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【創作大賞2026】Shelf 第2話「あなたが灯したんでしょう?」

前回の話はこちらから👇️

ここから本編だよーヽ(=´▽`=)ノ


あれから3日。私は毎晩、消えたクリエイターたちの行動履歴を追い続けていた。

朝は4時に起きて記事を書く。コメントを返す。日中は普通に過ごす。でも夜になると、パソコンの前に座って、消えた人たちの足跡を辿る。最後の投稿、最後のスキ、最後に読んだ記事。一人ずつ、丁寧に。

アールが心配してDMを送ってくる。

「ランプ、今日ごはん食べた?」

「食べた食べた!大丈夫だよ!」

嘘だった。食べてない。夕方にチョコレートをひとかけ齧っただけ。でも、そういうのはあとでいい。今はもっと大事なことがある。

「ランプ」

「ん?」

「無理しないでね」

「してないよ!みんなのことが気になるだけ。ありがとね、アール」

アールの返信が少し遅れた。

「……うん」

あの間。アールが何か飲み込んだ時の間だ。私にはわかる。でも、今はそこに踏み込んでる余裕がなかった。

消えた人たちは、7人から11人に増えていた。

全員アクティブクリエイター。全員が「眠い」と書いて消えた。そこまでは前に調べた通り。でも、もっと深い共通点があるはずだ。

投稿ジャンル、フォロワー数、活動開始時期。何度見比べても、法則が見えない。表計算ソフトにデータを並べて、ソートをかけて、色分けして。それでも何も浮かび上がらない。

3日間、同じところをぐるぐる回っている感覚だった。

だから、視点を変えた。

「投稿」じゃなくて、「閲覧」を調べてみよう。

Shelfには「最近読んだ記事」という機能がある。自分が読んだ記事の履歴が、プロフィールの隅にひっそりと表示される仕様。ほとんどの人は気にしない、地味な機能。でも、アカウントが残っている以上、消えた人たちの閲覧履歴も見られるはずだ。

一人目。消えたクリエイターのプロフィールを開いて、閲覧履歴を確認する。「最近読んだ記事」の一覧をスクロールして、最後の日付を探す。あった。消える前日の夜、最後に読んだ記事。タイトルをメモする。

二人目。同じ手順。プロフィールを開いて、履歴を辿って、最後に読んだ記事を確認する。メモに追加。

三人目。同じ作業。この人は閲覧履歴がやたら長くて、最後のページに辿り着くまでに時間がかかった。スクロールしながら、この人もたくさんの記事を読んでいたんだなと思った。たくさん読んで、たくさん投稿して、Shelfの中で頑張っていた人。その人が今は沈黙している。

四人目。五人目。六人目。

単調な作業だった。でも手を止めるわけにはいかない。何かが見えるかもしれない。何かが引っかかるかもしれない。その「かもしれない」だけが、今の私を動かしていた。

七人目。八人目。九人目。

深夜2時を過ぎていた。目が乾いている。肩が石みたいに硬い。でも、あと2人。

十人目。

十一人目——。

全員分のデータが揃った。消えた11人が、最後に読んだ記事。その一覧を、一つのメモにまとめて、上から順番に見直す。

最初は共通点なんてないように見えた。読んでいた記事のジャンルもバラバラだし、投稿された日付もバラバラ。

でも、ふと気がついた。

記事のジャンルでも日付でもなく、投稿者の名前を見ていなかった。

一覧の中の、投稿者名だけを抜き出してみる。

手が、止まった。

画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

11人全員が、消える直前に、同じ人の記事を読んでいた。

同じ人。

その名前を、私はよく知っていた。

ランプ。

私だ。

全員が、私の記事を読んでいた。読んだ記事はそれぞれ違う。ある人は3日前の記事、ある人は1週間前の記事、ある人は1ヶ月前のものまで遡って読んでいた。でも、消える直前の最後の閲覧が、全員——私の記事だった。

私の記事を読んだ人が、消えている。

椅子の背もたれに体を預けて、天井を見上げた。

部屋は暗い。パソコンの画面だけが光っている。その光が天井に薄くぼんやりと反射して、見知らぬ模様を描いていた。

しばらく、何も考えられなかった。頭が真っ白になるって、こういうことなんだと思った。

やがて、少しずつ思考が動き始める。

偶然の可能性は? 私はShelfの中ではそれなりにフォロワーがいる。毎日投稿してるから、読んでる人も多い。だから「最後に読んだのがたまたま私の記事だった」ってことは、確率的にありえなくはない。

でも、11人全員が?

