が書かれている。
『ありがとうございます。やさしい気持ちになりました』
あたたかな陽だまりのひかり、小さな本の輪、彼女の笑顔。
少しどぎまぎする私。こんなときはどんな顔をしたらいいのだろう。
微笑み返したつもりだけれど、うまくいったかはわからない。
彼女は来週は何を読んでいるだろう。今度は声をかけてみようかな。
そんなことを考えながら、私も文庫本を開いた。
スキやフォロー、コメントなどを頂けると励みになります。
iさんの風まかせ文芸部に参加させていただいています。
#風まかせ文芸部 #友情 #図書館 #私の作品紹介 #出会い #AI共創 #ショートショート #私の作品紹介 #スキしてみて
