見出し画像

ダブルチェックしているのになぜ誤送信はなくならないのか

「送る前に確認してください」

多くの職場で何度も繰り返されている言葉です。

メールの宛先を見る、添付ファイルを開く、チャットの投稿先を確かめる、クラウドの共有権限を確認する、個人情報を扱うときは別の人にも見てもらう。

それでも誤送信や共有ミスはなくなりません。

厚生労働省は2026年7月27日、行政文書の開示に関係する書類を本来の相手ではない第三者に誤って送付していたと公表しました。

公表資料によると、申出書などは7月3日に郵送され、7月13日に第三者からの連絡で誤送付が判明しています。

原因は、以前に郵便を発送した相手の連絡先が記載された宛名ラベルを誤って封筒に貼ったことでした。

宛名ラベルの貼り違えと聞くと少し古い事務ミスに見えるかもしれません。

しかし、起きたことを分解すると、メールやクラウドを使う今の職場にもそのまま重なります。

以前の情報が残っていた。
複数人での確認が行われなかった。
本来の作業場所が使われなかった。
定められた確認手順が機能しなかった。

問題は、郵送かデジタルかではありません。

送信前にミスを止める仕組みが、実際の業務で機能していたかどうかです。

ルールはあった。それでもその日には機能しなかった

厚生労働省の公表では、開示文書などを発送する際、他の書類が紛れないよう自席以外の場所で作業し、封をする直前に封筒の宛先を読み上げ、封入する文書の宛先と一致しているかを複数人で確認することになっていました。

ところが当日は、担当係2人のうち在庁していたのは1人だけでした。

その結果、複数人での確認を行わないまま、自席で封かんが行われたとされています。

ここで大事なのは、確認ルールそのものが存在しなかったわけではないという点です。

ルールはあった。
けれど、その日の業務の流れでは使われなかった。

会社でも同じことが起きます。

「社外メールは上司に見てもらう」
「添付ファイルは送信前に確認する」
「個人情報は共有リンクで送らない」
「生成AIに機密情報を入力しない」

こうした決まりは多くの会社にあります。

ただ、急いでいるとき、担当者が休みのとき、締切が迫っているとき、いつもの相手だから大丈夫だと思ったとき、手順は省略されやすくなります。

誤送信はたいていその例外の場面で起きます。

デジタル業務にも残る「古い宛名ラベル」

今回の直接の原因は、以前使った宛名ラベルが作業の中に残っていたことでした。

デジタル業務にもこれに当たるものがあります。

前回のメールをコピーして、宛先を変え忘れる。
過去の見積書を上書きして、会社名や金額が残る。
以前の共有リンクをそのまま再利用する。
電子契約の送信先に、前任者の情報が残っている。
別の顧客向けのファイルを添付する。

前回データの流用そのものは仕事を速くするための工夫です。

毎回ゼロから作るより、以前の文面やファイルを再利用したほうが効率はよいでしょう。

ただし、前回データには、前回の相手、金額、ファイル名、共有範囲も一緒に残ります。

流用が悪いのではありません。

古い情報が残ったまま、次の作業に入り込むことが危ないのです。

ダブルチェックが形だけになる理由

ダブルチェックもやったという事実だけでは事故を防げません。

担当者が作った資料を隣の人がざっと見る。
確認欄に印を付ける。
チャットで「確認しました」と返す。
送信前のメールを上司へ転送する。

これでは、1人目と2人目が同じ見方をしているだけかもしれません。

ダブルチェックの役割は、1人目の思い込みを別の視点で止めることです。

そのためには、「確認してください」だけでは足りません。

何と何を照合するのかを、あらかじめ決めておく必要があります。

メールなら、宛先、CC、BCC、添付ファイル、本文中の会社名、ファイルの中身。

クラウド共有なら、共有相手、公開範囲、閲覧・編集権限、外部共有の有無、有効期限。

請求書なら、請求先、金額、振込先、明細、添付ファイル。

人事情報なら、対象者、所属部署、保存場所、閲覧できる人。

確認項目が具体的でなければ、2人で見ても同じ場所を見落とします。

確認者が不在の日にどう止めるのか

誤送信対策で抜けやすいのが、確認者が不在の場合です。

担当者が休んでいる。
上司が外出している。
締切が迫っている。
いつもの相手なので問題ないと思った。

こうした場面で確認を省略できるなら、そのルールは忙しい日に機能しません。

本当にダブルチェックが必要な業務なら、不在時の代替手順まで決めておく必要があります。

別の担当者が確認する。
管理職が代わりに確認する。
システムの承認機能を使う。
送信を一時保留する。
高リスクの情報は確認できるまで送らない。

ダブルチェックできない日は確認を省略する日ではありません。

別の確認手段を使う日か、送信を止める日です。

生成AIでは「入力前」の確認も必要になる

生成AIの利用が広がり、確認すべき場面は送信ボタンの直前だけではなくなりました。

メール文を整えるために、顧客とのやり取りをそのまま貼り付ける。
議事録を要約するために、取引条件や未発表情報を入力する。
人事評価コメントを整えるために、従業員名や評価内容を入力する。

