AIと経済|「資産のインターネット」は始まるのか ―「お金のインターネット」の次に来る金融革命―
ここ数週間、私はAIと対話しながら、ステーブルコインに関するニュースを追い続けてきました。
最初のきっかけは、野村ホールディングスとCircleによる国際決済のニュースです。それまで私は、「仮想通貨」と聞くと、価格が大きく動く投機商品というイメージしか持っていませんでした。
ところが調べてみると、円やドルなどの法定通貨に価値を連動させたステーブルコインは、国際送金や企業間決済を速く、低コストにする新しい仕組みとして期待されていました。
私は最初の記事で、仮想通貨が
「投機の対象」から「金融インフラ」へ
と役割を変えつつあることを整理しました。
続く記事では、JCBによる店舗決済、SBIグループによる金融サービス、企業間決済や物流会社の委託費支払いなど、ステーブルコインが実社会へ広がる動きを取り上げました。
一つひとつは別々のニュースです。
しかし、AIと一緒に背景を整理してみると、それらはすべて、
お金をブロックチェーン上で動かす、新しい金融インフラ
という一本の流れにつながっていました。
私はこの変化を、
「お金のインターネット」
と表現しました。
ところが今回、株式のトークン化を扱った日経新聞の記事を読んで、さらに大きな変化が始まろうとしていることに気付きました。
今回の主役は、お金ではありません。
株式をはじめとする、資産そのものです。
お金の次は「資産」がネットにつながる
これまでブロックチェーン上で動かそうとしてきた主な対象は、円やドルに連動するステーブルコインでした。
しかし今、世界では、株式・ETF・債券・不動産・投資ファンド
といった資産まで、ブロックチェーン上で管理・取引しようという動きが広がっています。
つまり、
「お金のインターネット」から「資産のインターネット」へ
という進化です。
これは、単に株式を電子データに置き換えるだけの話ではありません。
資産の保有、売買、決済、権利移転といった金融市場の仕組みそのものを、作り替える可能性を持っています。
「トークン化」とは何か
「トークン化」という言葉は、少し難しく聞こえます。高校生にも分かるように言えば、
資産に、ブロックチェーン上のデジタル権利証を付けること
です。
昔、株式は紙の株券で管理されていました。その後、株券は電子化され、証券会社や証券決済機関のシステム上で集中管理されるようになりました。
そして次の段階として、資産に関する権利をブロックチェーン上で記録し、移転できるようにする仕組みが登場しています。
こうしたものは、一般に**「デジタル証券」や「セキュリティ・トークン(ST)」**などと呼ばれます。
ここで重要なのは、単なる暗号資産とは異なり、多くの場合、株式や社債、不動産などの実在する資産や法律上の権利と結び付いていることです。
資産そのものの価値が変わるわけではありません。
変わるのは、
権利を管理する方法と、資産を流通させる仕組み
なのです。

何が便利になるのか
資産のトークン化が進むと、売買後の受け渡しや決済を、これまでより速くできる可能性があります。
従来の証券取引では、取引が成立した時点と、実際に現金と証券を受け渡す時点の間に時間があります。これをブロックチェーン上で資金決済と資産移転を連動させれば、将来的には、受け渡しまでの時間を大幅に短縮できるかもしれません。
さらに、次のような変化も期待されています。
取引時間の拡大と、将来的な24時間取引の実現
国境を越えた投資へのアクセス改善
資産を細かく分けることによる少額投資
仲介事務や決済コストの削減
所有権や取引履歴の確認の効率化
インターネットが情報を瞬時に世界へ届けたように、資産もまた、より速く、細かく、国境を越えて動く世界を目指しているのです。ただし、技術的に即時移転が可能であっても、実際の取引には、投資家確認、規制対応、税務処理、システム管理などが必要です。
したがって、すぐにすべての資産が24時間365日、数秒で取引できるようになるわけではありません。
技術の可能性と、現実の制度運用は分けて考える必要があります。
日本は本当に出遅れているのか
今回の記事では、日本が株式トークン化の分野で出遅れているという問題意識が示されていました。
しかし私は、単純に「日本は遅れている」と評価するだけでは、実態を十分に表していないと感じます。
日本には、
証券保管振替機構、通称「ほふり」
という、信頼性の高い証券決済インフラがあります。
