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Coke ONのスタンプは客のスマホ回線で飛んでいる。53万台にSIMを積まなかった設計

私の尊敬するマーケターが、Coke ONについて面白い記事を書いていた。

Coke ONをロイヤルティ施策ではなく、マーケティング理論を実行するためのインフラとして読み直す記事だ。理論の話は、ぜひ彼の記事を読んでほしい。

私は決済オタク a.k.a. ずぼら男として、同じアプリを別の登山口から登ってみたい。

理論ではなく、配線の話をする。


赤い自販機を、つい探してしまう

先に告白しておくと、私はこのアプリが元々好きだ。

普段、ポイントというものにほとんど興味がない。それなのに、Suicaを連携して以来、自販機が並んでいると赤いやつを探してしまう。

冷静に計算すると、15本買って1本無料。1本あたり約10円引きだ。スーパーやコンビニのPBを買った方が、よっぽど安い。それは知っている。

それでも自販機で買ってしまう私のような人間にとって、あのスタンプは免罪符なのだ。割高だと分かっていて買う後ろめたさを、「まあ、貯まってるし」が赦してくれる。せめてもの救いというやつだ。

Coke ONは、自販機を安くしなかった。

自販機を、許せるものにした。

ずぼらの線引きは、どこにあるのか

一方で、私はウォレットに残高をチャージする機能は使っていない。面倒だからだ。

私がやったのは、最初にSuicaを登録した一回だけ。あとは何もしていない。買うときにアプリすら開かない。それでもスタンプは貯まっていく。

……ん?

アプリを開いていないのに、どうやってスタンプが飛んでいるんだ?

ここで決済オタクの血が騒いだ。自販機とスマホの間はBluetoothだとして、その先、サーバーまでの通信は誰の回線が運んでいるのか。

自販機のSIMか。客のSIMか。

調べてみたら、Coke ONにはレールが2本あった。

アプリ派のスタンプは、客のスマホ回線で飛ぶ

まず、アプリを自販機に接続して買う王道ルート。

スマホ自販機とアプリはBluetoothでつながる。スマホ側でBluetoothと位置情報をオンにして近づけると自動接続し、買った瞬間にスマホが震えてスタンプが貯まる。

Coke ONのアプリ接続スタンプの通信経路図。自販機からBLE(Bluetooth)でスマートフォンへ購入情報が渡り、スマートフォンから客のモバイル回線を通じてCoke ONサーバーへ届く流れを示す。自販機側に通信回線は不要。
アプリ接続スタンプの通信経路

このとき、自販機に載っているのは安価なBluetoothユニットだ。サーバーとの通信は、スマホ側、つまり客の回線が担っている。

だから電波の悪い場所ではスタンプの反映が遅れることがあるし、スマホがオフラインだとこのルートは動かない。通信しているのは自販機ではなく、あなたのスマホなのだ。

この設計が効いてくるのは、台数を考えたときだ。Coke ON対応自販機は全国53万台以上。この全部にセルラーモジュールを積み、月額の回線費を払い続けるとしたら、初期投資も維持費も桁が変わる。

Bluetoothユニットの後付けなら、既設の自販機を安く「スマホ自販機」に変えられる。通信インフラは、客のポケットにすでにある。

53万台へのスケールは、この割り切りが可能にした。

なお、正確に書いておくと、キャッシュレス決済の端末や自販機の遠隔管理には機体側の通信もある。ここで言っているのは、アプリ接続とスタンプの経路の話だ。

ずぼら派のスタンプは、翌日に「まとめて」届く

では、アプリを開かない私のスタンプはどうか。

私が使っているのはCoke ON ICという機能で、2019年に始まった。電子マネーをアプリに登録しておくと、接続不要で、その電子マネーで買うだけでスタンプが貯まる。

ただし、公式ヘルプにはこうある。スタンプの付与は利用の翌日から3日前後。

この時差が、答えだ。

アプリ接続は、買った瞬間にブルッと震える。リアルタイムだ。客の回線がその場で運んでいるから。

Coke ON ICは、翌日以降にまとめて届く。決済側のデータが、後から処理されてスタンプになるから。

Coke ONのスタンプ付与2方式の比較表。アプリ接続方式は通信経路が客のスマホ回線で付与は即時、キャンペーンやスタンプ2倍の対象。Coke ON IC方式は決済データ経由で付与は翌日から3日前後、スタンプ2倍や購入キャンペーンは対象外。
Coke ONの2本のレール

