秋柴ワンコとぼんやりアキタ【交換小説】
この記事は富樫デザイン工房さんの『秋柴ワンコと冬眠ヒグマ』との交換小説(なんだそれは)です。まだお読みでない方は、どうぞ以下からお入り下さい。
「ちょい待ち。これ、どう考えてもアンタの方が適任でしょ」
「――あ?」
「あ?じゃないっ!」
ワタシはくわっと牙をむいた。この呑気さ、マジで腹が立つ。
「よく考えてよ、冬のオホーツクだよ?めっちゃすげー雪だってば。柴犬のワタシが行ってどーにかなると思ってんの?アンタは秋田犬でしょうが。アンタの故郷はそれなりに雪が降るでしょ!」
「――オホーツクほど降らへん」
「だーかーらっ!!!」
ワタシはホットカーペットの上で、たしたしたしっと地団駄を踏んだ。
我が相棒ながらこのぼんやりモード、勘弁してほしい。
「とにかくさ、急遽オホーツクに行かなきゃいけなくなったわけ。その富樫さんとやらいう人に会いに」
「――義経と弁慶、見逃したヒト?」
「いきなり勧進帳のハナシに持ち込むなっっっ」
「――でもソレ、柴ちゃんの担当やで」
「は?」
アキタはぼわぁっと大欠伸をかますと、首の後ろをかかかかっと掻いた。
「――基本、宣伝とか広報とかの外部交渉は柴ちゃんの仕事やん。自分は書き担当やさかい」
「ぐ……」
ワタシはぎりっと奥歯を噛みしめた。
外部交渉などと、ボケのアキタにしては小難しい言葉を使ってくるのがどうにも癪だが、確かに向こうの言うことも一理ある。
『秋田柴子』は、秋田犬のアキタと柴犬のワタシが結託してできた、しがない物書きの像だ。
どうも世間では柴ワンコと思われているらしいが、実のところ物語を書いているのはアキタの方だ。ワタシはアキタの書いたものの編集とか校正とか投稿とか宣伝とか整理とか講評とか次のネタの相談とか、とにかく書くこと以外のすべてを担当している。そうでないとコトが回らないからだ。
アキタだけに任せておくと、枚数も締切もどこ吹く風で、ほっとくといつまでもぼーーーーっとしている。
だからワタシがすべてを取り仕切っているのだ。
「――そやから、そのトガシなんたらいう人に挨拶すんのは柴ちゃんに任せたで。自分、締切あんねん」
「こういう時だけちゃんと締切覚えてんだよね……」
「――あったかくしてきいよ。あ、前日は餃子食べるの控えるんやで。やっぱヒトに会うのに……」
「やかましいわっっっ」
そんなこんなでワタシは一路、雲の上の人、いや犬となって最強寒波が猛威をふるう中、女満別空港に降り立ったのである。
(どーして飛行機が飛べるんだ。謎すぎる)
とりあえずアキタのつてを頼って、シベリアンハスキー氏に道案内を頼む。富樫さんにはヒッチハイクと言っておいたが、要するに犬ぞりに乗ってきたというわけだ(寒さを除けばなかなか快適だった)。
だが途中でハスキー氏が道に迷って(地元のくせに)、網走警察署に駆け込んで案内してもらうはめになった。さすがアキタの知り合いだけあってぼんやり、いやおっとりしている。しかも湧別町の道の駅でクマの姿を見たら、びびって速攻で逃げてしまった。
それで仕方なく、そのクマ氏にご同行をお願いしたのである。見かけはいかついが、極めて親切な方だったので助かった。おっかないOSO18とかじゃなくてよかったと胸を撫で下ろしたのは内緒のハナシ。
そのあとのことは、下にあるとおりだ。
世間ではアキタとワタシの関係はあまり詳しく知られていない。事実、この富樫さんという人も、ワタシが「秋田柴子」の飼い犬だと思っているようだ。世間の像に合わせてとりあえず ” ご主人 ” と言っておくが、内心あのぼんやりアキタを思い浮かべると、何やら釈然としない。
どうやら富樫さんは、ワタシをここまで連れてきてくれたクマ氏とも仲がいいようだった。もっとも多少荒っぽいというか、よけいな気遣いや忖度のない、剥き出しの交流ではあったけれど。それもまたひとつの関係の在り方ではあるのだろう。
だけどあのクマ氏、なんで大阪弁なんだろう。謎だ。
いやそもそも、富樫さんは何であんなさっっっむいところに住んでいるのだろう。それもまた謎だ。
まあもっとも我が家にも怪しげな関西弁を操る秋田犬がいるのだから、あまり人のことは言えないのだけれども。
「……ただいま」
「――お疲れ~。寒かったやろ、ほらこっち来て火にあたり」
びょんびょんに毛を逆立てて帰ってきたワタシを、アキタはそのほさほさの尻尾を振って出迎えてくれた。
暖かいストーブの前でぷるぷると体を震わせ、アキタが淹れてくれたココアをすすると、ようやく体が少し温まってくる。
「――そんでどうやった?その富樫さんいう人」
「ん?ああ、まあ……なんかフツーに挨拶して……向こうのクマさんとかと仲いいみたいで……」
「――へえ、そうなん。でもあれやね、やっぱそういうのは柴ちゃんじゃないと。自分やとすーぐボロが出そうや。お疲れお疲れ、ゆっくりしいや」
「そだね……あ、忘れてた。これおみやげ。アンタの好きなやつ」
ワタシは紙袋から『白い恋人』の箱を取り出した。
「――『白い恋人』やん!!!おおきに柴ちゃん、自分これ好っきやねん」
「知ってる。せっかくオホーツク行ったから、カニとか帆立でもと思ったけど、アンタはこっちの方がいいんでしょ」
アキタはさっそく箱を開けながら、ぶんぶんと首を振った。
「――柴ちゃん、カニはあかんで。最近へんなカニが出回ってるいうねん」
「へんなカニ?」
「――そうや。なんかな、食べると毎週、ショートショート書かなあかんみたいな中毒起こすらしいねん」
ワタシは思わず噴き出した。
カニ食べて毎週ショートショートを書く、か。何ともシュールだ。
「それぐらいの方が、アンタにはちょうどいいんじゃないの?でないといつまでたっても書かな……ちょっとアンタ!締切どーしたのっ?原稿はっ!?」
「――あ?」
「あ?じゃないっっっ!」
冗談じゃない、なんでワタシが一人でオホーツクくんだりまで行ってきたと思うのだ。頭に来たワタシは床を蹴ってアキタに飛び掛かると、思いっきり肉球アタックを食らわせた。アキタの巨体がもんどりうってカーペットの上に倒れ込む。
『白い恋人』の箱は見事にひしゃげて、ほとんど空になっていた。
(了)
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