見出し画像

『150兆円AIバブル』に市場が騙されなかった理由:ソフトバンクが呼んだ冷水の一撃

 2025年3月31日の東京株式市場は、前の記事にある私の予想通りソフトバンクグループ(SBG)を中心に軟調な展開になりました。特に半導体やAI関連銘柄が大幅に下落し、日経平均株価全体の下げを主導しました。

 背景には、SBGが打ち出した『150兆円AIロボ投資構想』への市場の失望感に加え、米国の関税政策への警戒感など、複数の要因が重なっているとされています。しかし、実際に本日、日本のAI・半導体関連銘柄を中心に主要銘柄の株価を押し下げる要因となっているのは、まさにそのSBG自身です。

 なぜなら、SBGは今回の構想で、米国に巨額の投資を行い、現地で大量の雇用を創出する方針を大々的に打ち出しています。そのため、米国の関税政策は今回の株価下落には本来関係ありません。むしろ、関税強化によって米国内での生産が歓迎される今の状況は、SBGやそのスターゲート計画にとって追い風とすら言えるでしょう。

 さらに言えば、米国の関税政策によって打撃を受けているのは、むしろテスラのような中国依存度の高い企業です。テスラの業績悪化は、イーロン・マスク率いるxAIを通じてGrokを展開する、いわばスターゲート構想の『天敵』にとっての逆風にほかなりません。

 このように見れば、米国の関税政策は、150兆円AIロボ構想にとって追い風以外の何物でもなく、これを『市場の不安要因』として一括りに語るのは、まったく的外れと言わざるを得ません。

 一方、私がいわゆる『クオリティペーパーではない』と定義している日本経済新聞の報道は、こうした市場の反応とは乖離しているようです。

『SBGが150兆円超の米AI投資を発表したのだから株価が上がるはずだ』といった論調を示していながら、実際には1日で5%以上の下落を記録したことに驚いているようです。まさに、このような報道姿勢こそ、私が日経新聞や元日経記者(な、名前は言えません)の記事を信頼せず、情報源としない理由の一つです。

 ちなみに、私がSBGを中心とした日経平均の大幅下落を予測していた頃、SBG専門アナリストの皆さんはこんな予想をしていました。

プロのアナリストによるソフトバンクグループの株価予想
プロのアナリストによるソフトバンクグループの株価予想

……これを見れば、『プロの読み』とやらがいかに外れていたか、そして私の予測の方がどれほど正確だったか、もはや説明不要でしょう。

 2025年3月31日の東京株式市場は、半導体やAI関連銘柄を中心に大幅な下落となりました。日経平均株価は前営業日比で1,502円安の35,617円まで下落し、節目とされていた36,000円を割り込みました。特に、東京エレクトロンやアドバンテストといった半導体関連銘柄が大きく値を下げ、ソフトバンクグループ(SBG)を含むAI関連銘柄も軒並み軟調でした。SBGの株価は前日比441円安の7,479円と、5.56%の下落を記録しました。

 この動きは、市場におけるAIや半導体分野への過度な期待が修正されつつあることを示唆しています。市場関係者の間では、米国の金融政策の不透明感や、中国のAI技術の進展による競争激化なども要因として指摘されています。しかし本日とりわけ注目されたのは、SBGによる『150兆円AIロボ投資構想』に対する市場の反応でした。

 この構想は、米国内にAI搭載ロボット工場群を建設し、総額1兆ドル(約150兆円)を超える投資を米政権と約束する可能性があるという野心的な内容です。

SBGの『150兆円構想』:野心的だが非現実的?

 孫正義社長はこれまでも大胆なビジョンを打ち出して市場を驚かせてきました。今回の構想では、労働力不足を見越してAIロボットが自律的に稼働する『インダストリアルパーク』を米国内に展開し、エヌビディアのGPUや鴻海の生産能力を活用する計画だとされています。

 しかしながら、市場の反応は期待よりも懐疑的で、むしろ失望売りが広がる結果になっています。

 まず、150兆円という桁外れの投資規模に対して、その資金調達手段が極めて不透明な点が指摘されています。SBGはすでにARM(アーム)やビジョンファンドなどを通じて多額の投資を行っており、同社の財務体質には以前から懸念がつきまといます。『借入依存度の高さから、これ以上の大型投資は現実的ではない』という見方も、市場には根強く存在します。

 また、全米での工場建設には、土地取得や規制対応、インフラ整備など多くの実務的ハードルがあり、短期間での実現は困難です。

市場の失望売り:AIブームの冷却

 ここ数年、AIや半導体分野は飛躍的な成長を遂げ、投資家の注目を集めてきました。しかし、今回の構想が週末に報じられたあと、週明けの市場では過熱していた期待が冷め、より冷静な評価が行われたようです。

 私のnoteの愛読者でもある、ある証券アナリストは『150兆円という数字には確かにインパクトがあるが、具体的な収益モデルや実行計画がなければ、失望売りが起きても不思議ではない』と述べていました。――ちゃんと『武智倫太郎のnoteにそう書いてありました』って言えばいいのに…!

 本日の株価下落はSBGの構想だけが原因とは言えませんが、米国の関税政策やAIブームに対する過剰期待の反動など、複合的な要因が重なったと考えられます。

 特にSBGと関係の深いエヌビディアに対する懸念が再燃しており、同社のGPU供給体制や価格競争力への不安が市場に影を落としています。

SBGの借金芸も、そろそろ限界では?

