「ムーンライトエイリアンズ」第5話
人物表
鷲宮星彦(16)アルタイル星人
エンラ(44)金星人
マツリ(24)金星人
小日向恋綿(17)星彦のクラスメイト
竹中光(16)月の民
安達晃一(36)星彦の担任
本文
○星琴高校・図書室(夕)
荒れた図書室、扉は破壊されている。床には気絶した小日向恋綿(17)が
寝かされている。その近くには鷲宮星彦(16)が立っており、星彦の左目
は赤く変色している。星彦の正面にはスーツ姿で肌が真っ白なエンラ(44)
がタバコを左手に挟んで立っている。エンラはタバコの灰を落とす。落ちた
灰が地面に触れた瞬間、星彦は地面を蹴り一気にエンラに距離を詰める。
エンラ「うおっと!」
エンラは瞬時に一歩後ろに下がるも、星彦はエンラの背後に回る。エンラの
背後から右足の蹴りを入れようとするも、エンラは星彦を見ずに右足を受け
止める。右足を掴んだエンラは遠心力をつけて星彦を正面に回す。正面にき
た星彦にエンラは煙を吐きつける。星彦は煙を歯牙にも止めず、エンラの顔面を殴ろうとするも、空を切ったように右腕がエンラの顔面をすり抜ける。星彦は咄嗟にエンラから距離をとる。エンラはタバコを吸う。
エンラ「……はぁ、全く野蛮だねぇ」
星彦「……何者だ? お前」
エンラ「それはこっちの科白でしょうに。あれか? 君も懸賞金を狙ってるクチか?」
星彦「そんな俗に塗れた動機で動かない」
エンラ「じゃあ尚更何者か気になるな! 聞かせてくれや、君はどんな映画が好きか?」
星彦は黙ったままエンラから視線を逸らさない。エンラはタバコを吸う。
エンラ「地球の映画で言うと、俺はパルプ・フィクションが好きでね、こだわって朝食を選ぶ彼らに親近感を覚えるんだ。どうだ、君はどの映画が好きなんだ?」
星彦「……本当に聞きてくて聞いてるか?」
エンラ「いいや? 時間稼ぎ」
図書室の床は煙で覆われている。エンラの持っているタバコがフィルターギ
リギリまで燃えている。
エンラ「やだねぇ、貧乏性は体も悪くする」
エンラはそのタバコを床に落とす。図書室の床を覆っていた煙が黒色に変色
する。
エンラ「……好きな映画は教えたのに名前を教えないのはよくないな。俺はエンラ。金星に住まうただの愛煙家だ」
星彦は床に寝かせていた恋綿を机の上に移動させる。
エンラ「無駄だぜ。金星人は気体と仲良しなんだ」
床を覆っていた黒い煙が星彦の腕と足にまとわりつく。煙はヘドロのように
粘性を持って星彦の動きを制限する。
エンラ「よくわかんねぇだろこれ。俺も最近慣れてきたとこだからな」
エンラは手元に黒煙を持ってふわふわと浮かせる。
星彦「……何が目的だ」
星彦は黒煙が纏わり付く手足を必死に動かそうとするが、動きが鈍い。
エンラ「分かってるくせに聞きなよ」
エンラは浮かせていた黒煙を星彦に投げつける。投げられた黒煙は、すでに
星彦の手足を覆っていた煙とつながり、より星彦の自由を奪う。エンラは動け
なくなった星彦に近づく。
エンラ「君を消すなんてのは俺の目的にないんだ。邪魔しなければここまでされることもなかったんだぜ?」
星彦は黒煙のついた右腕でエンラの右腕を掴む。
星彦「今度は触れたみたいだな」
エンラ「やめてくれ、スーツが汚れるだろ」
エンラの腕を掴んでいた星彦の手がすり抜ける。
エンラ「俺を掴めた程度で嬉しかったのか? 金星人は手足の使い方を覚えると同時に体の気体化を覚えんだよ。この程度のコントロールに振り回されるならお前も大したことねぇんだな」
エンラが星彦の首元を掴み、床に投げつける。
