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【#創作大賞2024】蒼に溶ける 第2章 ⑦ 決裂

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「ちょっと待って、お父さん。確かお母さんは、火葬を嫌がってたって聞いたけど」

斎場の控室で黒いフォーマルドレスに身を包んだ結依は、父の晃雄を正面から見据えた。だが晃雄は動じる様子も見せずに、小さく鼻を鳴らした。

「まったくおまえは、何でも親の言うことに逆らうんだな。お母さんから何を聞いたか知らないが、俺はそんなことを聞いた覚えはない。確かに火葬が怖いとは言っていたが『水火葬にしてほしい』とは一言も言ってないんだ」

「それは言葉の問題でしょう。お母さんが火葬を嫌がってるの知ってて、敢えてそっちにする必要ある? 他に選択肢がないなら仕方ないけど、今の時代はちゃんと水火葬っていう手段があるんだから」

あの病室の口論以来、晃雄と結依の睨み合いは今も続いたままだ。その険悪な空気を中和するかのように、大樹が曖昧に口を挟んだ。

「水火葬かあ。俺のまわりでも普通に聞きはするけど」
「フジタでも、そういうのを選ぶ人は多いのか」

大樹は落ち着かない様子で、きょときょとと視線を揺らした。

「多い……うん、まあそうだね。そもそも火葬を選択できる人自体が少ないからね。仮にできたとしても、その後の管理が大変だしさ。実家の墓がすごく遠いとかね。そもそも墓そのものがない人もたくさんいるし」

「なるほど、やっぱり民間だとそういうものか」

「だから祖父ちゃんの葬式の時は火葬ってことで、やっぱりまわりから驚かれたよ。まあうちが火葬の権利持ってるからって、俺自身が偉いわけでも何でもないんだけどさ」

見え透いた露骨な追従に、結依が渋い顔をして横を向いた。

「要するにお母さんの希望がどうだろうと、会社で体面を保ちたいから特権である火葬を選ぶってことよね。お父さんもお兄ちゃんも」
「あのな、結依。そういう単純な話じゃないんだ」

晃雄はさっきまでの剣呑さとは打って変わった、妙に穏やかな声で言った。

「おまえからしたら、下らないことに見えるかもしれん。小さな世界にいれば立場も何もないからな。それなら個人の好きにすればいいだろう。だがお父さんにせよ大樹にせよ、ある程度の立場にいる人間はな、そういう個人の我儘ばかりでは通らんこともあるんだ。要するに、世間に対して恥ずかしい真似はできんということなんだよ」

「――悪いけど、私には全然判らない。水火葬は別に恥ずかしいことなんかじゃないし、仮に何か言われたって『故人の希望で』って言えば済む話でしょう。そもそもそんなことをわざわざ言ってくる人の方がよっぽどおかしいよ。人の家のめちゃめちゃプライベートなことに嘴突っ込んでくるなんて」

結依が固い声で反論すると、晃雄も大樹もやれやれと持て余したような笑いを浮かべて顔を見合わせた。

「まあ結依には判らん話かもしれんな。ともかくお母さんのことはお父さんが決める。おまえはいろいろ言うが、お父さんや大樹の立場が悪くなるようなことをお母さんが望むわけはないからな」

晃雄のほぼ結論めいた言葉に、大樹も同調するように頷いた。

「母さんもさ、もしも本当に嫌なら、もっと父さんにもはっきり言ってたと思うよ。単にイメージで、こういうのもいいなっていう程度だったんじゃない? それこそまだ自分が……逝っちゃうような歳でもなかったわけだし、そこまで真剣に決めてたとは、ちょっと思えないな」

「――言っても聞いてもらえないって、お母さんは言ってた。お父さんは全然取り合ってくれなかったって」

晃雄は困り果てたように、大きなため息をついた。

「結依。自分の意見を通すために、小手先で物を言うのはやめなさい。お父さんはいつもお母さんの言うことはちゃんと耳を傾けてたし、できる限り希望に沿ってきたつもりだよ。もちろん全部を、というわけにはいかないがな。そういう時はちゃんと事情を説明して、理解してもらうこともあった。お母さんはずっと家の中にいたから、世の中の仕組みが判らないってこともあるからな。でもそれは仕方のないことなんだよ」

結依は唇を噛みしめたまま立ち上がると、そのまま振り返ることもなく黙って控室を出ていった。


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