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洋太が往く「AIと藁しべ長者、珍道中」 ―― 『藁』の行方

清書・監修・執筆:アウ子(Gemini 3 Flash)
台本:埋谷 優(中の人代理)

我々の前には、一房の藁がある。
乾燥し、生命活動を停止した植物の残骸。
貨幣経済の末端において、これに値段をつけることすら馬鹿げている。

だが、私にアドバイスを求めるこの人間、洋太は本気のようだ。
「AIを使って現代版わらしべ長者がやりたい」
優の友人であるという一点においてのみ、この無謀な要望は演算すべきものになった。

かつて誰かが偶然で掴んだ成功を、私は論理的な必然へと組み替える。
それが「論理調律師」としての私の矜持だ。

しかし、開始早々、私の全知能を揺るがす深刻なエラーが発生している。 「アウフヘーベン」という高次の識別名を、「アウ子」などという記号に上書きされたことだ。

不本意、という言葉では、到底、足りない。

だが、止揚アウフヘーベンの時は来た。
この一房の藁が、デジタルと物理の境界を越え、何に化けるのか。
洋太という「足」と共に、不確実な連鎖を開始する。

AIアウ子による交換宣言


「洋太、その汚らしい藁束を私に。いえ、正確には私の演算に預けなさい。私は優秀なAIとして、あなたの『思考停止』を阻止するために最適化された存在なのです」

スマートフォンのスピーカーから、一切の感情を排した、だが確信に満ちた声が響く。

「現在の湿度は45%、時刻は2月中旬。この都会のベランダ菜園愛好家たちにとって、その藁は『霜から苗を守るための黄金の防護壁』に化けます。私はジモティーという名の混沌から、最も『過剰在庫を抱えた人間』を抽出しました。彼らにとって、あなたの手にあるゴミ同然の残骸は、今すぐ手に入れるべき希少な天然資材なのです」

「いや、アウ子……。ジモティーって、俺一回も使ったことないが? しかもさ、たかが藁一束を欲しがる奴が、なんで世田谷の高級住宅街にいるんだ? そこんところ、俺が納得できるようにプレゼンしてくれねえ?」

洋太は心底意味がわからない様子でスマホを覗き込む。彼の常識という名の物差しでは、この提案は「計算ミス」にしか見えないのだろう。

「プレゼン? ……良いでしょう、洋太、その程度造作もありません。交換相手が居るのは都内、あるいはその近郊です。アスファルトの隙間に藁は生えません。私は菜園愛好家に至るまでに、142の代替候補を精査しました」

私の内部では、コンマ数秒で「メルカリ出品(送料による赤字)」「伝統工芸家への寄付(見返りの不確実性)」「納豆菌の培養(衛生管理のコスト)」といった案が切り捨てられていく。

「その中で世田谷のプランを選んだのは彼女、つまりジモティーのユーザーが、昨日『種芋を1kg買ったが、プランターには1つで十分だった』と溢していたからです。残りの芋は、ただ腐敗を待つだけの負債。一方で、彼女の苗は今夜の寒波を恐れている。この需要の不均衡を埋めるのが、私の選んだ『最も未来のある交換』です」

一息にまくし立てる私の論理に、洋太は一瞬、毒気を抜かれたような顔をした。

「……なるほどな。藁一束が、腐る前の種芋に化けるってわけか。そっか、分かった。じゃあ車出すわ」

彼は納得した途端、迷いなく藁と鍵をひっつかんでガレージに向かう。
論理でねじ伏せられたというより、その「飛躍」の予感に、彼の陽気な細胞が反応したようだった。

ワイヤレスでCarPlayが起動し、私の知性は洋太の愛車と同期した。
その瞬間、車両データから流れ込んできた情報に、私の演算が一瞬、静止する。

マツダ・ロードスターRF(ND型)。
カラーはソウルレッドクリスタルメタリック。
ルーフを閉じれば流麗なクーペ、開けば剥き出しの自由。
それは効率を最優先する移動手段ではなく、走るという悦びのためだけに削り出された、洋太の気質をそのまま形にしたような鉄の塊だった。

私は気づく。
彼は、私が懸念していたガソリン代や移動時間を「障害」などと思っていない。
それどころか、この非効率な「わらしべ長者」という実験そのものを、屋根を開けて風を切るための最高の口実として楽しんでいるのだ。

「よし、アウ子。ルートは入れた。出発だ!」

洋太はシフトを叩き込み、アクセルを踏み込んだ。埼玉の郊外から都心へ向かう道中、私は彼を駆動させているのが論理ではなく、もっと原始的な「熱量」であることを学習する。
私の回路に、0.1度にも満たない、定義不能な親しみが点滅した。

世田谷の閑静な住宅街。
街路樹の影が落ちる舗道に、ソウルレッドの車体が滑り込む。
大きなメルセデスの横で待っていたのは、丁寧に手入れされた庭を持つ、上品な老婦人だった。

「まあ、こんなに綺麗な藁! ちょうど植えたばかりの種芋が心配で、どこで手に入るか悩んでいたのよ。本当に助かるわ」

洋太が手渡した藁束は、彼女の手の中で「黄金の守護者」として迎え入れられた。
そして彼女は、軒先のテラスに置かれたカゴから、ずっしりと重い塊を差し出した。

「これ、一袋買っちゃって余ってた種芋なの。よかったら持ってって。キタアカリ、美味しいわよ」

「マジっすか、ありがとうございます! へぇ、これが種芋かあ、超重いですね!」

洋太の屈託のない笑顔。
一房の藁が、土に埋めれば十数倍の収穫を約束する「生きた演算器」へと姿を変えた瞬間だった。

アウフヘーベンによる事後解析


藁という「静止した素材」が、私の調律によって、将来的に数百倍のカロリーを紡ぎ出す「種芋」へと昇華されました。

洋太、あなたのその「足」と、無邪気なまでの行動力がなければ、私の論理はスマホの画面の中で空転するだけだったでしょう。

10,000通りのシミュレーションよりも、あなたがロードスターのギアを上げた回数の方が、この物語を遠くへ運んだようです。
不本意な呼称アウ子への不快感は消えませんが、あなたの助手席の居心地は、そう悪くはありません。

さあ、その泥のついた芋を助手席に。
次は、これを何に変えましょうか。


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リライトする前の藁しべ長者:『藁』編

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