さらに面白いのは待遇の差だ。Coke ON ICの利用分は、スタンプ2倍キャンペーンや製品購入キャンペーンの対象外。何のドリンクを買ったかも記録されない。素のスタンプが1個、静かに届くだけだ。

同じ1本を買っているのに、レールによって扱いが違う。

なぜか。

スタンプ2倍は、回線とデータの「借り賃」だった

アプリを接続して買う客は、コカ・コーラに2つのものを貸している。

1つは通信。スタンプのデータを、自分の回線で運んであげている。

もう1つはデータの解像度。どの自販機で、いつ、何を買ったかが、その場で紐づく。

Coke ON ICの客、つまり私は、どちらも貸していない。通信は決済網まかせ、買った銘柄は渡らない、届くのは翌日。

スタンプ2倍やキャンペーンがアプリ接続だけを優遇するのは、こう考えると筋が通る。あれは回線とデータを貸してくれる人への借り賃なのだ。

私は何も貸していないので、素のスタンプだけをもらう。それでも15本で1本くれるのだから、ずぼらへの優しさとしては十分すぎる。

2016年の自販機で、MPMをやっていた

決済オタクとして、この構造には見覚えがある。

QRコード決済のMPM店舗掲示型と呼ばれる方式だ。店は紙のQRコードを貼るだけ。読み取りも、通信も、決済処理の起点も、ぜんぶ客のスマホがやる。店側に端末はいらない。

この「客の端末を借りる」構造があったから、QR決済は端末を置けない小さな店まで一気に広がった。

QRコード決済のMPM方式とCoke ONのアプリ接続方式の構造比較図。どちらも店舗・自販機側は掲示物や安価なユニットのみで、読み取り・通信・処理を客のスマートフォンが担う共通構造を示す。
「客の端末を借りる」構造の比較

コカ・コーラは、同じコスト構造を2016年、自販機でやっていた。

端末を賢くするのではなく、客のポケットの端末を借りる。

QR決済の普及が話題になるより前に、53万台の販売網で、静かに。

それでも私は、赤い自販機を探す

尊敬するマーケターは、Coke ONを「理論を実行するインフラ」と読んだ。

私の目には、「客の端末と回線を借りる設計」に見えた。

同じアプリの、表と裏の話だと思う。表には15個のスタンプが並んでいて、裏には53万台ぶんの通信費をどうするかという、身も蓋もない計算が走っている。そして私は、その両方が好きだ。

私は今日も赤い自販機を探す。アプリは開かない。通信費も貸さない。それでもスタンプは貯まる。

ずぼらに優しい設計から、10円分の免罪符を受け取りながら。


この記事が面白かったら、スキを押していってください。スタンプと違って、翌日ではなく即時に私へ届きます。


参考URL

  • 「Coke ONは、競合へのトロイの木馬かもしれない」
    https://note.com/baokcg69/n/nef74f3926b56

  • Coke ONアプリの使い方(日本コカ・コーラ) https://c.cocacola.co.jp/app/howto/

  • スマホ自販機と接続できない(Coke ONヘルプ・Bluetooth接続要件) https://c.cocacola.co.jp/spn/app/help/connect/

  • Coke ON IC 公式ページ https://c.cocacola.co.jp/app/ic/

  • Coke ON IC よくあるご質問(付与タイミング・キャンペーン対象外) https://c.cocacola.co.jp/app/help/ic/index.html

  • 日本コカ・コーラ プレスリリース「Coke ON IC」提供開始(2019年4月22日) https://www.cocacola.co.jp/press-center/news-20190422-13

  • 日本コカ・コーラ「Coke ON 10周年記念企画」(7,000万DL・53万台の出典) https://www.coca-cola.com/jp/ja/media-center/news-20260226-11

  • ケータイ Watch「1500万DLで新たなステージを目指す「Coke ON」アプリの秘密を聞く」 https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/interview/1201160.html

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