🧭第3話 第一歩で悟ったこと
朝一の飛行機に乗って
東京の実家に着いたのは昼頃。
羽田でレンタカーを借りて
頼れるのはカーナビだけ。
以前訪ねたときは
見晴らしのいいマンションの8階だった。
でも今回の住所は──
どこか多国籍で、妙にざわついた空気の漂う
アパートの1階。
……なんだか治安、微妙じゃない?
引っ越したとは聞いていたけれど
なぜこんな場所に?
親戚の誰も、この“新しい住まい”には
足を踏み入れたことがなかった。
埼玉の叔母ですら
この部屋の内情を知らない。
つまり、私達が“初潜入”。
「ここ……?」
半信半疑でノックして、ドアを開けた瞬間――
「くっ、くっさ!!!」
鼻の奥を突き刺す異臭。
目の粘膜がチカチカする。
テレビでしか見たことがない
あの“ごみ屋敷”が目の前に現れた。
臭いがリアルに襲ってくる。
眉間にズドンとくる衝撃とともに
言葉を失う。
男二人暮らしでも、これは異常。
空気が重すぎて
足を踏み入れるのを本能が拒むレベル。
「お義父さ~ん♪ 遊びに来ちゃった〜☆」
──なんてノリで入れる空間じゃなかった。
一歩、また一歩と中へ進むたび
体の内側までじわじわ染み込んでくる何か。
息を吸うのも苦痛で
「……無理、これはさすがに無理」
と、心の声がうっかり漏れそうになる。
でも、驚くべきことにーー
鼻って、すぐにバカになる。
数分もすれば、あの異臭も「背景」になる。
この恐ろしい適応力に助けられながら
中へと進んだ。
義父の生活は、清潔感とは無縁だった。
その空間には、孤独と限界が静かに
しかし確実に渦巻いていた。
義父は自分の体調も怪しい中で
義兄の“介護らしきこと”をしていた。
でも、当の義兄は──どこ吹く風。
してもらって当然という顔で
何もしない。何も考えない。動かない。
そりゃ、こうなるわ……。
家の中全体が
無風という名の“よどみ”に包まれていた。
夫もついに、限界突破。
手に取ったのは
そこに転がっていたファブリーズ。
「お前が匂いの元だろっっ!!!」
義兄に向かって、フルスイングで噴射。
除菌でも消臭でもなく、これはもう──
戦意表明。
義兄は、にやつきながら
蚊でも追い払うようなリアクションで
無言スルー。
私はその様子を横目に
何とも言えない気持ちで
そのアパートの空気を吸っていた。
この家の現実は
玄関の一歩目で、すでに悟っていた。
次回▶︎第4話:ネグレクトじゃない、逆ギレだ
📘 誰かの明日が、すこしだけ穏やかになりますように。
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