リハビリ室の陽だまり|風まかせ文芸部
リハビリ室の陽だまりは、午後二時頃に一番美しくなる。
車椅子から立ち上がる練習をしていると、私の頬を窓から差し込む光が温めてくれる。あの事故から三か月。最近こんな小さなことにも気づくようになった。
「今日は調子がいいですね」
理学療法士の田中さんが声をかけてくれる。確かに、左足に少しずつ感覚が戻ってきている。
「ええ。調子がいいのは、この陽だまりのおかげかもしれません。
私、ここに来る前は陽だまりなんて気にしたことなかったんですけど」
そう田中さんに話しかけた。
「みなさんそうおっしゃいますよ。立ち止まることで、初めて見えるものがあるんですね」
隣でバランス訓練をしている高齢の男性が、ふっと笑った。
「俺もそうだったなぁ。脳梗塞で倒れるまで、太陽の光なんて当たり前すぎて」
男性は杖をついて、ゆっくりと歩く練習をしている。
「でも、歩けなくなって初めて分かったんだ。お日様って、ありがたいものなんだなって」
私たちはしばらく無言で、それぞれの訓練を続けた。
陽だまりが移動していく。壁の時計が示す時間よりも、光の動きの方が正確に時の流れを教えてくれる。
「先生」
私は田中さんに尋ねた。
「みんな、やがてここを卒業していくんですよね」
「ええ。そのために頑張っているんですから」
「でも、この陽だまりから離れるのは、なんだか寂しいです」
田中さんは手を止めて、私を見た。
「忘れませんよ。外の世界できっと別の陽だまりを見つけるだけです」
その時、隣の男性がぽつりと言った。
「俺は退院したら、毎朝ベランダで太陽を見るぞ。そこが俺の陽だまりだ」
午後三時。陽だまりの光は次第に薄くなっていく。でも、温かさは胸の奥に残っている。
歩けるようになったら、私にも新しい陽だまりが見つかるだろうか。今の私なら、それまで気づかなかった場所に、それを見つけることができるかもしれない。
思い切って、車椅子から立ち上がった。
そして三歩、今日は歩けた。
陽だまりが、背中を押してくれたようだ。。
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