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【わかるAIマガジン】(第5号)そのAI活用は、〝4つの軸〟のどれの話か。

「AI活用」という言葉は、社内でも社外でも、まったく違う中身を指したまま使われています。この記事では、企業のAI活用を4つの軸に分け、自社がいまどの話をしているのかを確かめるための地図をお渡しします。読み終えたときに、次の会議の冒頭で「今日の議題は、どの軸の話か」と一言置ける状態になることを目指します。


まずは、どの話をしているのかを揃える

第4号では「自社に合うAIを、どう見つけるか」を扱い、現状の業務整理からのアプローチの重要性についてお伝えしました。本号は、「AI活用」を考えるときに迷子になりがちなAIが活用されている基本的な軸について整理します。

結論から言えば、企業のAI活用は大きく4つの軸に分かれます。ひとつ目は「個人利用」、社員ひとりひとりが日々の仕事を整理し、効率よく片づけるための使い方です。ふたつ目は「組織利用」、業務の仕組みや業務フローそのものにAIを組み込むこと。みっつ目は「開発ツール」、ものづくりやシステム開発の進め方そのものをAIで補うこと。よっつ目は「自社プロダクト開発」、AIを核にした自社の商品・サービスをつくることです。このうち前の3つは社内の生産性の話で、最後のひとつだけが事業の話になります。一般的な企業にとっての主戦場は、前の3つです。

この地図が手元にあると、投資判断も社内の議論も噛み合いはじめます。逆に地図がないと、ひとつ目の話と、ふたつ目の話では、違うアプローチになることから、AI導入の失敗にもつながりかねません。「AI活用」という言葉だけで延々すれ違うこともよくある話です。本号で持ち帰っていただきたいのは、新しい手順ではなく、この見取り図そのものです。

「うちもAIは使っている」と言えるのに、手応えがない

経営者や事業責任者の方とお話ししていると、こうした声をよく聞きます。

全社にアカウントを配って、社員も実際に使っている。だから「AIを使っていない会社」ではないはずだ。それなのに、業績や仕事の流れが変わった実感がない。

社内でAIの話をすると、どうも噛み合わない。情報システム部門は基盤や安全性の話をし、現場は目の前が楽になるツールの話をし、若手は新しいサービスの話をする。どれも間違ってはいないのに、結論だけが出ない。

そして、投資判断ができない。見積もりが出てきても、それが高いのか安いのか、そもそも今それをやるべきなのかが分からない。判断を先送りにしている自覚はあるけれど、判断する材料の形が見えない。

こうした状態を、勉強不足だと受け止める必要はないと思います。決められないのは、情報が足りないからではありません。目の前の話が「どの領域の話なのか」が分からないまま、判断だけを求められているからです。足りないのは材料ではなく、地図のほうです。

同じ言葉で、違うものを指している

なぜ噛み合わないのか。構造は意外と単純で、「AI活用」という一語が、性質のまったく違う4つの取り組みをまとめて指してしまっているからです。それぞれ、かかる費用も、必要な期間も、旗を振るべき人も、失敗したときの痛みの大きさも違います。違うものを同じ名前で議論すれば、結論が出ないのは当たり前だと言えます。

このまま放置した場合の損失は、静かに進みます。個人が使うところで止まっている限り、成果は個人の中に閉じます。速くなった人と、変わらない人の差は社内に生まれますが、業務の流れそのものは変わらないので、会社の数字にはなかなか出てきません。差がつくのは、業務の仕組みに組み込む段階へ進んだ会社と個人活用で止まっている会社との間です。この段階は、業務の形を整理し、社内の情報を扱える状態にすることが前提になります。つまりAI活用にすばやく着手しながらもしっかりと地図を描いていくことが重要なのです。

特に中小・中堅企業においては、この地図を持ったときに効いてくる強みがあります。

それは、経営者が業務の全体像を把握していることです。どの業務がどこにつながっているかを、ひとりの頭の中で確認できる会社は、実はそれほど多くありません。業務の仕組みに組み込む段階は、その会社固有の業務の形に踏み込む作業ですから、この把握がそのまま武器になります。

そして、決めてから動くまでが短いことです。加えて、後から述べる「開発のやり方が変わった」という変化のおかげで、以前なら相応の投資が必要だった仕組みづくりを、小さく試せるようになりました。後発であることが、そのまま不利にはならない状況になってきています。

自社の現在地を、4つの軸で確かめる

では、地図を広げます。専門的な言葉はできるだけ使わず、経営の言葉に置き換えて説明します。

社内の話である、3つの軸

1つ目は、個人利用です。社員がそれぞれ、チャット型のAIに文章の下書きや要約、調べ物を頼み、自分の抱えているタスクを整理して効率よく片づける使い方です。最近では、エージェント型のAIを使いタスクの処理や管理をAIに置き換える使い方も多くなってきました。いちばん速く始められて、費用も小さい。経営として決めるのは、利用状況の把握と管理方法、そして使ってよい範囲と外に出してはいけない情報の線引きです。効果は基本的にその個人のものに留まり限定的となるケースがほとんどです。

