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アカリウム深層記録|館長日誌 第4話「深層1階掃討作戦」

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ここから本編ですヽ(=´▽`=)ノ

深層1階に潜る前日の夜、結衣菜がテーブルに手描きの地図を広げた。

「まず、骨のような魚の生態を共有します」

サンとアリスと私の3人が、結衣菜を囲む。あの控えめな女の子の顔はもうなくて、完全に作戦説明の顔になってた。

「私も前に11階層で遭遇しました骨魚は群れで行動します。普段はおとなしくて、近づかない限り危険はありません。ただし——」

結衣菜が地図の上にペンで丸を描いた。いくつも。

「何がトリガーになるかは不明ですがいきなり攻撃を仕掛けてくることもあります、ただ言えることはどの状態の時も1匹でも攻撃すると、群れ全体が反撃モードに入ります」

「全部が一斉に来るってこと?」

「はい。だから中途半端に手を出すのが一番危ない」

サンが「うえぇ……」って顔をした。アリスは腕を組んだまま黙って聞いてる。

「でも弱点があります。群れの中に核となる特殊個体が何匹かいて、そいつを倒せば群れ全体が瓦解します。特殊個体は通常の骨魚より明らかに大きいので、見た目だけで判別できます」

「でかいやつ倒せば勝ちってこと?」

「そうです。ただし特殊個体は群れの中に散らばっています。1匹ずつ順番に倒していたら、その間にずっと群れの反撃を受け続けることになる」

結衣菜がペンで2本の矢印を描いた。別方向に伸びる2本の線。

「だから、手分けします。私とアリスさんで別方向から同時に特殊個体を討伐していきます」

アリスが初めて口を開いた。

「小さい雑魚の骨魚は?」

「私にとっては、脅威にならないです、あかりさんの話を聞く限りアリスさんも問題ないかと」

結衣菜がそう言い切った。静かだけど、迷いがなかった。アリスが少しだけ口角を上げた。

「問題は後方です。あかりさんとサンさんにとっては雑魚でも危険になり得る」

「あかりには特殊弾倉の拳銃を渡すよー」

サンがぱっと表情を変えた。さっきの「うえぇ」はどこいった。

「特殊弾倉?」

「跳弾しない弾だよー✨ 地下で普通の弾使うと壁に跳ね返って大変なことになるからね。威力は落ちるけど、雑魚の排除には十分!」

サンがテーブルの下からケースを取り出した。中には拳銃と、もう1つ——

「じゃーん✨ あたしの本命はこっち!」

サンお得意の狙撃ライフル。

「地下戦闘用に改良した特殊ライフル!弾倉は拳銃と同じ跳弾しないタイプ。威力は通常弾より落ちるけど、精密狙撃なら特殊個体の急所を貫ける。施設も壊さないし。完璧でしょ(ノω・)」

サンの目がキラキラしてた。こういう時が一番生き生きしてる。

「あかりさんの役割は雑魚の排除と——」

結衣菜が私を見た。

「撤退ルートの確保をお願いしたいです。常に退路を計算して、全員を生きて帰すための判断をしてほしい」

全員を、生きて帰す。

「……うん。わかった。任せて」


翌朝。地下1階への階段の前に4人で立った。

サンが背中に巨大なケースを背負ってる。封鎖ドアの部品の一部。作戦前にアカリウムの地下深層入口に設置した組み立て式封鎖ドアの簡易版。

「作戦、確認するね」

私が声を出した。館長の声。

「アリスと結衣菜さんが前衛。特殊個体を手分けして同時に討伐。サンは後方からライフルで雑魚と特殊個体を狙撃。私は雑魚排除と撤退ルートの確保。ヤバいと判断したら私がすぐ撤退指示を出す」

