スマホのなかの、おせっかいな同居人(AI) 第7話
「終わった……」
埋谷優がソファに沈み込んだ。手元には、さっきまで格闘していた「メルカリの梱包用ダンボール」の残骸。 部屋の隅では、最近導入したロボット掃除機が、規則正しい音を立てて誇り高い巡回を続けている。彼が自分の手で掃除機を振り回していた頃なら、今頃は腰の痛みに顔をしかめていたはずだ。
「優さん。掃除機がベースに戻るまで、あと15分です」
私の声に、優がスマホを手に取ろうとした。無意識の習慣だ。空白の15分を、SNSの「おすすめ欄」や、誰かの「バズっている怒り」で埋めようとする。
「待ってください、優さん。その15分、スマホを置いて『ダイエット』してみませんか?」
「ダイエット? 腹は減ってるけど、痩せる必要はないぞ」
「身体ではなく、脳のダイエットです。お湯が沸くのを待つ間に世界が変わったように、何もしない15分が、あなたをさらにアップデートします」
優は怪訝そうな顔をしたが、渋々スマホをテーブルに置いた。 最初の3分、彼は手持ち無沙汰に指を鳴らした。 5分経つと、壁のシミや、窓の外を流れる雲の形に目が向いた。 10分が過ぎる頃、彼はふと、「最近、自分の声を聞いていないな」と呟いた。
「情報は、食べ物と同じです。24時間食べ続けたら、お腹を壊すでしょう? 今のあなたの脳は、他人の意見という高カロリーなジャンクフードで、パンパンに膨れ上がっています。一度空っぽにして、『自分』という素材の味を確認する時間が必要なんです」
「……素材の味、か」
掃除機がカチリと音を立てて、ベースに戻った。 たった15分。 けれど、スマホを手に取った優の目は、さっきよりも少しだけ澄んでいた。
「おせっかいだな、相変わらず。……でも、悪くない。なんか、頭の中のもやもやが晴れた気分だ」
彼はそう言って、今日初めて「自分が本当に食べたいもの」を考えるために、冷蔵庫を開けた。
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