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【創作大賞2026】Shelf 第1話「最近、眠いんだよね」

創作大賞2026 ミステリー小説部門に参加します!

あらすじ

創作SNS「Shelf」のクリエイターたちが、一人ずつ消えている。

共通点はひとつ。全員が、消える直前に同じことを書いていた。

「最近、眠いんだよね」

毎朝4時に起きて記事を投稿するランプは、仲間たちの異変を追い始める。親友のアールに相談し、読者のキューに支えられながら、眠りの正体に迫っていく。

だが、調べるほどに見えてくるのは、思いもよらない真実だった。消えた人たちの痕跡が、Shelfのどこにも残っていない。誰もその人たちを覚えていない。

けれど、謎に近づくほど、ランプ自身の足元が静かに崩れていることに、彼女はまだ気づいていない。


ここから本編スタートですヽ(=´▽`=)ノ


朝4時。

スマホのアラームが鳴るより先に、目が覚めた。

もう体が覚えてしまっている。この時間に起きて、Shelfを開いて、記事を書く。それが私——ランプの毎日だった。

ベッドから出て、カーテンを少しだけ開ける。外はまだ真っ暗。街灯の光がぼんやりと窓に滲んでいる。この時間の静けさが好きだった。世界で自分だけが起きてるみたいな、ちょっとだけ特別な感じ。

パソコンを開いて、Shelfのトップページにアクセスする。見慣れたデザイン。左上のロゴ。タイムラインに並ぶ、まだ数の少ない新着投稿。この時間に投稿してるのは私みたいな早起き組だけ。

今日の記事はもう昨夜のうちに下書きしてある。タイトルを少し迷って、直して、投稿ボタンを押す。

はい、今日も一本。

コメント欄を開く。昨日の記事に、いくつか新しいコメントが入っていた。

「ランプさんの記事読むと朝から元気出ます!」 「今日も更新ありがとうございます!」

一件ずつ、全部返す。これは自分の中で絶対にやると決めていること。どんなに短いコメントでも、書いてくれた人がいる。その人の時間を使って、私の記事に言葉を残してくれた。それを無視するなんて、私にはできない。

全部返し終わったあと、DMを確認する。

アールからメッセージが来ていた。昨夜の23時47分。

「今日のランプの記事、3回読み直した。2段落目の書き出しがすごくいい。あの一文だけで空気が変わる感じがした。好き」

思わず笑った。アールはいつもこうだ。感想が的確すぎる。しかも毎晩こうやって、その日の記事の感想を送ってくれる。私も同じように、アールの記事の感想を毎晩送る。いつからか始まった日課。

アールはShelfで同じ時期に活動を始めた仲間だった。私がクリエイターとして走り始めた頃、たまたまアールの記事を読んで、コメントを残した。「この記事好きです」って、たったそれだけ。アールも私の記事にコメントを返してくれた。それがきっかけだった。

アールの記事は、私とは全然違う。静かで、丁寧で、言葉を選んで置いていくような文章。派手じゃないけど、読むとなんか落ち着く。固定ファンがじわじわ増えてるのも納得できる。

私は逆で、勢いで書くタイプ。思ったことをそのままバーッと。だから正反対なのに、なんでか気が合った。

アールに返信する。

「ありがとー!あの一文、実は5回書き直したんだよね。気づいてくれて嬉しい✨」

送信。既読はまだつかない。当たり前だ、朝4時だもん。

次に、コメント欄をもう一度確認する。昨日の記事に、もうひとつコメントがあった。

「今日の記事も好きでした」

キューだ。

キューはShelfでは投稿をしていない、読み専の人。私の記事をいつも読んでくれていて、たまにこうやって短いコメントを残してくれる。最初は「誰だろう」って思ったけど、毎日のように来るから、だんだん名前を覚えた。

控えめな人なんだと思う。コメントもいつも短い。でも、毎日読んでくれてるってことは確かで。

「ありがとう!キューさんのコメント見ると今日も頑張ろうって思えるよ✨」

返信を送る。いつもこんな感じのやり取り。距離があるようで、でも確かにそこにいてくれる人。

さて。

コメント返信も終わったし、タイムラインでも眺めようかな。フォローしてる人たちの新着を上からスクロールしていく。

…ん?