 SBGは2025年3月時点で、堂々たる約13.5兆円もの有利子負債を抱えています。さすが『投資界の一発屋』と呼ばれるだけあって、借金の桁も景気がいい。とはいえ、これはグループ全体の数字であり、いつものごとく『実質的に親会社が返すのは3兆円くらいだからノープロブレム』と、得意の『負債のトリミング芸』が披露されるわけです。

 主要な貸し手のひとつであるみずほ銀行からの融資は、2023年3月末時点で6,085億円。前年より2,000億円減らしたと胸を張るものの、そもそも過去に借りまくっていた事実が軽くスルーされているあたり、記憶喪失なのか自己肯定感が強すぎるのか、もはや判断不能です。

 近年は『財務体質の改善』を掲げ、資産をちぎっては売り、社員を切っては減らす……と、『改善』という名の火消しに躍起な様子が見て取れます。しかし結局のところ、それは炎上する財務の上に霧吹きで水をかけているようなもので、根本的な構造リスクは何ひとつ片付いていません。

 要するに、SBGの借金芸は派手で目を引くものの、よく見ると観客が冷めた目で見守る危なっかしい綱渡り。そのロープがいつ切れてもおかしくない中で『まだいける』と言い張る姿勢こそ、真のエンターテインメントなのかも知れません。

 このようなSBGの本質が見えてくると、孫正義が巨額の投資計画において資金調達に失敗し、信用不安に陥った場合、主要な融資元であるみずほ銀行が抱える関連債権が不良債権化するリスクは否定できません。

 実際、本日(2025年3月31日)、みずほフィナンシャルグループの株価は前日比189円安(-4.46%)の4,051円で取引を終えました。この下落が直接SBGの株価下落に起因するのかは明確ではありませんが、市場が関連リスクに対して警戒感を強めていることは間違いないでしょう。

世界恐慌への連鎖的影響の可能性

 みずほ銀行は国内で広範な融資ネットワークを持つだけでなく、米国を中心とする国際金融業務にも深く関わっています。

 もしSBG関連の損失がみずほの国際業務に波及すれば、米国の金融機関や投資家にも不安が拡散し、株式市場や債券市場で売りが加速する恐れがあります。金融市場の混乱が実体経済に波及し、企業倒産や失業率の上昇につながれば、世界的な景気後退に至るリスクも否定できません。特にAIや半導体分野への過剰な期待が裏切られたタイミングでこうした信用収縮が起きれば、その衝撃はさらに大きくなるでしょう。

現実性と限界:パニック連鎖は防げるのか

 もちろん、このような『世界恐慌シナリオ』が即座に現実化する可能性は、現時点では高くないかもしれません。みずほ銀行もソフトバンクグループ(SBG)への過度な依存を回避するべく、表向きにはリスク分散を図っているように見受けられます。

 また、日本政府や日本銀行は、これまで金融システムの安定を最優先として、必要とあれば速やかに介入してきた『実績』を持っています。もちろん、それが常に効果的だったかはさておき、『やっている感』を演出する能力には長けているため、いざとなれば公的資金の投入や市場安定化策が打ち出されるでしょう。実際の効果が市場に浸透するかどうかは、また別の話です。

 さらにSBGはアリババ株など、『帳簿上では』高い評価を受けている資産を保有しており、危機時にはこれらを売却して資金を確保するという選択肢も残されています。ただし、これらはあくまで『含み益』であって、いざというときに他の投資家が同時に売却を始めれば、価値は一瞬で蒸発します。つまり、『いざとなったら売れる』というのは、誰も売らない前提だからこそ成り立つ幻想であり、市場という名の椅子取りゲームでは、一度に出口へ殺到すればドアは驚くほど狭く、誰も外に出られません。アリババ株の含み益も、換金されるその瞬間にただの過去の記憶に変わるのです。

 結局のところ、現在の金融システムは『売れるうちは安心』『買ってくれる誰かがいるうちは健全』という、極めて脆弱な信頼の上に成り立っています。そして、その信頼が崩れるときというのは、えてして皆が口をそろえて『まだ大丈夫』と言っている瞬間なのです。

 それでも、株式市場は『感情で動く』面が強いため、市場センチメントが極端に悪化すればパニック的な連鎖が始まる可能性もゼロとはいえません。最新の財務データと市場の空気を、これからも注意深く見守る必要があるでしょう。

日本経済が直面する二重苦:虚業と実業の限界

 SBGの『150兆円AIロボ投資構想』によって市場に失望感が広がり、メインバンクのみずほ銀行への信用不安も意識され始めています。

 ただし、虚業のリスクだけが問題ではありません。より深刻なのは、この構想によって日本の『実業』、すなわち半導体製造やAI関連産業にも冷水が浴びせられている点です。

 東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった企業は、これまでグローバル市場でのシェア拡大を背景に好調を維持してきました。しかし、SBGの構想によって過剰な需要見通しが疑われる状況になっています。

 同社が全米にAIロボット工場群を展開するとして、エヌビディアのGPUや鴻海の生産力を活用する計画を打ち出したものの、その具体性や実行力には疑問があり、結果として関連企業の株価も軒並み下落しています。

『夢物語』の代償と教訓

 虚業と実業の両面に打撃を与えたSBGの構想は、『150兆円の夢物語』であるだけでなく、日本経済全体を巻き込む構造的リスクをはらんでいるのです。

 今回の件を通じて『大きな話』や『未来のビジョン』がいかに市場を動かしやすく、同時にどれほど危険なのかを改めて認識すべきでしょう。

 いま市場がSBGを含むAI関連企業に求めているのは、夢ではなく現実的な成長戦略と財務健全性です。

 日本経済は、虚構に振り回されるのではなく、地に足のついた構造改革と持続的な成長につながる資金配分を選び取る必要があります。これが私がソフトバンクボイコット運動を呼び掛けている理由なのです。

 読者の皆さんは、現在の日本経済は孫正義の無責任な発言一つで、不況ではなく大恐慌になっても不思議でないことを、今回の事例から学んでください。

武智倫太郎


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集