「ムーンライトエイリアンズ」第4話
人物表
鷲宮星彦(16)宇宙人
竹中光(16)宇宙人
小日向恋綿(17)星彦のクラスメイト
徳永雅(16)星彦のクラスメイト
新川椿(16)星彦のクラスメイト
鈴谷茉子(16)星彦のクラスメイト
安達晃一(36)星彦の担任教師
堂島夏海(30)星琴高校教師
エンラ(44)宇宙人
マツリ(24)宇宙人
店員1.2
本文
○星琴高校・教室(朝)
誰もいない教室に小日向恋綿(17)が入ってくる。恋綿はボブカットで、
顔の半分を覆い隠すほどの丸眼鏡をつけている。教室の時計は7時55分を
示している。
恋綿「(M)私、小日向恋綿は優等生である」
恋綿は教室後方の席に座る。教室に続々と生徒が登校してくる中、恋綿は
席で勉強をしている。
恋綿「(M)これまでのテストの最低点は90点。クラスどころか、学年でもトップレベルの成績」
教室に新川椿(16)鈴谷茉子(16)が登校してくる。
恋綿「(M)副教科であっても手は抜かない。成績表に5以外の数字が付いたのは、小学3年生の体育が最後」
徳永雅(16)が眠そうな顔で登校してくる。
雅「……おはよー」
恋綿「(M)当然無遅刻無欠席。風紀委員会では委員長を務めている。先生からの評判も当然良い。……まぁ、部活には入ってないけど。……しかし、最近そんな私の心を靡かせる存在が居る」
教室に竹中光(16)が入ってくる。
雅「あ、光ちゃんおはよー!」
光はボーッとした表情で黙って席に座る。
雅「ねー! 挨拶返してよー!」
光「私に言ってたの……?」
雅「このクラスに光って名前一人だけじゃん!」
光「そうなんだ……、私は一人……」
恋綿「(M)……転校生、竹中光。彼女である」
○同・廊下(夕)
生徒達が各々下校する中、バッグを肩にかけた恋綿が一人で歩いている。
恋綿「(M)私は竹中さんの不思議な姿を度々見てきた。転校初日の体育の授業。彼女の異常なスピードと強力な左足シュートを、ゴールキーパーだった私だけが全部見ていた」
恋綿の正面から堂島夏海(30)が歩いてくる。
夏海「あっ、小日向さーん、ごめんねぇ、今日ボランティアの説明会があって図書室使えないの。ごめんねぇ」
恋綿「……そうですか。今日は家で勉強します。わざわざありがとうございます」
夏海「ごめんねぇ」
○スターハイツ高杉・廊下(夕)
恋綿が廊下を歩いている。
恋綿「(M)先生が来るのを察したように起きる竹中さんを見ていたのは私だけ。モナ・リザを完全に再現した時、徳永さんは才能だって言ってたけど、どう見たって異常だ」
恋綿は鍵を取り出し、707号室の扉を開けて入る。
○同・707号室・玄関(夕)
恋綿は靴を脱いで、丁寧に向きを正す。
恋綿「(M)ずっと隣で見てきたけれど、竹中さんのことは何も分からない。むしろ謎ばかり増えていく。……でも、それでいいと思ってる。それがいいと思ってる」
恋綿は玄関入って左側の部屋に入る。
○同・子供部屋(夕)
8畳ほどの広さの室内。壁一面には様々なSF映画のポスターが貼ってあり、本棚には『月刊ムー』や『宇宙人図鑑』『超常現象白書』など、宇宙に関するオカルト本がびっしり入っている。本棚の上には、映画『エイリアン』のエイリアンや、『STAR WARS』のヨーダ、ベビーヨーダ、チューバッカなどをはじめとした、あらゆるフィギュアが置いてある。恋綿は部屋に入ると、バッグをその場に放る。
恋綿「(M)……だって謎が多ければ多いほど、妄想の中の竹中さんが素敵になっていくから」
恋綿は部屋のベッドに仰向けで倒れこむ。
恋綿「はぁ……、竹中さんって何者なんだろ……」
○ファミリーレストラン・タケウチ
店内は多くの客で賑わっている。店内中央の席にエンラ(44)とマツリ(24)が座っている。エンラは髭を生やしており、肌が真っ白である。マツリの肌も真っ白で、体の半分が機械でできている。二人はスーツを着ている。エンラの前にはハンバーグが置かれており、マツリの前にはサラダが置かれている。エンラがハンバーグを口にする。
エンラ「不味い」
エンラは持っていたフォークを置く。
エンラ「不味ぃな。地球人はこんなもんを作るために他の生命体を殺してんのか。白痴が統治する星はすぐ滅ぶんだけどなァ」
マツリ「アンタの舌がタバコでイカれてるだけですよ」
エンラ「やるよ」
エンラはハンバーグの皿をマツリに差しだす。
マツリ「要らないです。私は緑色のものしか口にしないので」
エンラはスーツの内ポケットからタバコを取り出し火をつける。
エンラ「食うモンの基準が色なの、生き辛いだろ」
エンラはタバコを吸う。
マツリ「有毒ガスを進んで吸ってるようなアンタに言われたくないですね」
店内にいる客はタバコを吸っているエンラのことを迷惑そうに見ている。エ
ンラの元に店員1が駆け寄る。
店員1「……すみませんお客様、店内全面禁煙でして……」
エンラ「あ、ああ! ちょうど良かった! 君、コレ作った地球人呼んでもらえるかな? どんな方かお会いしてみたくてね」
エンラはハンバーグを指さしている。
店員1「は、はぁ、……少々お待ちください」
店員1はその場を立ち去る。
