お客さまの声を集めても、なぜ理解が進まないのか検証してみた
前回は、
「お客さまの声の集め方を検証してみた」
というテーマで、アンケート、インタビュー、SNS、レビュー、問い合わせなど、さまざまなお客さまの声の集め方について考えてみました。
今では、以前よりずっと簡単に、お客さまの声を集められるようになっています。
では、
お客さまの声をたくさん集めれば、お客さまを理解できるのでしょうか。
今回は、ここを検証してみたいと思います。
お客さまの声を集める
まずは、お客さまの声を集めます。
アンケートなら、多くのお客さまから回答を集められます。
インタビューなら、直接話を聞くことで、より詳しい内容を確認できます。
SNSや口コミなら、企業に直接届いていない感想や不満を拾うこともできます。
コールセンターや問い合わせ窓口なら、実際に困っているお客さまと対話することもできます。
こうして集められた声には、
商品への不満
サービスへの要望
困っていること
購入後の感想
改善してほしいこと
良かったこと
など、さまざまな情報が含まれています。
ここまでは、多くの企業ですでに取り組んでいることだと思います。
理解するために、集めた声を分析する
次に、
集めた声を分析します。
例えば、
「返品したい」という声が100件あったとします。
その理由を集計すると、
サイズが合わない
使いにくい
説明が分かりにくい
思っていた商品と違う
到着が遅かった
などに分類できるかもしれません。
さらに件数を集計して、
「使いにくい」という声が一番多い。
「説明が分からない」という声も多い。
ということがグラフから分かります。
ここまで来ると、
「なるほど。お客さまは、この部分に困っているんだな」
と考えられます。
つまり、
集める → 分析する → 理解する
という流れです。
分析すること自体が目的ではありません。
お客さまを理解するために、分析しています。
ところが、分析しても「お客さま」が見えてこない
ところが、
ここで一つ、気になることがあります。
「使いにくい」という声が多いことは分かった。
では、
「なぜ、使いにくいと感じたのでしょうか?」
と聞かれたら、どうでしょうか。
さらに、
「そのお客さまは、何を求めていたのでしょうか?」
そして、
「なぜ、それを求めていたのでしょうか?」
と聞かれたらどうでしょうか。
件数は分かる。
傾向も分かる。
でも、
お客さまが何を大切にしているのかまでは、見えてこない。
私は、ここに「お客さまの声を集めても、理解が進まない」理由の一つがあるのではないかと考えました。
分からないから、もう一度「集める」に戻ってしまう
お客さまのことが、まだ十分に理解できない。
すると、
「もっと声を集めよう」
となります。
アンケートの回答数を増やす。
レビューを増やす。
SNSの投稿を集める。
問い合わせデータを増やす。
そして、また分析する。
それでも、
「やっぱり、お客さまが何を考えているのか、よく分からない」
となる。
すると、また声を集める。
つまり、
集める → 分析する → 理解しきれない → また集める
という繰り返しになってしまいます。
もしそうだとしたら、
問題は「声の量」だけではないのかもしれません。
「お客さまの声」には、深さがある
ここで、
私は「お客さまの声」を、もう少し分解して考えてみることにしました。
例えば、お客さまから、
「返品したい。」
と言われたとします。
この一言から分かるのは、
「返品したい」という要求がある
ということです。
では、
「なぜ返品したいのでしょうか?」
と聞いてみる。
すると、
「思っていたより使いにくかったから。」
と答えるかもしれません。
さらに、
「どのあたりが使いにくかったのでしょうか?」
と聞く。
すると、
「初めて使う人には、どこから始めればいいのか分かりにくいんです。」
と答えるかもしれません。
さらに、
「ということは、どういう状態なら良かったのでしょうか?」
と聞く。
すると、
「説明書を読まなくても、直感的に使えるものを期待していました。」
という話が出てくるかもしれません。
最初は、
「返品したい」
だけだった声が、
「直感的に使えることを大切にしていた」
というところまで変わってきました。
ここに、
声の深さ
があるのではないでしょうか。
三層VOCという考え方
私は、この「声の深さ」を理解するために、
三層VOC
という考え方を使っています。
VOCとは、
Voice of Customer
つまり、
お客さまの声
のことです。
そのVOCを、次のように捉えます。
A層:状況・出来事
まず、
「何が起きたのか」
