真夜中の扇風機|風まかせ文芸部
和夫が夜中に目を覚ますと、扇風機が自分を向いていた。
妻の道子の方には、風が行っていない。
(道子が気を使ったのだろう。)
和夫は、そっと首振りボタンを押した。
扇風機が、ゆっくりと左右に動き始めた。
和夫は目を閉じた。
ウトウトしてふと気づくと
扇風機は、また和夫の方だけを向いている。
首振りが、止まっている。
(道子の仕業だ。)
和夫は、また首振りボタンを押した。
道子は夫が動く気配で目を覚ました。
和夫に向けたはずの扇風機がまた首を振っている。
(自分が暑がりだからって、私にまで・・・)
和夫の様子をうかがいながら、
道子が、また首振りを止める。
真夜中に、二人は、無言で攻防を続けている。
和夫は思った。
考えてみれば三十五年、こうやって生きてきた。
譲り合って、少しずつ、風を分けて。
道子は思った。
この人は悪い人ではないのだけれど、
どこかピントがずれている。
いつしか扇風機が、また首を振り始めた。
今度は、道子は止めなかった。
和夫は思った。
やっとわかってくれたかな。
それとも寝てしまったのだろうか。
ありがとう。
道子は布団をかぶってため息をついた。
こうやってこれからも暮らしていくのでしょうね。
風が、二人の間を、行ったり来たりしている。
iさんの風まかせ文芸部に参加します。
