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DXはなぜ失敗するのか?DX投資の成否を分ける「人間」と「リーダーシップ」

この記事の三行まとめ
● DX投資の成否を分ける本質は、テクノロジーではなく「人間の心理」と「リーダーシップ」にある。システムが予定通り稼働しても、価値創出に結びつかなければDXは失敗である。
● DXは「投資」であり、プロジェクト期間は負債を積み上げている時間に過ぎない。真のリターンは運用フェーズで生まれ、ビジネス部門が価値で返済する設計が不可欠である。
● DXの本質は一過性のシステム導入ではなく、組織・業務・人が新しい状態に適応し切るまで粘り強く変化を推進することである。

この記事でわかること
● 売上・収益拡大を中心に据えたDX価値設計の優先順位
● 「実はDXをやりたくない」という組織心理の正体と突破のヒント
● DXを成功させるために求められるビジネス/IT双方のリーダーシップ像

「スケジュール通りにシステムが稼働し、予算内ですべての機能を実装した。しかし、肝心のビジネス上の成果(利益)がどこにも見当たらない」――。これは、現代の多くの組織がDX(デジタル変革)に関して陥っている最も深刻な問題点の一つ(※)です。
※   DXプロジェクトの失敗としてスケジュール遅延や予算超過も多く発生していますが、本稿ではそちらには触れないつもりです。
私は国内製薬会社でグローバルIT部門を統括し、現在はアクセンチュアで多くの変革を支援していますが、確信していることがあります。DXの成否を分けるのはテクノロジーの優劣ではなく、そこに関わる「人間」の心理と、変革を導く「リーダーシップ」の本質にあるということです。
本稿では私が過去に経験したことをベースに、DXを企業変革として進め、投資を速やかに真の価値創造(Value Creation)につなぐための3つの視点(もっとありますが・・・)と変革を推進するリーダーシップについての考えをお示しします。

視点1. DX投資を経営視点で捉え直す:投資承認は借金、効果創出は返済

経営的な視点で捉えるならばDXも投資の一つであり、投資以上の回収を期待できる場合に承認されます。
そしてプロジェクト期間とは「投資」という名の「負債(Debt)」を積み上げている時間に過ぎません。真の「利得(Gain)」が発生するのは、プロジェクトが完了し、運用フェーズに入った後なのです。よくプロジェクト実施後に打ち上げ会をやりますが、実はそのタイミングは“投資しきった状態”であり、価値水準としては底辺にいる時です。

ここで重要なのは、**「IT部門が投資という借金をし、ビジネス部門が連帯保証人として価値で返済する」**という共通認識を持つことです。最新のPMBOKも、あらかじめ定義されたプロジェクト成果物を作り上げるだけでは不十分であり、成果物そのものよりも「価値の創出」に焦点を当てることの重要性を強調しています。

続いて、私たちが狙うべき価値のタイプと優先順位についてお示しします。

  • A) 売上・収益の拡大(最大): 効果は間接的だが、理論上の限界はない。

  • B) 業務コストの削減: 標準化や簡素化、自動化や集中化による効率化。

  • C) ITコストの削減(最小): 直接的だが、ビジネスへのインパクトは最小。

 DXやIT投資の場合、多くのIT組織が連帯保証人を必要としない「C」の削減による“返済”に固執し、リターンの小さい領域で苦慮しています。真のDXを目指すなら売上・収益の拡大という「拡大型のリターン」を設計図に組み込まねばなりません。

視点2. 「実はDXをやりたくない」という本音を突破する

DXに成功する企業が少ない最大の理由は、組織のどこかに**「実はDX(変革)をやりたくない」という本音**が隠されているからだと私は信じています。私はこれを「新しいゴルフクラブは買いたくなる一方で、実はゴルフスイング修正の取り組みは気が乗らない。そのためゴルフショップで『自分に合う新しいクラブが欲しい』と言ってしまう」のと同じ構造だと考えています。旧来の新システム導入は“現行業務に合わせたシステム開発”だったのに対し、あるべきDXは“システムに合わせた組織・業務の変革”が占める割合がとても大きくなっています。最初にDXプロジェクトの定義を間違えると、期待した効果創出には結びつかないので注意が必要です。

イラストはGeminiで作成

人はもともと変化を嫌うものです。ロレン・ノードグレン氏、デイヴィッド・ションタル氏が書かれた「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由という書籍には人が変化に抵抗する理由として「惰性」、「労力」、「感情」、「心理的反発」という4種類を挙げています。

