見出し画像

「医療の質」について思うこと

「医療の質」と聞いてどんなことをイメージされますか?

医療の質については、色々なところで、様々な視点で議論されていますが、一言で言うと「良い医療かどうか」のことなのではないかなと思います。

分かりやすい例で言えば、私の敬愛するブ◯ックジャック先生のように「手術のうまい医師が質の高い医師」と、ある面では言えるかもしれません。

従来は、長生きできる医療・病気が治せる医療が良い医療、つまり「質の高い医療」であったと思います。

私も医師に成り立てのころはそのように考えていました。
しかし、基本的に治せない病気と向き合い、必ずしも長生きを目的としない在宅医療の文脈では、これは当てはまらないのです。
緩和医療でもそうだと思います。

私は、この「医療の質」について10年くらい考えてきました。
質の高い医療って何だろうと悩んできた結果、ちょっと月並みな言葉ではありますが、今は「幸福度」の物差しで測るのが良いのかなと思っています。
(医学的には「QOL (Quality of Life=生活の質)」という単語があるのですが、私的には表面的に感じて何となくしっくり来ませんでした。)

もともと医療自体、人が幸せに過ごせるために生まれた概念であるはずです。
つまり、どの分野であっても医療の最終的な目的は幸福度の向上であると考えられます。

在宅医療の世界は正解がないことが特に多く、悩む機会は急性期病院時代より増えましたが、「その人にとって何が幸福なのか」という視点を常に忘れないようにすることで、ブレることが無くなったように思います。

問題は、幸福度というものが定量化できず、最終的には主観的に判断せざるを得ないということです。
なので、その人が幸せかどうか推定できるくらいまで対話をするということを常に心掛けているつもりです。

さて、今年は2年に1回行われる診療報酬改定の年でした。
在宅医療の分野でも、「質の高い在宅医療」というテーマのもと、大きな動きがありました。
これまでは画一的であった在宅医療機関ですが、中でも複数の医師を抱え、重症の患者さんを多く見ている医療機関が特に優遇され、その他は評価が下がるという内容でした。
システムで考えればそれがおそらく正解なのでしょうし、将来を見据えた適切な改定であったと思います。
当院は重症率に関しては余裕を持ってクリアできていましたが、常勤が私一人なので、この基準を満たせませんでした。

私のある患者さんは診察当初寝たきりで介護度は4でした。これはいわゆる重症に該当します。
診察の結果、寝たきりの原因は筋固縮による腰痛と考えられました。この方は多量の痛み止めを飲んでいました。
そこでトリガーポイント注射、訪問リハ・マッサージ等を導入してみたところ、みるみる改善し、自分で歩けるようになってしまいました。暗かった表情も明るくなりました。

しかし、介護度が下がることで重症度も下がるため、クリニックの経営としては今後むしろマイナスとなるケースです。
今後世の中的に重症率を「上げてしまう」インセンティブが働かないかは懸念があります。
それでも、一人一人の状況にまでいちいち目を向けていたら制度としては成り立たないのでしょう。

私の診療所では医師はほぼ私一人ですし、一人に掛ける時間がどうしても長くなりがちなので多くの患者さんを見ることは物理的にできません。
国の考える「質の高い在宅医療」には選ばれなかったということに正直悔しさを感じるところはあります。
それでも、私は自分自身の「医療の質」の基準を保ち続けます。

そして明日も患者さんの幸福度向上を目指していきます。

いいなと思ったら応援しよう!