2つ目は、組織利用です。例えば、自社の書類や規程、過去の案件記録といった社内の情報をAIから参照できるようにして、問い合わせ対応や書類作成といった業務の仕組み・業務フローそのものに組み込みます。ここが最も組織的な効果が大きく、同時に最も準備が要る軸です。最近では、AIエージェントで簡易的に構築することができるようになりましたが、データの取り扱いポリシーやAIエージェントの共有および管理方法などが個人利用よりも複雑になるため、導入には注意が必要です。
経営として決めるのは、誰にどこまでの情報を見せるかという権限、社内データの整理、そして責任を明確にしたうえで人がどこに介在するのか、また、間違いに誰がどう気づくかという仕組みです。

3つ目は、開発ツールです。ものづくりやシステム開発の進め方そのものを、AIで補うという話です。AIに補助させながらソフトウェアや業務ツールをつくる手法が現実味を帯びはじめ、システム開発会社はもちろんのこと、社内で使う道具を、以前よりずっと短い期間と小さな費用でつくれるようになりました。経営として決めるのは、外へ発注する前に、まず小さくつくって確かめる余地があるかどうかです。この軸は、組織利用の進め方と費用を大きく左右します。ですから、仕組み化を検討する前にこれについて知っておく価値があります。

社外に出す、4つ目の軸

4つ目は、自社プロダクト開発です。AIを核にした自社の商品・サービスをつくり、市場に出す軸を指します。AIを組み込んだサービス、AIを載せた機器などが当てはまります。これだけは、社内の生産性ではなく事業の話です。ですから判断の性質も別で、本業の改善ではなく、新規事業への投資として考えるものになります。一般的な企業にとって当面の主戦場は前の3つですから、この軸については「今の話ではない」と一度置くのも、立派な判断だと思います。

どの軸に進むにも、前提はひとつ

そして、どの軸に進むにしても、共通の前提がひとつあります。人です。

業務は分かるけれどAIを触らない人だけでは、これまでのやり方が守られます。AIには詳しいけれど業務を知らない人だけでは、現場で使われないものが出来上がります。必要なのは、業務が分かり、かつAIが使える人です。この二つがひとりの中で重なったとき、はじめて現場の課題のほうにAIを寄せていくことができます。

しかも、この重なりを外からの採用だけで埋めるのは簡単ではありません。経済産業省の推計では、AI・ロボットを利活用する人材は2040年時点で約340万人不足するとされています(需要782万人に対し供給443万人)。あくまで長期の推計ですから幅を持って読むべき数字ですが、方向としては、採用市場から連れてくる前提だけで組み立てるのは分が悪い、ということになります。であれば、業務をすでに知っている自社の社員が、AIを使えるようになる道のほうが現実的です。地図のどこに進むかを決める前に、この前提を確認しておく価値があります。

つまずくのは、たいてい軸を取り違えたとき

帝国データバンクが2026年3月に行った調査では、生成AIを「活用している」と答えた企業は34.5%でした(出典: 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」2026年3月)。ただ、この「活用している」の中身は一様ではありません。社員が個人で使っているだけの会社も、業務フローに組み込んだ会社も、同じひとつの回答に含まれます。数字だけを見て遅れていると焦る前に、自社と他社が同じ軸の話をしているのかを確かめたほうが、判断を誤りにくいと思います。

そのうえで、軸を取り違えたときの詰まり方には、決まった形があります。4つの軸それぞれに対応して、4つ挙げます。

1つ目は、個人利用が広まったことで、AI化は済んだと感じてしまうことです。アカウントを配り、社員も使っている。数字の上では利用率も悪くない。それで一段落してしまい、いちばん組織的な効果が大きい組織利用に進まないまま時間が過ぎます。個人利用は入り口として正しいのですが、そこは地図の端であって、中心ではありません。

2つ目は、その組織利用を、個人利用と同じ感覚のまま進めてしまうことです。ひとりで使えたのだから社内システムでも同じだろう、と考えると、三つの壁に同時にぶつかります。誰にどの情報を見せるかという権限の壁。社内の文書やデータが揃った形になっていないという整理の壁。そして、AIがもっともらしい誤りを返すことへの備えの壁です。個人利用なら、間違いは使った本人がその場で気づけます。しかし業務フローに組み込むと、誰も気づかないまま先へ流れていきます。ここが、感覚をそのまま持ち込めない理由です。

3つ目は、開発ツールという軸があることを知らないまま、組織利用を重い発注で進めてしまうことです。以前は、業務の仕組みをつくるとなれば、要件をすべて固めてから大きく発注するのが当たり前でした。いまは、現場に近いところで小さくつくって確かめ、要るものが見えてから広げる進め方が選べます。この選択肢を知らずに従来どおりの手順を踏むと、費用も時間も、必要以上にかかってしまいます。

