『カペリンの奇跡』#01 プロローグ《スタビレの帰還》 第一章【小さな安堵】
宇宙に浮かぶ、巨大な円筒状の居住ステーション、スペースコロニー。
スペースコロニーが10数基浮かぶ空域のひとつ、サイド3。
ジオン公国。
地球連邦からの独立戦争は、開戦一年後の宇宙世紀0080。
ジオンの敗戦で終戦を迎えた。
ゴウン、ゴウン。
宇宙世紀0080 1月3日
巡洋艦ムサイ『ソドン』。
その傷だらけの船が、多くの帰還兵を乗せてサイド3の1番地コロニーに入港した。
疲労の色が濃い帰還兵たちが、ぞろぞろと下船する。
薄汚れた軍服、中にはパイロットスーツそのままの者も居る。
皆、疲弊し、顔はやつれ、無精ひげの者も多い。
「負傷兵を先に運べ!」
「次の入港に備えろ。」
帰還した少年兵スタビレは、疲れ切っていた。
他の帰還兵達の波に押されるように、宇宙港からモノレールに乗りこむ。
その狭い車内は重い疲労と焦燥で満ちていた。
帰還兵の乗ったモノレールは、巨大なコロニーの外周を走る。
兵士達は終点のターミナルで下りて、シャトルに乗り換え故郷へと向かう。
ターミナルに着くと、ここも帰還兵でごった返していた。
待ち受けていた家族との再会に歓喜する者や、思いがけず戦友と再会する者。
故郷へ向かう改札に急ぐ者など、宇宙港とは雰囲気が違っていた。
そう、帰ってきた実感の扉が開き始めている――そんな喜びが満ちた雰囲気だった。
そんな人込みの中、スタビレは故郷の3番地『マハル』の時刻表を確認していた。
掲示板を見つけると……しかし、『マハル』行きは欠便になっている。
「マハルに、行けない?」
途方に暮れていると、雑踏の中から声を掛けてくる帰還兵が居た。
「よう!少年、田舎は何処だ」
それは、敗戦を決定的にした、宇宙要塞ア・バオア・クーで共に戦ったアンディさんだ。
となりにはリカルドさんも居る。
「マハルです!」
「ん、よく聞こえん!どこだって?」
アンディが聞き返してきた。
「3番地、マハルです!」
「3番地!? 3番地の住人は9番地に疎開しているらしいぞ。」
「疎開?……」
少し困惑した。
しかし、構わず続けるアンディの声に集中する。
「9番地は前に行ったことがある。」
「あ~、確か向こうのターミナルだ。」
アンディが指さした先に9番地“ウィルヘルムスハーフェン”の文字が見えた。
「あ、ありがとうございます。」
「俺は11番地だ、まぁ、また会えるか、じゃあな。」
そう言うとアンディはスタビレの肩をポンと叩いて、人込みの中に去っていった。
(何故疎開……いや、9番地には叔父さんの勤めているアルバート社がある。もしかしたら父の所在を聞けるかもしれない。)
9番地行きのシャトルの席に掛けると、胸ポケットから薄汚れた未開封の手紙を取り出した。
(リーリエはどうしているだろう。)
スタビレは一抹の不安と、小さな期待を感じながら、
日常に帰っていく安堵感に包まれ始めていた。
次章 第二章 【喪失の砲身】
帰還したスタビレに待ち受けるものは
「君に帰れる場所はあるか」