日本の株式や社債は、すでに紙の証券ではなく電子データで管理され、売買や権利移転も効率的に処理されています。
そのため、「現在の仕組みでも十分に便利で安全ではないか」という考え方が生まれるのは自然です。
完成度の高い既存システムがあるからこそ、新しい仕組みに全面移行する必要性が見えにくいとも言えます。
一方で、日本は制度面で何もしてこなかったわけではありません。
金融商品取引法などの法制度を整え、法律上の権利をデジタル化したセキュリティ・トークンを扱える基盤を、比較的早い段階から整備してきました。
実際に、不動産を裏付けとするセキュリティ・トークンや、デジタル社債などの発行事例も出ています。
つまり、日本は、
法制度や国内での実用化では一定の先行例がある
一方で、
市場規模、取引の活発さ、国際展開では米国が勢いを増している
と整理するのが適切でしょう。
問題は、国内で使える仕組みを持っているかどうかだけではありません。
世界が、
取引時間の拡大
決済期間の短縮
国境を越えた投資
共通のデジタル基盤
へ向かう中で、日本の市場が国際的な資金の流れにどう接続していくかが問われています。
したがって、
「日本がただ出遅れている」のではなく、「次世代の世界標準をめぐる競争が本格化している」
と見る方が、実態に近いのではないでしょうか。
実は、この記事を書く前の7月9日には、三井住友信託銀行がブロックチェーンを活用したデジタル証券の流通実験を発表していました。投資信託(MMF)の受益権をデジタル証券として扱い、発行・償還や投資家保護などを検証しながら、2026年度中の本格展開を目指すという内容です。
その時点では、「日本でも新しい実験が始まる」という個別ニュースとして受け止めていました。しかし、その後に日経新聞で米国の資産トークン化競争を扱った記事を読み、世界全体の流れと重ね合わせたとき、初めて「これは日本だけの話ではなく、世界規模で進む金融インフラの転換なのだ」と理解できました。
なぜ米国はこれほど本気なのか
今回のテーマを調べる中で、私が最も興味を持ったのは、米国が株式や債券のトークン化に積極的な理由です。
NYSEやNASDAQ、資産運用会社、金融機関などが狙っているのは、単なる事務コストの削減だけではありません。
その先には、
世界中の投資資金を米国市場へ引き込む
という、より大きな狙いがあると考えられます。
現在、世界には、米国株に投資したくても、証券口座の開設、外貨送金、最低投資金額、取引時間などの制約によって、簡単には参加できない人が大勢います。
しかし、トークン化された株式やファンドに、スマートフォンから少額でアクセスできるようになれば、投資家の裾野は大きく広がります。
例えば、これまで米国株への投資が難しかった地域の人でも、1,000円相当などの少額から参加できるようになるかもしれません。そうなれば、米国市場には、これまで取り込めていなかった新しい資金が流入します。
米国は新しい技術を使い、国内の金融市場を便利にするだけでなく、
世界の資金が集まる市場としての優位性を、さらに強めようとしている
のではないでしょうか。
「資産のインターネット」のルールは誰が作るのか
ここで重要なのは、これが単なる技術競争ではないということです。
同時に、
世界のお金と資産を動かすルールを、誰が作るのか
という主導権争いでもあります。
かつてインターネットの世界では、検索、通販、SNS、クラウドなどの主要な基盤を米国企業が築きました。スマートフォンでも、iPhoneとAndroidが事実上の世界標準となりました。
利用者は自由にサービスを選んでいるように見えても、その土台となるルールや技術仕様は、限られた国や企業によって作られています。
金融でも同じことが起きる可能性があります。
米国は、民間金融機関や取引所、IT企業が市場を主導しながら、制度とインフラを整えようとしています。
欧州は、金融の安定性や投資家保護、個人情報保護を重視し、共通ルールを整備しながら進める傾向があります。
日本も、既存の金融制度との整合性や投資家保護を重視し、慎重に実用化を進めています。
一方、中国は、ブロックチェーン技術やデジタル通貨の基盤を国家主導で推進しながら、民間の暗号資産取引には厳しい規制を設けています。
それぞれの国が異なる戦略を取っています。
その結果、今後は、
どの国の法律が適用されるのか
誰が資産の真正性を保証するのか
投資家の本人確認をどう行うのか
国境を越えた取引を誰が監督するのか
不正や破綻が起きた際に誰が責任を負うのか
