何もない一日を、記録し続けた男の話(第22話|何を測っているのか)
彼は、
長いあいだ
水位を測ってきました。
一日ごとに、
言葉を置き、
流れを確かめる。
そんな時間を、
静かに積み重ねてきました。
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けれど、
ある日ふと考えます。
自分は、
何を測っているのだろう。
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出来事ではありません。
成功でもありません。
失敗でもありません。
それらは、
あとから形を変えていきます。
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では、
感情なのか。
喜び。
落ち込み。
焦り。
安心。
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けれど、
それも少し違う気がしました。
感情は、
その瞬間の
表面の揺れに近い。
そう感じたのです。
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彼が測っていたのは、
もっと静かなものでした。
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流れ。
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うまくいっているか、
ではありません。
正しいかどうか、
でもありません。
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ただ、
自分が今、
どの方向へ流れているのか。
それを、
確かめていたのでした。
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ノートを開きます。
今日も、
一行だけ書きます。
「流れは、
止まっていない」
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それだけで、
十分でした。
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彼は気づきます。
人は、
結果を見て安心しようとします。
評価を見て、
自分の位置を確かめようとします。
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けれど、
それでは遅いのかもしれません。
結果というのは、
すでに流れた後に残る形だからです。
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水位は、
その手前にあります。
まだ形になっていない
流れの段階で、
自分の位置を知る。
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彼は、
それを測っていました。
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外の世界は、
相変わらず動いています。
評価も、
期待も、
数字もあります。
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それでも、
彼の基準は変わりません。
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今日、
どう流れていたか。
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それだけです。
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ノートを閉じます。
水は、
見えないところで
動いています。
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彼もまた、
見えない流れの中で
生きています。
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測っているのは、
結果ではありません。
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流れです。
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