星彦「うっ……!」
星彦の体は床を覆う黒煙に飲み込まれる。
エンラ「そこで眠ってろ。一生起き上がれないだろうけどな」
エンラは机の上で眠っている恋綿に近づく。エンラは左手で黒煙を作り出す。
エンラ「……待たせて申し訳ない。今度こそ、呪ってくれるなよ」
手元の黒煙がサッカーボール程の大きさになる。エンラは腕を掲げて恋綿に
投げつけようとする。
星彦「……待てよ」
エンラ「しつこいなぁ……」
星彦は身体中黒煙塗れになりながら立っている。左手には本を一冊持って
おり、右手にはライターを持っている。
星彦「このライター、お前のだろ」
エンラは右ポケットを叩く。
エンラ「……はぁ。君の能力、身体能力の強化かと思ってたんだが、バレずに物盗む能力らしいな」
星彦「……身体能力は間違ってない。左目が赤くなっている間は、僕の身体能力は格段に上がる。でも、これは教官から叩き込まれた後天的な能力」
星彦はライターで本に火をつける。
星彦「アルタイル星人固有の能力は別にある」
エンラ「アルタイル……、お前っ!」
星彦は燃やした本を天井のスプリンクラー目掛けて投げる。エンラは左手で
浮かせていた黒煙を燃えた本目掛けて投げるが、外れてしまう。
星彦「アルタイル星人は水を操れる」
星彦の髪がうねうねと動く。本はスプリンクラーにあたり、図書室中のスプリンクラーから水が放出される。
星彦「お前のために言ってやってたんだ。ここは禁煙だって」
放出された水は床を覆っていた黒煙を晴らしていく。エンラのスーツが濡れ
ていく。
エンラ「……俺でも知ってるぜ。アルタイル星、月の民に滅ぼされた哀れな星。……復讐か」
星彦「お前には関係ない」
星彦がエンラに向かってゆっくりと歩き出す。スプリンクラーから放出され
る線状の水が、時が止まったようにその場に留まる。
星彦「気体化した体で食らえば、ダメージになるのはお前が一番分かってるだろ」
床に向かっていた線状の水が、ゆっくりとエンラに先を向ける。
星彦「逃げるなら今のうちだ。ここから消えてくれればお前を殺す理由もない」
エンラは歯を食いしばって構える。
星彦「……そうか」
エンラを囲っていた線状の水が、エンラ目掛けて飛んでいく。エンラはそれ
を受け止める。水がエンラの体に弾かれる。
エンラ「気体化せずに受け止めたらただの水鉄砲だ! これで勝ったつもりになってやがったのかぁ!?」
星彦「いや、違うな。つもり、じゃない」
星彦は一気にエンラに距離を詰める。
星彦「勝った、だ。触れられるお前は魅力に欠けるね」
星彦はエンラの体に高速で殴りのラッシュを入れる。
エンラ「(M)コイツ……! マズい……!」
星彦はエンラのボディに蹴りを入れる。エンラは吹っ飛んで本棚に激突する。
本棚が壊れる。
エンラ「……畜生、こうなったら……!」
エンラは内ポケットに入っていた円型 の通信装置が震えていることに気づく。
エンラはそれを耳に当てる。通信機越しにマツリ(24)の声が聞こえる。
マツリの声「おい! 何やってんですか!?」
エンラ「悪い。アルタイル星のバケモンが邪魔してくんだ。1分は無理だった」
マツリの声「そうじゃねぇ! 誰を狙ってんですか!?」
エンラ「あぁ? 見せてもらった女の子だろうが」
マツリの声「じゃあなんで今私の視界に……!」
○星琴高校・前(夕)
住宅街の中に高校がある。マツリは高正門の向かい側にある一軒家の屋根に
立って、右耳に通信機を当てている。マツリの姿は半透明になっている。マ
ツリの視線の先には高校から出てくる竹中光(16)がいる。