4つ目は、自社プロダクト開発を、社内の効率化と同じ物差しで測ってしまうことです。社内の3軸は、削減できる時間や工数で判断できます。けれども自社プロダクト開発は事業ですから、問われるのは買ってくれる相手がいるか、売る手立てがあるか、出したあとも直し続けられるかです。同じ稟議の様式に載せると、回収が読めないという理由だけで筋のよい話が消えたり、逆に「社内で便利だったのだから売れるだろう」と市場を確かめないまま進んだりします。軸が違えば、物差しも違います。

現場でいちばん多いのは、行き違い

私たちの支援の現場で最も多いのは、技術の問題ではなく、行き違いです。

会議の最初の十五分、参加者がそれぞれ違う軸の話をしていることに、誰も気づいていない場面によく出会います。例えば、片方は社内の効率の話をし、もう片方は売り物になるかどうかの話をしている。ここで「今日の話は、社内を楽にする話ですか、それとも外に売る話ですか」と一言挟むだけで、その後の進み方が変わります。

組織利用の話になると、担当が情報システム部門に寄っていくのもよく見ます。ただ、この軸で本当に決めるべきなのは技術の選定ではなく、「どの業務の、どこまでを任せるか」です。これは業務側にしか決められません。技術部門に任せきりにすると、たいてい途中で止まります。

もうひとつ、前向きな気づきもあります。「業務が分かり、AIも使える人」は、たいてい社内にもう何人かいることがあります。多くは若手か中堅で、役職はついていないことが多い。見つけ方は簡単で、日々の面倒を自分で工夫して減らしている人を探すことです。そういう人は、たいてい誰にも言わずにAIを使っています。一度社内を見渡してみることをおすすめします。

陥りやすい落とし穴も挙げておきます。個人利用の「利用率」を成果指標にしてしまうことです。利用率は上げられますが、上がっても業務の流れは変わりません。指標が地図の端に置かれたままだと、組織はそこから先へ進む理由を持てなくなります。

明日、コスト0で、できること

何か試してみようと思われたなら、費用のかからないところから始めてみてください。

まず、紙を一枚用意して、いま社内で動いているAI関連の取り組みを、思いつく限り書き出してみてください。そのうえで、個人利用・組織利用・開発ツール・自社プロダクト開発の四つに仕分けます。所要十分ほどですが、自社の取り組みがどこに偏っているかが一目で分かります。個人利用ばかりが並ぶなら、それは失敗ではなく、次の一手が明確だということです。

次に、その仕分けに重要度や優先順位をつけてください。個人で取り組めること、会社として判断を伴うことを明確にするだけで導入方針を整理することができます。

そして、業務が分かり、AIも使える人が社内に何人いるかを数えてみてください。名前が挙がるかどうか、そして何人挙がるかが、次の一手の速さをそのまま決めます。ゼロだったとしても、それは「まず誰を育てるか」という次の議題が見つかったということです。

地図があれば、「進まない」も選べる

地図の効用は、進む先が分かることだけではありません。今は進まない、という判断も、根拠を持って選べるようになることです。4つのうちどれをやらないのかを説明できる状態は、何も決めていない状態とはまったく違います。
また、業務改善を実現するために、必ずしもAIを組み込んだシステムである必要はなく、既存のシステムの改修やAIを必要となしないシステム開発で十分であることもよくあります。

そして、どの軸に進む場合も、真ん中にいるのは人です。AIは人を減らすための道具ではなく、業務を知っている人の力を、これまで届かなかった範囲まで届けるための道具だと考えています。現場を分かっている人が、その理解を保ったままAIを使えるようになったとき、組織の中に眠っていた力が動きはじめます。

決めることの重さは、外からはなかなか見えません。4つの軸のうちどこに、いつ、どれだけ張るのか。その判断を引き受けているのは経営者であり、その席はいつも少し孤独なものだと思います。それでも、地図さえ手元にあれば、いつ動くかは自社の都合で選べます。焦らず、まずは紙一枚の仕分けから始めてみてください。

現在地を、一緒に確かめる相手として

私たちは、AI導入支援・AI人材育成・システム開発を手がけています。
ご相談の入り口でいちばん多いのは、実は「これはどの話なのか整理したい」という段階のご相談です。ですから、何かを提案する前に、いま社内で動いている取り組みを4つの軸に並べ直し、どこが空いているのかを一緒に確かめるところからご一緒することが多くあります。この3つを併せ持っているのは、どの軸に進むと決まっても伴走できるようにしておきたいからです。

もし、自社の現在地を一度だけ第三者と一緒に確かめてみたい、あるいは社内で噛み合わない議論を整理したい、という段階でしたら、無料相談という選択肢もあります。

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なお、進む軸がすでに決まっていて、「では、どの業務から始めるか」「自社に合うものをどう見つけるか」を知りたい方は、前号(第4号「「自社に合うAI」は、どうやって見つけるのか」)と第3号をあわせてお読みください。あの二号でお伝えした手順は、この地図でいえば、個人利用と組織利用の中をどう進むかの話でした。地図で場所を決めてから読むと、使いどころがはっきりします。


さて、あなたの会社でいま動いているAIの取り組みは、4つのうち、どの軸に集まっているでしょうか。


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