これらはメール送信ではありません。

しかし、社外のサービスに業務情報を渡すという点では、情報管理の対象です。

個人情報保護委員会は、生成AIサービスを利用する際、利用規約やプライバシーポリシーを確認し、入力する情報の内容を踏まえて適切に判断するよう注意を促しています。

国のAI事業者ガイドラインでも、個人情報や機密情報が意図せず学習などに利用されるリスクを把握し、入力してはいけない情報の範囲を確認することが求められています。

会社として決めるべきなのは、単に「生成AIを使ってよいか」ではありません。

どのサービスを使ってよいのか。
個人情報や顧客情報を入力してよいのか。
契約書や人事情報は禁止するのか。
会社が認めたアカウントだけを使うのか。

メールの宛先を確認するように、生成AIでは入力先と入力内容を確認する必要があります。

管理部門が見直すべき五つの項目

まず、誤送信や共有ミスが起きたときに影響が大きい業務を洗い出します。

請求書、契約書、給与明細、人事評価、採用応募者の情報、顧客リスト、社外チャット、クラウド共有、電子契約、生成AIへの入力などです。

そのうえで、次の五つを決めます。

1.何を照合するのか

宛先だけでなく、添付ファイルの中身、本文中の社名、共有権限、ファイル名まで確認対象を具体化します。

2.誰が確認するのか

「誰かに見てもらう」ではなく、担当者、承認者、代替者まで決めます。

3.確認者がいないときはどうするのか

代替者、承認ルート、送信を止める条件をあらかじめ定めます。

4.前回データをどう扱うのか

テンプレートは空欄を基本とし、前回の会社名、担当者名、金額、URL、共有リンクが残りにくい形にします。

作業後に不要なデータを残さないことも重要です。

5.事故発生時に誰へ報告するのか

誤送信先への連絡、社内報告、削除依頼、取引先への説明、法令や契約に基づく対応、本人通知の要否を判断する担当者を決めます。

個人データの漏えいについては、すべての誤送信で一律に個人情報保護委員会への報告や本人通知が必要になるわけではありません。

報告対象となるのは、要配慮個人情報が含まれる場合、財産的被害が生じるおそれがある場合、不正目的による漏えい、1,000人を超える漏えいなど、個人の権利利益を害するおそれがある一定の事態です。

事故が起きてから担当者だけで判断させないためにも、報告先と判断者をあらかじめ決めておく必要があります。

明日確認するなら、まずこの十項目

自社で最も多く使う送信手段について、次の項目を確認してみてください。

  • メールの自動補完で、同姓同名や似た名前の相手を選ぶ可能性はないか

  • 前回メールをコピーしたあと、会社名や担当者名を確認しているか

  • 添付ファイルを、ファイル名だけでなく中身まで開いているか

  • 社内用と社外用のチャットを見分けやすくしているか

  • クラウドの共有範囲が必要以上に広くなっていないか

  • 請求書や給与明細の対象者とファイルが一致しているか

  • 電子契約の送信先が現在の担当者になっているか

  • AIへ入力する前に、個人情報や機密情報の有無を確認しているか

  • 確認者が不在の場合の代替者や停止基準があるか

  • 誤送信に気づいたとき、すぐ報告する先が決まっているか

一つでも答えが曖昧なら、見直す余地があります。

誤送信は「注意」だけでは止まらない

社内に説明するなら、こう伝えると分かりやすいでしょう。

「誤送信は、注意力だけの問題ではありません。送信前に止まれる仕組みの問題です」

人は宛先を見間違えます。
前回の情報を消し忘れます。
慣れた作業では、確認を飛ばすこともあります。

だからこそ、間違えない人を求めるのではなく、間違えても外に出る前に止まる業務を作る必要があります。

今回の厚生労働省の事案では、確認ルール自体はありました。

それでも、確認者が不在になった日に複数人での確認は行われませんでした。

ここから見えてくるのは、ルールの有無だけでは不十分だということです。

大切なのは、担当者が休んだ日や、締切が迫った日にも、その仕組みが動くかどうかです。

まずは、自社で最も多く使っている送信手段を一つ選んでください。

そして、確認者がいない日にも、そのチェックが本当に機能するのか。

そこから見直すのが、最も現実的な第一歩です。

いいなと思ったら応援しよう!

たまちゃん あなたのチップが、南の島にそよ風を運びます🌴 小さな応援が、大きなエネルギーになります✨ なんくるないさ〜精神で、今日も書いてます!