『カペリンの奇跡』#02 プロローグ《スタビレの帰還》 第二章 【喪失の砲身】
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9番地、“ウィルヘルムスハーフェン“
“ウィルヘルムスハーフェン”はリゾートコロニーとして開発されていた。
他のコロニーとは違い、海も再現されており、自然豊かな起伏にとんだ地形だ。
静かな環境ということもあり、今大戦の戦没者慰霊碑もこのコロニーにあった。
一方、環境を地球に似せていることから、陸戦用モビルスーツの開発企業の多くがこのコロニーに集約されていた。
叔父の勤めていたアルバート社もそのひとつである。
*
「よく無事に戻ってきたな……」
「いろいろと大変だったろう。」
アルバート本社の閑散としたロビーで、安堵した表情でピービーが出迎えてくれた。
ピービーは叔父であるハゼトの同僚だ。
スタビレと同じくマハル出身、年齢は30代半ばくらい。
生まれつき足の病をもっていて、自立型の車椅子姿だ。
「敗戦だろ、ここは兵器開発をしていたから閑散としたものさ。」
疲弊したスタビレの姿を見て、ピービーが続けた。
「コーヒー飲むか。商談スペースで待っていてくれ、5番だ。」
幾つかある商談スペースの5番目。
ブラインド窓に面してテーブルがひとつ。
パーテーションで仕切られた簡素な場所で待っていると、ピービーがコーヒーマグを差し出した。
「ここ、少し暗いか?」
ピービーがブラインドを上げる。
すると、窓の外に見た事のないモビルスーツが佇んでいた。
「ああ、これはテスト中の試作機だ、いろいろあってこのままだ。」
モビルスーツ“ザク”の改良機か、武器開発のテストベッド用だろう。
テスト機という事もあって派手なオレンジ色だ。
「あの、叔父さん、ハゼト叔父さんは?」
マグを受け取ると、口を付けることもなくスタビレが尋ねた。
「生きているぞ、“アクシズ”だ。」
アクシズは、木星との間に有る資源輸送の中継基地だ。
「そうですか、叔父さん、アクシズに……」
叔父は戦争に行ったのではなかった。
安堵すると、ようやくコーヒーに口を付けた。
ピービーは、車椅子の手元に付けられたスイッチのカバーをカチカチと開け閉めしていた。
昔からの癖のようだったが、どこか落ち着かない様子でもある。
「そうだ、ピービーさん、帰還した時に聞いたんです。」
「ん?」
「マハルの住民疎開って、どういうことですか。」
スイッチを弄る動作が止まる。
「それはな……」
ピービーの表情がみるみる曇っていく……
「それは……実はな、マハルコロニーを巨大なレーザー兵器に転用する計画が……」
そう聞いて__スタビレは口を押えた。
それは、最後の決戦が行われたあの日、ア・バオア・クーで聴いたギレン総統の演説だ。
〈__地球連邦軍艦隊の半数が、我が、ソーラ・レイによって宇宙に消えた……〉
スタビレの口から思わずこぼれ出る……
「ソーラ・レイ……」
「ソーラ・レイ、そうなんだ……」
「俺たちの故郷は__巨大レーザー兵器、ソーラ・レイの砲身に作り変えられたんだ。」
「!」
何という事だ。
生まれ育った街は兵器に変えられ、何千、何万という人を殺戮したのだ。
――脳裏に懐かしい故郷が浮かんだ。
少し絵具の匂いが残る、夕暮れの美術部。
ベセールと飲んだ小さくて苦いコーヒー、古めかしいカフェ。
リーリエと見た、太陽灯に映し出した花火。
それらすべてが、今や消え失せてしまった……
ピービーは、その可哀そうな少年の、うなだれた肩に手を伸ばしかけて……
ゆっくりとその手を下した。
精一杯のぬくもりも虚しく空をさまよった……
次章、第三章 【待っていた家族】
故郷を失ったスタビレ、彼の喪失感を和らげる家族の存在。
「君に帰れる場所はあるか。」