です。
例えば、
商品が使いにくい
届くのが遅い
返品したい
説明が分からない
といったものです。
これは、お客さまの声を聞くと最初に見えてくる部分です。
B層:意味・背景
次に、
「それは、お客さまにとってどういうことなのか」
を確認します。
例えば、
「使いにくい」
という言葉の裏側に、
「初めて使う人には、どこから始めればいいのか分からない」
という背景があるかもしれません。
つまり、
出来事の意味や背景
を理解する層です。
C1層:要求
さらに、
「では、お客さまは何を求めているのか」
を確認します。
例えば、
「もっと分かりやすくしてほしい。」
という要求かもしれません。
ここまで来れば、
「何をしてほしいのか」
は分かります。
C2層:価値感・動機
でも、
ここで終わらせません。
最後に、
「なぜ、それを求めているのか」
まで聞いてみます。
例えば、
「説明書を読まなくても、直感的に使えることを大切にしている。」
という価値観が見えてくるかもしれません。
これが、
C2層:顧客価値・動機
です。
つまり三層VOCでは、
A層 状況・出来事
↓
B層 意味・背景
↓
C1層 要求
↓
C2層 価値感・動機
と、お客さまの声を聞き進めていきます。
だから、コールセンターの「対話」が面白い
ここで、
コールセンターという顧客接点の面白さが出てきます。
アンケートやSNSでは、
お客さまが書いた言葉を受け取ります。
もちろん、それだけでも大切な情報です。
でも、
対話なら、
「それって、どういうことですか?」
と聞き返すことができます。
「なぜそう思ったのでしょうか?」
「どんな状態を期待していたのでしょうか?」
「それが大切なのは、なぜでしょうか?」
と、
一つ前の答えを受けて、次の質問をすることができます。
つまり、
一回の回答で終わらず、会話を続けながら、お客さまの理解を深められる。
ここは、
対話を中心とするコールセンターが持っている、大きな特徴の一つではないでしょうか。
「声を取る」から「理解するために聞く」へ
ここまで考えてみると、
お客さまの声を集める目的そのものも、少し変わってきます。
単純に、
「お客さまの声をたくさん集めよう」
ではありません。
そうではなく、
「お客さまを理解するために、必要なところまで聞く」
という考え方です。
状況だけではなく、
その意味や背景を確認する。
要求を確認する。
さらに、
その要求の奥にある価値感や動機まで確認する。
そうすることで、
「お客さまが何を言ったのか」
だけではなく、
「お客さまが何を大切にしているのか」
が見えてきます。
でも、この会話運びを全員ができるのでしょうか
ここで、もう一つ問題が出てきます。
三層VOCの考え方が分かったとしても、
全員が同じように質問できるとは限りません。
経験のある人なら、
「この回答なら、次はここを聞こう」
と考えられるかもしれません。
でも、
経験の浅い人には難しい。
そこで、
「三層VOCの質問を覚えてください」
と教育して、テストをして、合格したら実践。
これでは、
時間もかかります。
そして、
人によって聞き方にも差が出ます。
会話運びをAIコーチングエンジン®に実装する
そこで私は、
この三層VOCによる会話運びそのものを、
AIコーチングエンジン®に実装する
という考え方に至りました。
オペレーターが、
「次は何を聞けばいいんだろう?」
と一人で考えるのではありません。
お客さまの回答に応じて、
次に確認すべきポイントをAIがナビゲーションする。
つまり、
三層VOCに基づく会話運びを「覚える」のではなく、
三層VOCで聞き進められる仕組みを使う。
これなら、
経験の差に頼らず、
お客さまの状況から意味、要求、価値・動機まで、
より多くの人が聞き進められるようになり、深さや品質のばらつきが少なくできます。
お客さまの声を集めても理解が進まない理由
今回の検証で見えてきたのは、
お客さまの声が足りないから、
必ずしも理解できないわけではない、
ということです。
声は集まっている。
分析もしている。
それでも理解が進まない。
その理由の一つは、
集めた声が「状況・出来事」や「要求」のところで止まっているからかもしれません。
だから、
もっと集める前に、
「この声から、もう一段深く聞き進められないか?」
と考えてみる。
A層からB層へ。
B層からC1へ。
C1からC2へ。
そこまで聞き進めることで、
初めて、
「お客さまが何を大切にしているのか」
が見えてくる。
そして、その理解ができて初めて、
その声を会社の改善に使える情報として、
次の部門へ渡せるようになるのではないでしょうか。
