【読書感想文】英国の田舎に想いを馳せながら読む「ストーンサークルの殺人 」
ストーンサークルの殺人
M.W.クレイヴン(著)東野さやか(訳)
ハヤカワ・ミステリ文庫
感想文です。原作は洋書。ネタバレは最後尾。
キャラについて
主人公 ワシントン・ポー
イギリスの国家犯罪対策庁の重大犯罪分析課所属の部長刑事。州をまたいだ事件を解決するために奔走する部署。
人嫌いっぽく斜に構えているが、懐に入れた仲間には親切な38歳のおじさん。
主人公のポーが一癖あってすごい味わいがあるんですよ…。
私が既存作品で一番近いなと思ったのはダーティハリー。かの有名なやりたい放題暴力刑事です。暴力刑事です(2度目)
いうてポーは所轄から上り詰めたので、事件解決能力が高い、頭が良い人なんですよ。
作中には何度か、ポーがモラハラろくでなし野郎相手に対して、暴力を振るってわからせをするシーンがあります。
職権乱用と規則違反にならないギリギリの匙加減、目撃者の確保、正当防衛のタイミング、過失の範囲、すべてを計算してやりたい放題!!誰も彼の暴力を訴えられない。
心ある人は排除対象だと思ってるし、野郎の味方は自分に降りかかって欲しくない、という心理を利用しまくってる。
そうなんですよ、いじめって、グループの一人をボコボコにしたら、次に自分がボコボコにされたくないから、柔ないじめグループってそこで仲間を見捨てるんですよ。(それ自体がいじめの構造なので、然もありなんという)おお…ポーよ…始末に負えない…。
その一見サイコパスか?と思える狡猾な手口の源となっている動機が興味深い。単純な正義感や過去の感傷というには、その意思が硬すぎると私は感じるんですよね。
確かに苛立ちと怒りは感じる。
しかし、ポー自身の感情の描写ってかなり静かなんですよね。つまり、これを判断しているのは感情からの正義感が全てではないのかもしれない。
私はこの行動様式は「司法国家としての構造破綻からの補填反応」と思っています。
「司法国家の整合性が破綻している」という場面で
「論理的に報われるべきだったのに報われていない」と不公平さを感じ
「この欠損をどう補うのが最適か?」という補完処理(主に暴力)が働く
ポー、貴方の役割はしょっぴくまでなのよ、裁くな…。
国家犯罪対策庁の理念的にはあってるんだけど…以下和訳。
誇りを持って奉仕する(Serve with pride)
プロフェッショナリズムと誠実さを持って行動する(Act with professionalism and integrity)
重要なことに焦点を当てる(Focus on what’s important)
倫理的で包括的であること(Be ethical and inclusive)
https://www.nationalcrimeagency.gov.uk/who-we-are/our-mission?utm_source=chatgpt.com
これをね、ポーは全部守ってるんですよ!!!
どうも英国の警察機関ってやつは、日本警察みたいな具体的な訓示めいたスローガンが少なくて、抽象的なんですよね。具体的なやり方はその時その時の最適なやり方でがんばろうね~という流動的な時代感を考えているというか。
これは怖いことですよ…、この暴力刑事、建前と現実の乖離というものを認識しながら、建前に誠実に行動している…。
警察権力を持っている、そこそこ頭の回る人間が、理想に誠実に、司法を利用しながら暴力的なジャッジをしている…不当を働いた瞬間に敵に回る恐ろしい男ですよ。
司法からの逸脱と均衡!面白い男!
ステファニー・フリン警部
めちゃくちゃエリート女性。冷静沈着!
