【読書感想文】英国の孤島に想いを馳せながら読む「キュレーターの殺人」
キュレーターの殺人
M.W.クレイヴン(著)東野さやか(訳)
ハヤカワ・ミステリ文庫
感想文です。原作は洋書。ネタバレは最後尾。
フリンが妊娠したらしい。そこでフリンのお姉さんがベビーシャワーを…開催?知らん文化!なにそれ!と調べてみました。
ベビーシャワーとは
ベビーシャワーは、アメリカ発祥の「妊婦さんにエールを贈る」パーティーのこと。
1930〜40年頃に始まったと言われており、当初は女性だけが集まるスタイルが主流だったようです。(当協会調べ)
(中略)
開催時期は妊婦さんの妊娠8カ月前後が一般的です。
https://www.babyshower.jp/page/10
臨月の妊婦に無理をさせるな。
とは素直に思っちゃうんですけど、人と触れ合わないと気が狂う人もいるしね。
フリンは私と同じ考え方のようだけども。気の立ってる子持ちの熊をパーティーの主役にするというのか…。
この時点で家族間の考え方の違いが浮き彫りになっているのが上手い。
それにしてもティリー…、ベビーシャワー初見の私もそのプレゼントは「無い」のは解るぜ…。
というわけで2巻から…ドイル女史の前作検死が半年前なので大分開いた感じ。
隙間で妊活していたフリンは凄い。
ポーもリモートワークを勝ち取り、なんとか居住権を主張できているようです。良かったね!
ギャンブル警視の退職後を引き継いだナイチンゲール警視はめちゃくちゃポーの取り扱いを心得ていて身動きが軽い。
切り取られた指
そうこうしてる内にクリスマスに最悪の事件が起きてしまいまして。
どんな最悪かというと
何者かが極めて小さな証拠だけで「人が殺されている」事を警察に突きつけてきた。
切り取られた同一人物の指が二本見つかります。
それだけでは生きているか死んでいるのかわからない。
「一本は死亡した時に切り取られた」事が解る。
少なくとも「死んだ人間」はいる。
しかし、一本だけだと
病気で死んだ人間のものかもしれない
事故で死んだ人人間のものかもしれない
墓場から暴いた死体の指を切り取ったかも知れない
「死んだ」=「殺された」ではない
そこに、「生きた状態で切り取られた指」を添えると…
極めて短い時間の間に、被害者の生死が切り替わっている
生死の短い時間の間、被害者が犯人の管理下にいたという示唆
事故なら病院に行くはずなので除外
誘拐事件の除外
少なくとも過失致死からの遺体損壊以上の罪です。そして三件連続って事は!うっかりでは済まされない。
これで殺人事件の可能性がぐっと高まる。
なんて無駄のない最悪の宣戦布告なんだ……。
エステル・ドイルのメッセージ
そしてエステル・ドイル女史が諸々の検死を行ってから
ポーに犯人に気をつけろという警告の後、何故かと問われたあとの台詞。
彼女は力なくポーにほほえんだ。
「残念だけど、ポー、語られることを許さぬ秘密というものがあるのよ」
エドガー・アラン・ポーの「群衆の人」のラスト引用と言うことですが
要約すると「街中で人間観察をしていたら、凄いヤバそうな老人を見つけた。しかし、あとを付けても、忙しなく動くだけで何が狙いなのか解らない。この老人は犯罪の象徴だ。具体性を掴めないのは当然である。あの何気ない仕草には想像もつかない悪意があるのだろうが、私が知ることはないだろう。」みたいな感じ。
つまり、「今解ることは、こいつはスゲーヤベー奴というだけ」というのがドイル女史。「群衆の人」の主人公が受けたファーストインプレッションと同じくらいの衝撃を受けたのかもしれない。
最初の注視の短い一瞬間に、その表情の伝える意味を分析しようと努めた時、私の心の中には、用心の、吝嗇りんしょくの、貪欲どんよくの、冷淡の、悪意の、残忍の、勝利の、歓喜の、極端な恐怖の、強烈な――無上の絶望の、広大な精神力の諸観念が、雑然とかつ逆説的に湧き上ったのである。
ここまで出来るなら完全に隠すことも可能だし、自然に死ぬやつもいる。なのに、わざわざ殺したうえで、死体を見せてくれている。この殺人自体が無意味なようで、殺人自体が目的ではない気配。劇場型の殺人鬼でもない冷静さ。想像もつかないが、多分邪悪な目的があることだけは解る。
う〜ん!なんて素敵な引用の仕方なんだ……。
今回の舞台について
架空の孤島、モンタギュー島
ポツンと一軒家チャレンジです。田舎の限界に挑戦!