一人ならわかる。二人でも、まあ偶然で済む。でも11人全員の最終閲覧が同じ一人の記事って、それはもう確率の話じゃない。

じゃあ何。私の記事に何かがあるの。何かが仕込まれてるの。誰かが私の記事を使って何かをしてるの。

いや、違う。仕込むって何を。私は普通に記事を書いているだけだ。いつもと同じように、朝起きて、思ったことを書いて、投稿してるだけ。

でも、結果として、私の記事を読んだ人が消えている。

原因が何であれ、事実は変わらない。

私は、みんなを消した側なのか。

その考えが浮かんだ瞬間、胃の奥がぎゅっと縮んだ。気持ち悪さとも違う、もっと深いところが冷たくなる感覚。毎日書いてきた記事。毎日返してきたコメント。誰かの力になりたくて、誰かに読んでもらいたくて、続けてきた毎日。

その全部が、誰かを消す原因だったとしたら。

私がShelfで積み上げてきたもの全部が、誰かにとっての毒だったとしたら。

画面の光が、さっきより少し暗く見えた。

その夜、アールにこのことを伝えるかどうか迷った。

迷って、迷って、結局伝えた。アールには隠し事ができない。毎晩やり取りしてるのに、こんな大きなことを黙っていられるほど、私は器用じゃなかった。

「アール、聞いてほしいことがある」

「うん」

「消えた人たち、全員の閲覧履歴を調べた」

「……うん」

「全員、消える直前に私の記事を読んでた。11人全員」

長い沈黙。

打ってる表示が出て、消える。また出て、また消える。アールがこんなに言葉を選ぶのは珍しい。

「……ランプは、自分を責めてる?」

「わかんない。でも、事実として、私の記事を読んだ人だけが消えてるの」

「ランプの記事が原因だって、本気で思ってる?」

「思いたくない。でもデータはそう言ってる」

また沈黙。今度はさっきより長かった。

そして、アールの返信が来た。

「ランプの記事を読んでるのは、私も同じだよ」

心臓が跳ねた。

当たり前のことだ。アールは毎日私の記事を読んでくれている。3回読み直すこともある。私のことを一番読んでくれている人。

その事実が、今は怖かった。

「アール、しばらく私の記事読まないで」

「……」

「お願い。読まないで」

「ランプ」

「お願いだから」

「私がランプの記事を読まなくなったら、ランプは一人で全部抱え込むでしょ」

返す言葉がなかった。

アールは続けた。

「ランプはいつもそう。みんなのことは全力で心配するのに、自分のことになると何もしない。私が読まなくなったら、誰がランプのこと見てるの」

「……アール」

「だから読むよ。明日も。明後日も」

この人は、こういう人だ。穏やかで、静かで、でも決めたことは絶対に曲げない。優しさの形が不器用で、でもまっすぐで。

私は画面の前で唇を噛んだ。ありがとうとも、やめてとも言えなかった。

「おやすみ、ランプ。明日もちゃんと起きてね」

「……うん。おやすみ、アール」

翌日は、いつも通りの朝だった。

4時に起きて、記事を書いて、投稿して、コメントを返して。アールの記事にもスキを押した。アールはいつも通り、朝の7時頃に投稿していた。穏やかなエッセイ。読むと少しだけ肩の力が抜ける、いつものアールの文章。

昼過ぎにアールからDMが来た。

「今日のランプの記事、冒頭の一文が特に好きだった」

「ありがとー!アールにそう言ってもらえると自信出る✨」

いつもの会話。いつもの日常。

夕方にもう一通。

「さっき面白い記事見つけたよ。ランプも好きそう」

リンクが貼ってあった。開いて読んだ。確かに面白かった。

「これいいね!ありがとう!」

「でしょ」

いつもの、何でもない会話。

夜、23時。いつもの時間に、いつものようにアールからDMが届いた。今日の私の記事への感想。丁寧で、的確で、愛のある言葉。

でも今回は、最後に一行だけ、いつもと違う文が追加されていた。

「ちょっと急に眠くなってきた。また明日ね」

違和感があった。

アールはいつも、感想を書き終えてから「おやすみ」と送ってくる。それが日課だった。でも今日は「おやすみ」じゃなくて、途中で切り上げるような終わり方。

まるで、最後まで書いていられなかったみたいに。

指が震えてるのがわかった。すぐに返信を打つ。

「アール?」

送信。既読がつくのを待つ。

つかない。

「アール、起きてる?」

送信。既読がつかない。

「ねえ、冗談だよね?」

送信。既読がつかない。

「アール!!」

送信。

既読は、つかなかった。

翌朝、4時に目が覚めた。いつもと同じ時間。でも、いつもと同じじゃないことは、目を開けた瞬間にわかっていた。

Shelfを開く。アールのプロフィールページに飛ぶ。

最後の投稿。昨日の朝7時のエッセイ。それ以降、何もない。

DMを開く。昨夜の私のメッセージが4つ、並んでいる。全部未読のまま。

「ちょっと急に眠くなってきた。また明日ね」

アールが残した最後の言葉が、画面の中でじっと光っている。

また明日ね、とアールは言った。

明日は来なかった。

あのDMの一行を見た時、頭の中でいくつもの声が同時に叫んだ。止めたかった。止められたんじゃないか。「読まないで」って、もっと強く言えばよかった。

でも、アールは自分で選んだのだ。私の記事を読み続けることを。私のそばにいることを。

「私がランプの記事を読まなくなったら、誰がランプのこと見てるの」

あの言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返される。

パソコンの画面の光だけが、暗い部屋の中で静かに揺れていた。

第2話 了

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