といった問題が、ますます重要になります。
資産がインターネット上を自由に動くほど、共通ルールと信頼できる運営主体が必要になるからです。
「資産のインターネット」を制するのは、最も優れた技術を持つ国とは限りません。
世界の市場参加者が安心して利用できるルールと仕組みを作った国や企業
が、主導権を握る可能性があります。

不動産や美術品まで変わる
トークン化されるのは、上場株式だけではありません。
世界ではすでに、不動産・債券・非上場企業の株式・プライベートファンド・美術品・金などの商品
といった資産も対象になっています。
こうした現実世界の資産をブロックチェーン上で扱う仕組みは、
RWA(リアルワールドアセット)のトークン化
と呼ばれます。
例えば、100億円のオフィスビルを100万口に分ければ、計算上は1口1万円になります。これまで大規模な不動産には、機関投資家や一部の富裕層でなければ直接投資できませんでした。
しかし、資産を細かく分けて販売できれば、個人でも少額から参加できる可能性があります。
美術品や高額なワイン、非上場企業の株式なども同様です。
一つの資産を複数の投資家で共有し、その権利を取引できるようになれば、これまで売買しにくかった資産に新しい市場が生まれるかもしれません。ただし、小口化されれば必ず売買しやすくなるわけではありません。
買い手と売り手が十分に存在しなければ、トークン化しても流動性は生まれません。また、実物資産の管理、評価、修繕、保険、倒産時の権利保全など、デジタル化だけでは解決できない問題も残ります。
トークンは資産の権利を表す道具です。
しかし、その裏にある不動産や企業、美術品そのものの価値とリスクが消えるわけではありません。
私たち個人投資家は何を準備すべきか
このような記事を読むと、「すぐにトークン化された新しい商品へ投資した方がよいのではないか」と思う人もいるかもしれません。
しかし、私は焦る必要はないと考えています。
新しい技術や市場の立ち上がり期には、将来性の高い商品だけでなく、仕組みが分かりにくい商品や、十分な流動性がない商品も登場します。
また、次のような点も確認する必要があります。
どの法律に基づく商品なのか
実物資産とトークンの権利が本当に結び付いているか
発行者や管理者は信頼できるか
売りたい時に売却できるか
手数料や税金はどうなるか
システム障害や秘密鍵の紛失への対策はあるか
つまり、トークン化されているというだけで、安全性や収益性が高くなるわけではありません。重要なのは、新しい商品に飛びつくことではなく、
金融の仕組みが、どの方向へ変わろうとしているのかを理解しておくこと
だと思います。
NISAや投資信託、ETFといった現在の資産運用が、すぐになくなるわけではありません。
将来は、既存の金融商品を利用する際の裏側で、ブロックチェーンやデジタル証券の仕組みが使われるようになる可能性もあります。利用者が技術を意識しないまま、決済や資産管理だけが速く、安く、便利になることも考えられます。
私自身、少し前までは、「仮想通貨=投機」という程度の認識しかありませんでした。
しかし、AIと対話しながら、
ステーブルコイン
国際送金
店舗決済
企業間・物流決済
株式や不動産のトークン化
といったニュースを整理することで、すべてが
次世代の金融インフラを構築する動き
としてつながっていることが見えてきました。
おわりに
インターネットは、情報の流れを変えました。
AIは、膨大な情報を整理し、理解を深めるための力を与えてくれています。
そしてブロックチェーンは、お金だけでなく、資産そのものの流れを変えようとしています。
今回の記事を通じて私が感じたのは、「株式のトークン化」という一つのニュースの裏側で、
世界規模の金融インフラが更新されようとしている
ということでした。
最初は、ステーブルコインによる国際決済の話でした。
次に、店舗や企業、物流現場でお金を動かす仕組みへ広がりました。
そして今、その流れは、株式、債券、不動産など、資産そのものへ向かっています。
一つのニュースだけでは、点にしか見えなかった情報も、AIと対話しながら背景を整理すると、点と点が線になり、やがて時代の大きな流れとして見えてきます。
新しい商品へ急いで投資する必要はありません。
しかし、自分たちが利用している金融の土台が、どのように変わろうとしているのかは、知っておく価値があります。
これからもAIと一緒にニュースを読み解きながら、その先にある社会や経済の変化を考えていきたいと思います。
【参考記事】