「シープ島をぐるりと迂回し、その後三十分はピエル島に向かう通常のルートを進み、その後、右に針路を取ってモンタギュー島を目指します」
(中略)
ウォルニー島の南端から半マイルの位置にあるモンタギュー島は、ウォルニー島がバロウなど海峡内のすべてに対して果たしている風防的役割の外に位置している。
孤島だ〜!英国の孤島!
架空の島なので所在地を描写から割り出してみました。
こ、孤立無援!

浅瀬なのでボートも満潮の時しか走らせられないし、車は砂にずぶずぶに埋まって進めなくなる。ガイドに頼んでいい感じの浅瀬を歩くか、ヘリしかない…。
アガサクリスティの軍艦島も綾辻先生の十角館も、大体船ではいけるのに…船も許さぬ鉄壁さよ。
なお途中で横を通り過ぎるピエル島にはパブがあるらしいです。
その名も「シップ・イン」
血縁関係もない人たちが代々受け継ぐとか、常連意識が凄いなあ。王が誕生したぞ!って騒ぐの可愛い。
警察の人、パブを横目に行軍したのか…かわいそうに…。
(英国人の呑兵衛率を多く見積もる発言)
ここから結末ネタバレ
ブラックジャックだーーー!!!
ブラックジャック (Blackjack) は、殴打用の武器[1]。サップ (sap) ともいう。
円筒形の革や布袋の中にコインや砂などを詰め、固く絞って棒状にした棍棒の一種。詰まった砂や金属で相手を打ち倒すための重量を持たせながら、表面が布や皮なので流血沙汰になりにくい。
ポーが靴下をポケットに入れた瞬間から期待してたので伏線回収大喜び。物理学だけでここにたどり着いたティリーはすごいね。ティリーがいたらDr.STONEでテッペンとれる勢力になれる。
キュレーターがボコボコになって凄い威力でヒェッとなってしまった…良い子は絶対真似しちゃ駄目な奴。
それにしてもポーは恐喝と拷問が上手だなあ〜
フリン姉のモラルハラスメント
えっぐい!ですね!
ベビーシャワーの最中、ポーにフリンのことでしたお願いとか…
「あの子がみずから選んだくだらない仕事から足を洗うよう、妹を説得してほしい」
お姉さん!その、ポーさんもね、「くだらない仕事」をやってる人なんですよ!
ひえ〜、「危険な仕事から」とか言い様はあるのに…。なんて無礼な人なんだ……。私の仕事なんて〜とかいいつつナチュラルに他人の仕事の貴賤を決める、正しさの奴隷だ。不憫。
というあたりから、妊婦路線とった時から黒幕姉じゃね?というのは解りやすい構造にはなってるんですけど、悲しいね…。
妹を愛するが、その発露が管理支配となっている愛着障害が悲しい。依存しているから依存させたい。他人の自立とか尊重を踏みにじる愛着スタイルは病気だよ!お姉さん!毒親ならぬ毒姉。
その姉を脅す材料が
「証拠がないのは解っている。嫌われてる姉のいうことと、現在の同僚の考察、どちらを信じると思う?」
ってポーはさ、他人の痛いところを突く天才か?
フリンが自分を信頼しているなら、そんな300万ドルかけて裏工作なんかしないのよ。信頼を得ていない自信があったからこそまずいと思ったし、そもそもその怒りが不当だからこそ、違法手段で奪うしかなかった。
皮肉にもブラック・スワン・チャレンジの犠牲者と同じ、自己肯定感の低さと愛着の歪さで破滅してしまった。
新キャラ
メロディー・リー
FBIです!FBIの人ですよ!!!
ポーと同じく、事件の違和感に敏感な女刑事です。
(だんだん女性に囲まれてくるな…ポー)
私もリーさんの話を聞いてXファイルレベルの荒唐無稽な陰謀論みたいになっちゃったなと思ってしまった。しかし捜査を諦めないガッツ。完全に似たもの同士だね!キュプラスクな女刑事よ。
今後どの程度関わってくるのか……
今回のカンブリア州田舎自慢
「カーライルはカンブリア州で唯一の都会だわ」
ナイチンゲールは言った。
「州南部から買い物に出てくるのは不自然な行動とは思えない。ファッションに敏感な若い女性ならなおさら。それにそもそも、レベッカ・プリッドモアはカーライル郊外に住んでいるわけだし。毎週のように出かけていたはず。わたしも毎週出かけているし、住んでいるのはアップルビーよ」
い、イオンだー!!地方のイオンですよ!
他に物買う所がないから田舎人の集まるイオンでありジャスコ……。
ストーンサークルの殺人の時の、「同じ年齢で同じ富裕層で、ここの土地で全く面識がないとかありえない」と同じ文脈、堪らないな…。
というわけで田舎を堪能しつつ次の巻も読みたいと思います。しかし訳されているのがあと三冊…(2025年春時点)もったいない…もっと翻訳してほしい…読んだら無くなるのが惜しい…。
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