マツリ「これ、今回のターゲットです」
マツリはエンラに写真を手渡す。写真は教室で授業を受ける光と、その隣の席の恋綿を横から取ったものである。
エンラ「……どっちが、ターゲットだ?」
マツリ「ホント何も知らないんですね。現かぐやの娘ですよ。見るからに真面目そうな方です。常識でしょ」
エンラ「はぁ……、この娘がねぇ……」
エンラはタバコの煙を写真に写る恋綿に向けて吐き出す。
エンラ「楽そうじゃねぇの。思ってるより」
マツリ「その娘に、500億ユニットの懸賞金が懸かっています」
エンラ「500億!? はー、わっかんねえもんだな……。何を考えてんだか……」
二人の元に店員2が駆け寄る。
店員2「あのぉ……、お呼びでしょうか……?」
エンラ「ああ! コレ作ってくれたの君か!」
店員2「あ、はい……」
エンラ「そうかそうか! いやぁ、やっぱ一回顔は見ておきたくてな!」
エンラは立ち上がり、持っていたタバコの火をハンバーグで消すと、店員2
と無理やり肩を組む。
エンラ「何がとは言わんが、これが俺唯一の美学なんだ。巻き込んじまって申し訳ない!」
エンラのスーツの袖口から微かに煙が漏れ出している。
店員2「……っ! あ、あがっ……! あっ、あっ……がっ……!」
店員2は苦しそうな表情で呼吸をしようとするが、上手く息が吸えず段々と
顔が青ざめていき、その場にバタンと倒れる。周囲の客は悲鳴を上げる。
マツリ「……気は済みましたか?」
エンラ「ああ、今回の仕事は俺一人でやらせろ。1分もかかんねぇよ」
マツリ「報酬は」
エンラ「わーかってるよ。んなコスいことしねぇって」
二人の姿がその場から霧のように消えていく。
○星琴高校・教室(夕)
生徒達は席について、黒板の前に立つ安達晃一(36)の話を聞いている。
安達「……んで、もう明後日期末だからなー。先生としても採点があると思うと憂鬱なんだ。君らの気持ちはよく分かってる。先生も嫌だから……」
安達が話している最中、教室の一番後ろの席に座っている竹中光(16)は
鷲宮星彦(16)の方を見ている。
光「(M)……期末って何?」
星彦は驚いたように光を見る。星彦は何か言いたそうにするが、何も言えず
にいる。その様子を恋綿が横で見ている。
○同・廊下(夕)
星彦と光が廊下で会話している。
光「……じゃあ、地球人の全部が明後日次第で決まっちゃうってことなの……?」
星彦「そこまでのものじゃないけど、高校生にとってはそうかもしれないね……」
光「地球人って大変……」
星彦「僕は少し勉強してから帰ろうと思ってるけど、竹中さんは?」
光「……教科書一回読めば覚えるからいい」
星彦「キッパリだ」
光「勉強、頑張って……」
○同・図書室(夕)
静かな図書室内で、恋綿が現代文の教科書を広げ勉強をしている。図書室内
は恋綿一人きりである。
恋綿「(M)竹中さんはたまに、私の前に座ってる鷲宮くんのことを睨みつけてる。睨まれた鷲宮くんは、気付けないはずなのに何かしらアクションを起こしている。昨日も、今日も……」
恋綿は手を止め、持っていたシャーペンを置く。
恋綿「(M)もしかして……、テレパシーを送ってたりとか……?」
恋綿はフッと笑い、ペンを持つ。
恋綿「(M)……そんな訳ないよね」
恋綿が教科書を捲り、漢詩を取り扱ったページになる。そこには于武陵の勧
酒が乗っている。
恋綿「……いや、そういえばあの時……」
恋綿の前には、いつの間にかエンラが座っている。
エンラ「そーねぇ、あの時ねぇ」
恋綿はエンラに気付きギョッとするが、そのリアクションを取る隙も与えずに
立ち上がって恋綿の首元を右手で掴む。
恋綿「うっ……! っ……!」
エンラ「……なぁ、聞いてくれよ。俺のバディ、俺が女子供殺すの嫌がってるの知ってんだ。知ってんのに、女で子供の君を殺せって言ってくるんだぜ? 歳二十も離れてんのによぉー」
恋綿は必死に首元にある手を剥がそうとするが、エンラの手をすり抜けてし
まう。
エンラ「いやさ、すげー感覚的なことなんだけどよ、女子供を殺す前後の食事ってなーんか失敗すんだよなぁ。生涯の食事の回数は決まってるっつーのによぉー」
恋綿「(M)あっ……ダメ……だ……」
恋綿はもがくのをやめる。
エンラ「……ワガママ言って申し訳ないが、できれば呪わないでくれ」
エンラが苦しそうな恋綿から目を背けた瞬間、図書室の両開きのドアが勢い
よく外れて破壊される。
エンラ「あぁ……?」
エンラが破壊されたドアに目を向けた次の瞬間には、エンラの腕の先に恋綿
がいなくなっている。図書室の端に恋綿を抱えた星彦がいる。
星彦「お前金星人か? 地球にない気体の匂いが漏れてんぞ」
エンラ「おいおいおい……まったくよぉ……」
エンラはため息をついてタバコを取り出し火をつける。
エンラ「1分って言っちゃったのになぁ」
星彦は丁寧に恋綿を床に寝かす。
星彦「消えてくれないか? 今この高校に来る異星人は僕にとって邪魔なんだ」
エンラ「おー、ちょうど俺も君のこと邪魔だって思ってたとこよ」
星彦の左目が赤くなる。
星彦「知らないと思うが、校内は全面禁煙だ」
エンラはハッと笑う。
エンラ「まったく、生き辛いなぁ!」
第5話