マツリ「普通に歩いてるターゲットがいるんですか!?」
○同・図書室(夕)
エンラは壊れた本棚を背にボロボロで座っている。
エンラ「はぁ!? じゃあ俺が狙ってたのって……」
エンラは机の上で寝ている恋綿を見る。
エンラ「誰?」
マツリの声「……チッ、……お疲れ様です。帰ってきてください。コーヒーを淹れて待ってます」
マツリとの通信が切れる。エンラは呆れたように乾いた笑いがでる。
エンラ「怒らせちゃったなぁ……」
エンラの前に星彦が立つ。
星彦「随分余裕なんだな」
エンラはゆっくり立ち上がる。
エンラ「悪かったなアルタイル星人、人違いだったみたいだ。許してくれ」
星彦「竹中さんを狙っているなら僕の敵であることに変わりはない」
星彦は水を右手に集めて槍を作る。
星彦「ここで死ね」
エンラ「チッ……、ダセェけどやるしかねえか……!」
星彦が水の槍をエンラに刺そうとした瞬間、エンラは口から大量の白い煙を
吐き出す。白煙で視界は悪くなる。
エンラ「まだ死にたくねぇから逃げるぜ。俺は楽に死にてえんだ」
星彦「……逃げ切れると思うか?」
エンラ「逃げ切れるぜ。なぜなら俺はすでに逃げてるからな」
図書室を覆っていた白煙が晴れる。そこにいるのは星彦と机で眠っている恋
綿のみである。
エンラ「また嫌でも会うと思うぜ。俺も気は進まんがなー……」
エンラの声が段々と小さくなっていく。星彦はため息を吐く。水を放出するス
プリンクラーの周りに水たまりを作りだし、降り注ぐ水を堰き止めると、寝
ている恋綿に近づく。星彦はポケットからズーンを取り出す。
○同・教室(夕)
教室内には30人程度の生徒が席についており、黒板の前には安達晃一(3
6)が立っている。教室後方には恋綿が座っている。
安達「明日はとうとう期末テストだぞ。勉強に勉強を重ねて先生みたいになれよー。それから、知ってると思うが、昨日のガス爆発で図書室は使えんからなー」
恋綿「(M)私、小日向恋綿は優等生である」
○住宅街(夕)
曇天である。スクールバッグを肩にかけた恋綿が歩いている。
恋綿「(M)優等生である私にとって、明日の期末テストは一大イベントである。……まぁ、昨日は図書室でVRイルカショーを見ていたせいで勉強はできなかったけど、大事なのはテスト前日。優等生という評価を守ために全力で……」
雨が降り始める。恋綿はスクールバッグから折り畳み傘を取り出し、傘をさす。
○スターハイツ707号室・子供部屋(夕)
部屋着に着替えた恋綿が椅子に座る。窓の外は雨が降っている。恋綿はスク
ールバッグから教科書を取り出す。教科書が湿ってよれていることに気づく。
恋綿「何これ……」
恋綿は湿った教科書を気意味悪そうにめくる。漢詩を取り扱ったページが濡
れてぐしゃぐしゃになっている。
恋綿「え? ……あっ」
恋綿は椅子から勢いよく立ち上がる。
○(回想)星琴高校・図書室(夕)
図書室内で恋綿がエンラに首を閉められている所を、星彦が扉を壊した入っ
てくる。
×××
星彦「アルタイル星人は水を操れる」
図書室のスプリンクラーから水が放出される。星彦の髪がウネウネと動いて
いる。
×××
星彦「触れられるお前は魅力に欠けるね」
星彦はエンラの体に殴りのラッシュを
入れる。
×××
星彦が恋綿の耳にイヤホンを付ける。(回想終わり)
○(元の)子供部屋(夕)
窓に雨が強く吹き付ける。恋綿は立ち尽くしている。
恋綿「鷲宮くんが……宇宙人……?」
恋綿「(M)私、小日向恋綿は優等生である。……宇宙人が大好きな優等生である」
第6話
