第22話 【爆笑】先生に「お母さん」と呼んでしまった話
【もとしの爆笑日記 第22話】
◆導入(つかみ)
その日の朝、なぜか胸の奥がザワついていた。
昨日の夜、読書しながら寝落ちしたのもあるけれど、もっと別の、説明しづらい予感があった。
「なんか、今日やらかす気がするんだよな……」
27歳にもなって、朝からこんな胸騒ぎがするなんて珍しい。
プラモデル作りが趣味で、朝散歩が日課。
超平和主義の“もとし”にとって、刺激的な出来事なんて滅多に起きないはずなのに。
けれど、この日の胸騒ぎはやけにリアルだった。
喉の奥にささった魚の骨みたいに、ちくりと違和感が残る。
「まさか……会社でまた“変なあだ名”つけられるとか?」
以前、ぼーっとしていた僕に同僚がつけたあだ名は「虚無フェイス」。
気にしてはいるが、反論するほどのメンタルもない。
そんな僕が──まさか数時間後、人生で最も赤面した瞬間を迎えるなんて、このときは知らなかった。
◆第1章:いつも通りの朝に潜んだ“違和感”
朝散歩の途中、近所の小学校の前を通った。
金属バットの音、子どもたちの笑い声。
なんとなく懐かしさで胸が温かくなる。
……が、その瞬間、ひとりの先生と目が合った。
大人になってから学校の前で先生と目が合うと、なぜか少し緊張してしまう。
悪いことしてないのに「怒られた?」みたいな気持ちになるのは、僕だけじゃないはずだ。
先生「あら、おはようございます」
僕「お、おはようございます……!」
別になんてことない朝の挨拶なのに、
なぜか胸の奥のザワつきが強くなった。
(今日、絶対なんかある……)
そんなモヤモヤを抱えたまま家に戻ると、母が朝ごはんを用意していた。
母「もとし、今日お弁当いらないの?」
僕「うん、大丈夫。今日は会社で研修あるから」
母「そう。行ってらっしゃいね」
母の声を聞いた瞬間、
胸騒ぎが “少しだけ強く” なった。
(なんでだろ……)
理由は分からない。
でも、のちにこの“母との会話”が、僕の人生最大の赤っ恥につながるとは、この時点では思いもしない。
◆第2章:会社の研修、地獄のスタート
会社に行くと、研修会場の案内板が出ていた。
「コミュニケーション基礎研修」
(あ……これ苦手なやつだ)
むしろ僕が誰よりも受けるべき研修なのだけれど、苦手なものは苦手だ。
会場に入ると、受講者が30人ほど。
前方には、まっすぐ背筋を伸ばした女性講師。
年齢は40代前半くらいだろうか。
上品だけど圧があるタイプ。
(なんか……先生感あるな)
そう思った瞬間に、胸騒ぎがさらに大きくなった。
講師「皆さん、おはようございます。今日は“伝わる話し方”をテーマに…」
声のトーン、姿勢、間の取り方。
まるで学生時代の担任の先生を思い出すような雰囲気だった。
もとしの内心(あ、苦手なタイプだ……)
僕は子どもの頃から、こういう “落ち着いてるのに芯が強そうな女性” が相手だと、緊張してしまう。
そして、それは 後に地獄のトリガーとなる。
◆第3章:違和感の正体に近づく
研修が始まって30分。
講師「では次に、ペアを組んで自己紹介をしてみましょう」
受講者たちがザワザワと動き始めた。
(うわ、苦手なパターンきた……)
僕は慌てて周りを見渡したが、
どんどん人がペアを作っていき、
気づけば僕の前に座っていたのは──“先生っぽい講師本人”。
僕「え……あ、あの……」
講師「はい、私とやりましょうか」
(やりましょうかじゃないんだよぉぉ!!)
心の叫びは誰にも届かず。
僕は先生の正面で自己紹介する流れになった。
講師「では、もとしさん。お願いします」
僕「えっと……あの……」
言葉が出ない。
なぜなら、目の前の講師の雰囲気が、僕の母親にめちゃくちゃ似ていたからだ。
落ち着いた声、ゆっくり頷く癖。
まるで自宅のダイニングテーブルで話しているような錯覚に陥った。
もとしの内心(あれ……ちょっと似てる……?いや、気のせい……だよな?)
