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虚像の王国|1話:石を棄てた民 

▶ 本作は『庄の国』の続編です。
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【あらすじ】
遺伝子検査の結果、「滅びた民族“庄の民”の王家の末裔」と告げられた会社員・花城。失われた祖国の再興を掲げる組織「玄水会」に迎え入れられた彼は、やがて理事長として巨大な共同体の中心へと押し上げられていく。熱狂する信奉者たち、政界へ広がる影響力、莫大な資金——しかし、その繁栄の裏で、花城は次第に拭えない違和感を抱き始める。これは、本当に“血”で繋がった運命なのか。それとも、誰かが作り上げた虚像なのか。崩れ始めた王国の中で、一人の男が最後に辿り着くものとは。

阿彦作

総会から数日後、楪葉から封書が届いた。
中には、手書きの文書が入っていた。
冒頭に一行だけあった。

「花城理事長へ。あなたには、庄の民の真実を知って欲しい」


庄の国、滅ぶ。
山は燃え、水は黒く濁った。

辛うじて生き残ったものたちは、身を潜めて、離れ離れとなった。誇りある庄の民であったことを忘れないために、この地で沢山採れた小さな緑の石を証として、それぞれが持つことにした。散り散りになった者たちを繋ぐのは、その石だけだった。

数年後、後から来たものたちは、最先端の武器と持ち前の強欲さをもって、本土を制圧した。

彼らは、自民族とは違う民族を汚いものとして扱い、人が住めない僻地に追いやった。隔離されたものたちは、厳しい生活を送ることとなった。

虐げられた民の中から、反乱の声が上がった。ある日、小さな緑の石を持ったものたちが集まって、反乱を起こそうと企てた。しかし、武器を持って戦おうとする抗戦派と、平和外交を望む反戦派に分かれた。

投票することになったが、抗戦派が過半数を占めた。反戦派は必死に戒めたが、もう止まらなかった。

ただ一つだけ、計算が狂った。

ある夜のことだった。反乱軍の集会に、見慣れない男が現れた。緑の石を持っていた。しかし石の色が、わずかに違った。気づいた者はいなかった。

後から来た者たちは、庄の民がいつか結集し反乱を起こすことを、すでに想定していた。緑の石の偽物を用意し、間者を紛れ込ませていた。反乱軍の動きは筒抜けとなり、あっさりと鎮圧された。

生き残った庄の民たちは、再び集まり話し合った。我々には戦いの才能はない。後から来た者たちには、とてもじゃないが勝てそうもない。

その時、一人の若者が立ち上がった。

「こんな負け続ける生き方はウンザリだ。おれは、庄の国を捨てる。そして、身分を偽って、後から来たものの国へ行くことにする」

小さな緑の石を、床に叩きつけた。

乾いた音がした。石が転がった。誰も拾わなかった。

年老いたものたちが必死に引き留めたが、若者のほとんどが、庄の国を棄ててしまった。若者たちは、後から来たものの国に潜り込んだ。あるものは将軍と呼ばれ、あるものは権力者の側近となった。

石を棄てた者たちは、そのまま戻らなかった。


文書の最後に、三行だけ付け加えられていた。楪葉の文字だった。

「小さな緑の石とともに、庄の民は綺麗な心を棄ててしまいました」

そこで、読む手が止まった。
微かなインクの匂いがした。

「古文書には、武器を封印した祠の下に、庄の民が最後に持ち寄った緑の石が眠っていると記されている。その石が出れば、全てを立証できるのです」

「あの石が現代に現れれば、人々は知るはずです。庄の民の心は、空想ではなかったのだと。この世界は、まだ戻れると信じています」

俺は、その三行を、しばらく見ていた。

手の中で、紙が、わずかに震えていた。
──あの拍手の音が、まだ消えなかった。

あの石を見つけなければならない。
その時はそう思った。

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