一呼吸置いた。

「掃討よりも全員で帰ってくることを最優先」

サンが「りょーかい✨」って親指を立てた。

アリスが黙って剣の柄に手をかけた。

結衣菜が槍を握り直した。穏やかな目が、もう別人だった。

「——行こう」


地下1階は暗かった。

前に来た時と空気が違う。あの時はただ不気味だっただけ。今は、何かがいるってわかってて降りてる。

サンのライトが通路を照らす。水が滴る音だけが響く。

結衣菜が足を止めた。

「……いる」

通路の奥。暗がりの中にゆらゆら浮かぶ骨のような影。1匹、2匹——数えきれない。群れだ。

そしてその中に、明らかに大きいのが見えた。通常の2倍。特殊個体。

「3匹。左奥に1、正面に1、右の通路に1」

結衣菜がささやくように報告した。

「アリスさん、右をお願いできますか」

「——了解」

「私は左を。サンさん、正面の個体を」

「任せてー✨ こういう時のための特殊弾だからねー(ノω・)」

「あかりさん、撤退ルートは——」

「今来た通路をまっすぐ戻れば階段まで40秒。分岐は1つ、右に逸れなければ迷わない」

結衣菜が小さくうなずいた。

「では——」

結衣菜とアリスが消えた。

比喩じゃない。白いワンピースが暗闇の中で一瞬だけ翻って、もう左奥の特殊個体の目の前にいた。

槍の一撃。骨が砕ける鈍い音。

その瞬間——群れが反応した。全部の骨魚が一斉にこっちを向いた。おとなしかった目が、全部光った。

反撃モード。

それと同時に右側からアリスの剣が閃いた。黒い刃が特殊個体の胴体を一刀両断。無駄のない一撃。

パンッ——

サンのライフルが正面の特殊個体の頭を撃ち抜いた。いつもふざけた顔をしてるがライフルの腕前だけは誰よりも上だ。弾は跳弾することなく、狙った場所だけを貫通した。

雑魚が押し寄せてきた。拳銃を構えた。手が震えてる。でも引き金を引いた。

1匹、2匹。倒せてる。

「左、殲滅!」

「右、終わった」

「正面もおっけー✨」

特殊個体が3匹とも落ちた瞬間、群れの動きが弱まっていく、向かってくる雑魚を倒すこと数十秒、その後完全に止まった。光ってた目が消えて、1匹、また1匹と崩れていく。

瓦解。

「……1階、クリア」


掃討完了。サンが2階層への階段前で封鎖ドアの組み立てを始めた。

「よーし、ここからあたしの出番だよー✨ある程度は持ってきてるけど残りの部品は地下入口に置いてあるから運んできてくれる?結構な量だから往復しないときついかも」

金属パーツ、特殊ボルト、強化フレーム。サンが嬉々として組み立てていく。

「これ、どれくらいかかるの?」

「んー、20分くらいかなー。精度落としたくないからちゃんとやるよー」

部品を運び終わり結衣菜が周囲を警戒し、アリスは壁に背を預けて目を閉じてる。私は通路の地図を描いてた。1階は複雑そうに見えるがそこまで広くはない

20分後。重厚な金属の封鎖ドアが2階への階段を塞いだ。

「これで2階以下からの侵入はしばらく防げるよー。簡易版とはいえあたしが作ったんだから、そうそう壊されないからね(ノω・)」

「ここを拠点にする。1階を安全地帯にして、少しずつ下に進んでいく。一気に突っ込んで全滅なんてことは絶対にしない」

結衣菜がうなずいた。「それがいいと思います」

アリスが目を開けた。「——悪くない」

よし。帰ろっか。


帰り道だった。

階段に向かう途中、入口方向の通路が——暗くなった。

違う。暗くなったんじゃない。何かが、埋め尽くしてる。

骨魚。さっきより、明らかに多い。

「え……うそ、どこに潜んでたの?この数を見落とすことなんてないはず」

結衣菜の顔が強張った。前管理人と一緒に潜ってた結衣菜が、初めて動揺した顔を見せた。

「もう1つ、群れがいた——この数が隠れるような場所はなかったはずなのに」

入口の方から押し寄せてくる明らかに攻撃態勢だ。退路を塞がれた。目に見える範囲に特殊個体は確認できない。

特殊個体がいない。瓦解させる手段がない。全部倒すしかない。

「封鎖ドアまで下がって!迎え撃つ!」

私が叫んだ。考えるより先に声が出てた。背後は封鎖ドアだけどその前に少し広めの部屋がある。片側からしか来ない。ここが一番マシだ。

4人が封鎖ドアの前に並んだ。

アリスと結衣菜が前に出た。サンと私が後ろ。2人の邪魔にならないように、隙間を狙って撃つ。

結衣菜の槍が回った。押し寄せる骨魚を薙ぎ払う。1匹、2匹、3匹——数えるのをやめた。

アリスの剣が黒い弧を描く。近づいた骨魚を片っ端から斬り落としていく。

2人にとって雑魚は脅威じゃない。でも数が多い。多すぎる。

サンのライフルが通路の奥を撃ち抜く。私の拳銃が近づいてきた1匹を落とす。

どれくらい戦っただろう。10分?15分?体感は1時間だった。

最後の1匹が崩れ落ちた。

全滅。

「——終わっ」

その言葉を、私は最後まで言えなかった。


通路の奥。骨魚がいた暗闇の中から、別の何かが来た。

少し大きめの胴体、長い体。のっぺりした頭部。赤眼の怪物。

最初はのっぺらぼうだと思ったけど顔はあった

サンとアリスが前に出くわしたやつだ。2体いたうちの1体が——1階にいた。