その“軽い錯覚”が、
後の 致命的な事故 へつながる。
◆第4章:期待 → 不安 → 安心 そして混乱へ
講師「緊張しなくて大丈夫ですよ。ゆっくり話してくださいね」
優しく言われると、なぜか安心する。
だがその “安心” が危険だった。
もとしの内心(あ、なんか……この感じ……家みたいだな)
一気に安心ゾーンへ突入。
僕は、いつも家で母に話すときの“リラックススイッチ”が入ってしまい、言葉遣いも柔らかくなる。
僕「えっと……もとしです。普段は……その……」
講師「ゆっくりでいいですよ」
(ああ……その言い方……母さんがよく言うやつ……)
不安だったはずが、妙な安心感に変わっていく。
……そしてその安心が、混乱を生み、
混乱が、後の 取り返しのつかない大事故 につながる。
◆第5章:絶望へのカウントダウン
講師「もとしさん、趣味はありますか?」
僕「あ、はい。読書とか、朝散歩とか、プラモデル作りとか……」
講師「素敵ですね。落ち着いてる方なんですね」
(言い方が完全に母さん……)
ここで僕の脳が、とんでもない誤作動を起こし始める。
“いま話しているのは先生ではなく、母だ”
という錯覚がじわじわと侵食してきたのだ。
家で母に褒められたときの温度と、
いま講師から向けられる言葉の温度が、
ほぼ一致してしまったのが致命的だった。
(なんか……この感じ……危険だぞ……)
胸騒ぎはピーク寸前。
しかし、僕はまだ気づいていなかった。
このあと「人生最大の赤っ恥」が、たった一言で発生することを──。
◆第6章:言葉の選び方が迷子になる瞬間
講師「では、少し深い話もしましょうか。最近、職場で困っていることはありますか?」
僕「えっ……あ、その……」
困っていること?
たくさんある。
コミュニケーションに自信がないこと、会議中にうまく意見言えないこと、雑談になると急に目が泳ぎ始めること。
でも、それをこの“母のような安心感のある人”に相談するとなると、僕の脳は完全に家庭モードになっていく。
講師「急がなくていいですよ。ゆっくり考えてくださいね」
(あああ……その声はもう完全に母さんなんだよ……)
もうダメだ。
頭の中で講師の姿が、徐々に母に重なっていく。
もとしの内心(このままだと絶対なんか言う……!危険だぞ……)
だが、講師はさらに距離を詰めてきた。
講師「何かあったら、何でも言ってくださいね」
その一言が決定打だった。
(いやもうそれ母さんのセリフだよ!!)
僕の脳が“家モード”に完全移行し、研修会場であることを少し忘れ始める。
◆第7章:もとしの脳が完全にバグり始める
講師「では、次のワークでは“相手の話を否定せずに受け止める”をテーマに……」
説明をしている講師の声は落ち着いていて、心地よかった。
緊張しがちな僕でも、なぜか安心感が強まる。
だがその安心が、逆に危険だった。
(このリズム……完全に“朝の母さん”だよ……)
気づけば、朝の母とのやり取りを思い出していた。
──「行ってらっしゃい、もとし」
──「お弁当いらないの?」
その声と、いま目の前の講師の声の重なりが、もう境界線を壊しかけている。
講師「では、私から話すので、もとしさんは受け止めて返答してみてくださいね」
僕「は、はい……」
もとしの内心(なんか……変な汗出てきた……)
講師が話しはじめ、僕がそれに返す。
という単純なワークなのに、僕の返答はどんどん家庭の会話に寄っていく。
講師「昨日はとても忙しくて……」
僕「そ、そうなんですね……(語尾が柔らかすぎる!)」
講師「それで少し疲れてしまって」
僕「うん……疲れるよね……(いや誰だよ“うん”って!)」
もう完全に家庭モード。
研修会場にいる“社会人の僕”ではなく、家で母と話してる27歳になってる。
脳の中で警報が鳴り始める。
(このままだと絶対やばい……絶対なんか言う……!!)
◆第8章:そして訪れる“あの瞬間”の直前
講師「では、次のワークに移りましょう。今度は“あなたが困っていること”を私が聞きますので、正直に話してくださいね」
その瞬間、講師がほんの少し前のめりになり、優しく頷いた。
その表情が──“完全に母のそれ”だった。
もとしの内心(あ、ダメだ……スイッチ入った……)
緊張が溶けていく。
家庭の安心感に包まれる。
僕の心は「会社の研修」を認識する力を失い始める。
講師「大丈夫。ゆっくり話してください」
(それ母さんの言い方なのよ……!!)
講師の声のトーン
頷きの角度
目の柔らかさ
どれもが“母”を完璧に再現していた。
そして──
講師「では、もとしさん。最近、辛かったことは?」
僕「えっと……あのね──」
あのね。
自分で気づいた瞬間、青ざめた。
(やばい、言葉遣いが完全に子ども……!)
講師は気づかず、優しく微笑む。
講師「うん、大丈夫ですよ。なんでも言ってね」
その言い方が致命傷。
僕の脳内のスイッチは完全に“母”に切り替わる。
(次言葉を発したら……絶対なんか起きる……!!)
◆第9章:会場の空気が静まり返る直前の“時限爆弾”
周りの受講生たちは、別のペアワークに集中している。
全員、自分の世界に入り、会場は静かだ。
そんな中、講師と僕だけが向かい合っている。
まるで親子の面談みたいな距離感。
僕「えっと、その……最近ちょっと……」
講師「無理しなくていいですよ」
(無理しなくていいですよは母さんの十八番なんだよ……!!)
もうダメだ。
危険度100%。
いま言葉を発したら、絶対に──
講師「もとしさん、言ってごらん?」
その瞬間、僕の喉の奥から、
長年染み付いた“あの音”がこみ上げてきた。
(あ……出る……!)
家庭用スイッチが暴走し、脳が完全に誤作動。
そして──
次の一瞬、僕は人生最大の赤面地獄に落ちることになる。
だが、それが何なのかは──
まだ言わない。
ここから先は
よろしければ応援お願いします!いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!