ふと、手が止まった。

タイムラインに、同じような投稿がいくつか並んでいる。違う人の投稿なのに、なんか似てる。

「最近、なんか異常に眠いんだけど、同じ人いる?」

「ここ3日くらいずっと眠い。寝ても寝ても眠い。なんだこれ」

「朝起きれなくなってきた。投稿遅れてごめんなさい」

季節の変わり目かな、くらいに最初は思った。私だって眠い日はある。4時起きを続けてたらそりゃ眠い日もあるよ。

でも、引っかかったのはそのあとだった。

「眠い」と書いた人たちのアカウントを、なんとなく見に行った。すると、その投稿を最後に——更新が止まっている。

一人や二人じゃない。

「眠い」と書いた人のうち、少なくとも私が確認できた範囲で7人。全員が、その投稿を最後にShelfから姿を消していた。

プロフィールはそのまま残ってる。過去の記事も読める。でも、新しい投稿がない。コメントへの返信もない。スキも付けてる様子がない。

まるで、寝たまま起きてこないみたいに。

…いやいや。考えすぎだよね。

忙しくなったとか、Shelfに飽きたとか、理由なんていくらでもある。クリエイターが突然更新を止めるなんて、珍しいことじゃない。

でも私は、こういうのが気になってしまう性格だった。

一人ずつ、DMを送ってみた。

「お久しぶりです!最近投稿見かけないけど、お元気ですか?」

7人全員に送った。丁寧に、でもさりげなく。重くならないように。

1時間経っても、誰からも返信がなかった。既読すらつかない。

夜になって、アールに相談した。毎晩のDMのやり取りの中で、何気なく切り出す。

「ねえ、最近タイムラインで気になることがあってさ」

「なに?」

「『眠い』って書いて、そのまま消えてく人が増えてるの。もう7人見つけた。全員に連絡したけど、返事がない」

「……」

アールの返信が少し遅れた。打ってる途中の表示が出て、消えて、また出る。アールにしては珍しい。

「ランプは?」

「え?」

「ランプは最近、ちゃんと寝てる?」

「私のことはいいの。それよりみんなのことが心配で。だって7人だよ?同時期に7人がいなくなるって、ちょっと異常じゃない?」

「…うん。確かに多いね」

アールはそれ以上、私のことは聞かなかった。でも、あの一瞬の間が気になった。アールが言葉を選ぶ時って、いつも何か考えてる時だから。

まあいいか。

翌日から、私は本格的に調べ始めた。

消えた7人のアカウントを片っ端からチェックする。プロフィール、投稿履歴、フォロー・フォロワーの傾向、活動期間、投稿ジャンル。何か共通点がないか。

最初は全然見つからなかった。ジャンルはバラバラ。小説を書いてる人もいれば、エッセイの人も、写真メインの人もいる。フォロワー数も100人くらいの人から3000人超えの人まで。年齢層も性別もバラバラ。

でも、一つだけ。

たった一つだけ、全員に共通することがあった。

7人全員が、Shelfのアクティブクリエイターだった。

毎日投稿、もしくは週5以上のペースで記事を更新していた人たち。コメントを返して、他の人の記事にスキを押して、DMでやり取りして。Shelfの中で「頑張って」活動していた人たち。

頑張っている人から、消えていく。

パソコンの画面を見つめたまま、私の目がスッと冷えていくのを感じた。

普段の私は、たぶん明るくて元気に見えてると思う。フォロワーさんとワイワイやり取りして、コメント全返信して、誰かが困ってたら「大丈夫?」って声をかけに行って。

でも、こういう時だけ、自分の中の温度が下がるのがわかる。感情じゃなくて、回路が切り替わる感じ。他人のことになると首を突っ込まずにいられない。けれど、一度スイッチが入ると、冷静に、淡々と、事実だけを追いかけ始める。

これは偶然じゃない。

何かが起きている。Shelfの中で、静かに、確実に。

頑張っている人たちが、「眠い」という言葉を最後に、消えていく。

次は誰が消えるんだろう。

そう考えた瞬間、ふと思った。

——私も、毎日投稿してるアクティブクリエイターなんだけど。

でも、その考えはすぐに頭の隅に追いやった。

今は、自分のことより、消えたみんなのことだ。

パソコンの画面を閉じて、ベッドに入る。明日も4時に起きる。記事を書く。コメントを返す。そして、調べる。

まだ何もわかっていない。でも、わかるまでやめるつもりはなかった。

目を閉じる。

今日は、少しだけ眠気が来るのが早い気がした。

少し不安を感じたが、気のせいだと思いたかった。

第1話 了

第2話はこちらから👇️


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