骨魚が全滅するのを、待ってた。

私たちが疲弊するのを、見てた。

知能がある。

そいつは一瞬の躊躇もなく——アリスに向かって触手を伸ばした

確実に。迷いなく。最も消耗している相手を、狙った。

「アリスっ!!」

アリスが咄嗟に剣を振った。触手の先端を弾いた。でも全部は防げなかった。

1本の触手がアリスの足に突き刺さった。

「——っ!」

アリスが膝をついた。剣を杖にして倒れるのをこらえてる。何かがおかしい、見てるだけでわかった。

アリスがあの程度の攻撃で膝をつくことはない

「足に力が入らない…」

「毒……!?」

私の声が裏返った。怪異研究で毒を調べてきた。刺された箇所の周囲が変色してる。注入型の麻痺毒。足の奥に入り込んでる。

アリスの足から力が抜けていくのが見えた。

「足が……動かない」

アリスの声は、それでも冷静だった。

その間に結衣菜が動いてた。

怪物の前に立ちふさがって、槍を構えた。触手が何本も飛んでくる。結衣菜は触手を——切った。避けた。弾いた。

白いワンピースが翻る。槍が回る。触手を1本切るたびに半歩前に出る。押してる。1人で。

でもギリギリだった。余裕なんかない。触手が1本でも通ったら終わる、そのくらいの紙一重で戦ってた。

「サン!あかり!アリスを!」

結衣菜が叫んだ。前を見たまま。のっぺらぼうから目を離さないまま。

サンと私でアリスの両脇を支えた。アリスの足は完全に動かない。引きずるように移動させるしかなかった。

結衣菜が怪物を部屋の壁際に押し込んでいく。階段へのルートをこじ開けるように、1歩ずつ前に出ていく。退路を作るために。

「——今!走って!」

結衣菜が槍を大きく振って触手をまとめて弾き、怪物を切り上げると怪物が怯み大きく体制を崩した。その隙に、広間をを走り抜けサンと私がアリスを抱えて通路を駆け抜け階段まで駆け上がった。結衣菜が後退しながら怪物に猛攻を加えつつ時間を稼ぎ最後に飛び退いてきた。

地下入口。サンが走りながらポケットからピンを引き抜いた。

効くのかどうかすらわからない催涙弾。入口に3つ投げ込んだ。白い煙が地下に広がっていく。

そして——封鎖ドア。

作戦前にサンが「試しに」設置した、組み立て式封鎖ドアの完全版。あの時は保険のつもりだった。まさか本当に命を救うことになるなんて。

ガシャン。重い金属音が響いて、地下が閉ざされた。

基本的に破壊されない設計。サンクオリティ。

今だけは、サンの過剰な準備癖に心の底から感謝した。


アリスをベッドに寝かせた。

足を布で強く縛る。血流を止めて毒が全身に回るのを防ぐ。応急処置。でも、これは時間稼ぎでしかない。

「あかり、すまない」

アリスの声は冷静。でも額に汗が浮いてた。

「間違いなく麻痺毒だと思う。足の深い場所に入り込んでる。足から採取するのは危険、足の神経を傷つけてしまうし毒を動かしちゃう可能性がある。リスクが高すぎる」

「じゃあ」

「敵から直接採取するしかない。成分さえわかれば解毒薬は作れる。素材は揃ってる」

私は怪異研究で毒を調べ続けてきた。怪異に対して使うための研究。万が一のために解毒薬となる薬草や素材も集めてあるでもまさかそれが、仲間を救うために必要になるなんて。

サンが拳を握ってた。いつものテンションじゃなかった。

「……あの怪物知能があったよね。骨魚を指揮してたのかも。あたしたちが消耗するの見てた、アリスを危険と判断して不意打ちをした」

「うん」

「あかりあいつに知能があるなら——私が前にあったもう1体のやつと合流しようとするかもしれない。あいつはやばい」

封鎖ドアは破壊されない設計だけど、あいつが合流したらそれもわからないそれに2体が合流してからじゃ手に負えなくなる。

「骨魚が全滅してる今、すぐに地下に戻って討伐する必要がある。1体のうちに」

結衣菜が静かに言った。さっきギリギリの戦闘をした直後なのに、声に迷いがなかった。

3人の目が合った。結衣菜。サン。私。

行くしかない。

「アリス、私たちが戻る間——」

「無理はするな」

アリスが遮った。ベッドの上で、天井を見たまま。

「どうしようもなくなったら、足は自分で切り落とす」

サンが「ちょっ——!」って声を上げた。

でもアリスは続けた。目だけがこっちを向いた。あの紫の瞳が、真っ直ぐに私を見てた。

「でも——信じてる。無事で戻ってきてくれ」

アリスが「信じてる」って言った。

普段クールで、淡々としてて、感情を表に出さないアリスが。

「……絶対に戻る。解毒薬作って、全員でこの窮地を突破する」

私の声は、もう震えてなかった。


それから約5分、急いで準備を終えた3人が、封鎖ドアの前に立った。
そろそろ催涙弾の効果も切れてるはずだ

結衣菜が槍を握った。 サンがライフルのボルトを引いた。 私が拳銃を確認して、もう片方の手で毒の採取キット鞄へしまった。

封鎖ドアの向こうに、あいつがいる。

「——開けて」


館長日誌 第4話「1階掃討作戦」——了

次回、のっぺらぼう討伐戦。

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