出典:「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン(著)、デイヴィッド・ションタル(著)、船木謙一(監修)、川崎千歳(翻訳)

変化を起こすには、単に施策のメリットを強く説明して「推し進める」だけでなく、歯車に挟まった砂粒のような「抵抗」を丁寧に取り除く作業が不可欠なのです。

視点3. DXの本質は「引っ越しプロセス」と「粘り強い変化への推進力」にある

DXプロセスを引っ越しプロセスにたとえると、新システム稼働はプロセス全体の中で新居に「荷物を運び入れる作業」に過ぎません。それから生活者自身が段ボールを解き荷物を片付け、新しい生活様式に慣れることまでが引っ越しのプロセス全体です。
また、ITの導入とビジネスの変化にはスピードの乖離があります。またたとえ話を使うと、ITは「交差点の乗用車」のように鋭いターンが可能ですが、ビジネスプロセスは大きな弧を描いて方向転換する「海を進む巨大な船」です。旋回には時間が必要であり、無理な急旋回は「沈没(転覆)」のリスクを伴います。この「慣性の法則」に耐えて当初目指した方向に曲がり切るまでには時間がかかることを覚悟しなければなりません。それまでの間、切り替わったITと切り替わる途中の業務の間にはギャップが生じ、その間は「システムが使いにくい」という苦情や不満を避けることが難しいのが事実です。しかし一方で人間は数か月で新たな環境に適合する(新生活に慣れる)力を持っていますので、当初目的の達成まで粘り強く力をかけ続けることが変革の成功の重要なカギと言えます。

変革を推進するリーダーシップとは

これまでお示ししてきた通り、DX(デジタル変革)はデジタル技術をイネーブラーとした企業(組織・人・業務)の変革であり、その期待効果は顧客や社会に提供できる価値を飛躍的に拡大することと言えると考えます。そのようなDXプロジェクトではビジネス側とテクノロジー側のリーダーが手を組んで変革を推進する必要があると考えます。昨今のデジタル技術の進化のスピードは加速する一方で、先日までできなかったことができるようになっています。そんな時代にテクノロジー側のリーダーには目利き力、設計力、実行力が求められます。一方で変革という険しい山を乗り越えるため、ビジネス側のリーダーには過去へのリスペクトを持ちつつ新たなビジョンの語り手となり、困難にあっても目標値を下げずに超えるべき失敗を乗り越える粘り強さが必要と考えます。そして正解が分からない時代に究極的には「この人ならついていっても良い」と思われる人格を持つことが変革を推進するリーダーに最も必要なことではないかと考えています。

結び:未来を担う皆さんへのメッセージ

デジタル技術で実現できることが業務要件を追い越し、問いへの(most likelyな)回答が瞬時に得られる時代に、人間に求められるのは「正しい問いの設定」と「人の心を動かす熱い想い」、そして「人格」だと考えます。最近「ここまでAIができるなら、人間は何をするの?」という問いを聞くことが増えました。GenAIネイティブ世代の皆さんからは笑われるかもしれませんが、私はまだ「人が150%の能力を出せるのは誰かのため」だからであり、人は誰かにとっての「誰か」になるべくして生きているのだと信じています。

まとめQ&A
Q1:なぜ「システムは成功したのにDXは失敗する」のか?
多くの場合、DXを「ITプロジェクト」として定義してしまい、業務・組織・人の変化設計が不十分なため。価値は運用フェーズでしか生まれない。
Q2:DX投資で最も優先すべきリターンは何か?
最優先は売上・収益の拡大。ITコスト削減だけではリターンが小さく、DX本来の価値を引き出せない。
Q3:DXを進めると現場の不満が増えるのはなぜ?
ITは急旋回できても業務はゆっくりしか変われず、そのギャップ期間に不満が顕在化するものの、人は数か月で新環境に適応する。重要なのは途中で方向性を変えないこと。

著者紹介
著者:須田 真也(Shinya Suda)
所属:アクセンチュア株式会社 テクノロジー コンサルティング本部
【専門分野】
 - 製薬・ライフサイエンス領域におけるDX戦略立案や実行・推進支援
 - 日本企業のグローバル化やグローバルIT組織・ガバナンス運営支援
【実績】
 - 日系製薬企業向けグローバルSOC構築プロジェクト参画
 - 日系製薬企業向けグローバルERP刷新プロジェクト参画  
 - 日系製薬企業向けIT部門設計プロジェクトリード

[参考リンク]
Accenture Technology(アクセンチュア テクノロジー) 記事一覧
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