【せりふ三題】止まり木に咲く
「でもお母さま、星文鳥さんが入って来るかも。学校のお友達が——」
「庶民のくだらない流言など聞き捨てなさい」
お母さまは窓を固く閉めた。これでは星文鳥さんが部屋に入ってこれない。
お嬢ちゃんはお友達から聞いたお話を信じていた。新月の夜。夢の中に星文鳥さんが遊びに来てくれる。
星文鳥さんは小さくて、可愛くて、誰ともお友達になってくれる。だからお嬢ちゃんは、星文鳥さんに来てほしかった。
それなのにお母さまは窓に鍵を掛け、カーテンまで閉めた。星文鳥さんに見つけてもらうため、いちごのヘアピンを枕の下に隠した。せめてヘアピンだけでも着けて、お嬢ちゃんは眠った。
*
「起きて」
鈴のような優しい声で、お嬢ちゃんは目覚めた。目の前に、お姫様がいる。艶やかな黒い髪、白いドレス、桃色のリップ。飾り気のないその姿に、しかし確たる”お姫様”を見出した。
「星文鳥さん?」
「そう。初めまして!」
にっこりと笑った文鳥のお姫様が手を差し伸べた。お嬢ちゃんは握手した。自分の袖をみて、お嬢ちゃんは顔を逸らした。
「ごめんなさい、あたし、パジャマのままだわ」
「あら、それなら——」
星文鳥さんがくるりと回った。すると、星文鳥さんも同じパジャマ姿になった。
「見て、おそろい」
そう言って星文鳥さんがイチゴのヘアピンを指し、お嬢ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
それから二人はたくさん遊んだ。星のブランコ、銀河の滑り台、甘い星雲、まさに時間を忘れて遊んだ。
「——そろそろ時間だわ。おうちに帰らなきゃ」
「え?」
「お嬢ちゃんも、ベッドに戻る時間よ」
「まって!やだ!もっと遊びたい!」
「私もよ、でも、お嬢ちゃんは夢の外の住人だから、現実で生きなきゃ」
「やだ!お母さまも嫌い!先生も嫌い!みんな嫌い!星文鳥さんと一緒がいい!」
「——それなら」
瞼が重くなる。いやだ、目覚めてはいけない。星文鳥さんが離れてしまう。お嬢ちゃんは唇を噛んで目を開けた。
「大人になったら、今度は私を見つけて——」
*
子供たちの間の噂やおまじないの類は、往々にして流行り廃れを繰り返す。ゆえに星文鳥の噂はほどなく途絶えた。
しかしある少女が大人になり、児童保護施設を立ち上げた。
何か特別なことをするでもない。ただ、寝泊りする場所を提供するだけである。いわば一時避難所。良質な睡眠、友達と寝る前のレクリエーションやお話しの読み聞かせ。子供に安心を与える空間の提供。
子供たちの要望であれば、全てが無償で受けられる。
名を”星文鳥”。
「やったよ、お姫様」
彼女は椅子にもたれかかり、片をほぐした。子供の頃のたった一夜の夢、しかし彼女は確かに救われていた。風まみれの闇に中で、止まり木を見つけた心地だった。
あの時もたらしてくれた安らぎを、今度は見ず知らずの誰かに捧げる。そうすれば、貴女に近づける気がして。
「おめでとう!」
背後から、鈴のような優しい声がした。忘れようもない、あの一夜の安らぎが押し寄せてくる。
星文鳥さん、あなたの止まり木になれたかな?
夢一夜
咲く止まり木の
若いちご
かほり頼りに
闇渡るなり
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