ポーの元部下で現在上司。ポーがちょっと前にやらかした不祥事のせいで降格したとき、代わりに昇格しました。つまり警部と部長刑事の立場を交換したみたいになっちゃった。普通はここで一悶着あるけど「フリンはちゃんとしてるなあ〜」と納得はあれど、ポーに警部としての未練がないので、なんもおきなかった。なんだそれ。
代わりにこの暴力刑事のフォローという尻拭いをさせられることになるフリン…。お尻ふきシート足りてる??苦労人爆誕。
ティリー・ブラッドショー
ポーのバディ的存在。
ギフテッドレベルのIQがあり、ブレイン担当。歩く科捜研?専門は数字系。基本、状況証拠相手なら、ポーとティリー二人の最小単位で捜査ができる。
16歳でオックスフォード大学の学位を取って、なんか研究して、その後警察現場で理論の実証するぞい!と親に内緒で就職しちゃった暴れ馬である。
言及はされてないけど、おそらく発達障害者。社会性が著しく低くて発達が幼い時点で止まっている。ママが大切に育てたので、自己肯定感自体は馬鹿高い気がする。安心のASD(都合がよすぎる…)
つまり、おじさんと合法幼女バディ!おいしい!恋愛感情はないです!
舞台について
イギリスというと、そらも~~地方格差がえぐいわけですよ。
地方は人口密度が低くて過疎化が止まらない、そして広大な荒れた土地。警察は大変!
NCAってやつは、ロンドンでなければ、ド田舎で起きた犯罪を解決しにいくわけです。
日本と違って銃も持てるってんで治安は悪い。所轄にない科捜研の伝手や捜査員のプロファイリング教育がありますから、助っ人としては助かるはず…しかしその所轄との縄張り争いによる軋轢、わけわからん因習めいた人間関係、皮肉屋英国人ばっかりと部外者にはあまりにも辛い。
今回の本の舞台となるのはカンブリア州。

なんと人口密度は80人/キロメートル。
日本で言うとこれは秋田県の人口密度と同じ。田舎!鳥取の方がマシってどういうこと?!
あと土地の広さに対して警察の施設が少なすぎる…。
1署あたり487平方㎞が担当。なお日本は1署あたり325平方㎞。田舎じゃないとフェアではないので新潟県の平均も出すと1署あたり449.4平方㎞。カンブリア州手ごわい…。
湖が沢山あって湿地が多く、自然豊か。産業は観光多め。
今回の犯行現場はここから結構離れています。ちょっと話はややこしい。まあロンドンからカンブリアまで車を平気で5時間すっ飛ばす人たちからしたらなんてことはない距離なのでしょう。
そんな英国の田舎情緒がフルに描かれている本作ですが、ポーのカンブリアの自宅の近くに、実在のホテルが登場します。
シャップウェルズ ホテル
バーもレストランもWi-Fiもある!最寄りの外食屋。
宿屋と酒場が一緒になっているなんて、中世からの繋がりを感じますね。

な、なんもない~~~~!!
下の方のお隣のホテルまで4キロ以上離れています。観光地やぞ??
ホテルから三キロのところに自宅があるらしいので、ポーはA6のちょっと近くの湿原に住んでいると思います。
バリバリのオフロードカーかバギーでないと走行できず、歩いて渡るのも危険という湿原によく住んでるな…このポツンと一軒家!!(悪口)
本編には全然触れられてないんですが、こんな感じで愉快な人たちと愉快な田舎で色んなことが起きるので、まだの方は読んで欲しいと思います。
以下、ネタバレ感想
ポーがNCAの理念を守っていない部分が作中にはありました。
それは、ポーの不祥事となる「娘の居場所を吐かせるために父親が犯人を拷問で殺しちゃった」事件。
ポー的にはそこまでするつもりはなかったんでしょうね…。父親を殺人犯にするつもりはなかった。ただ娘を個人的に救い出してほしかった。
でも、みんなはポーほど拷問や恐喝は上手じゃないんだ…。
これが、最後に情報をマスコミに流す際にバタフライエフェクトとして懸念されたことの核だと私は推測します。
罪を背負うべきではない人が罪を背負う可能性。
しかし、最終的にはボタンを押してしまう。
それは、事件をもみ消そうと関わったあらゆる人が、リードの信頼ほどの重さを持たなかったからだと思います。
司法国家としての構造の破綻が、隠蔽では補えていないということ。隠蔽することにより、より破綻を招いているという感触。
最後はダンカン・カーマイケルの横柄さが引き金になるあたり、暴力刑事の拳を振るう最大の文脈は、友達の代わりに友達を馬鹿にしたやつを殴るためにある!ってのが良かったですね。
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