【#創作大賞2024】蒼に溶ける 第3章 ⑤ 納骨
そのまま一か月ほどは無風の日が続いた。
その後が気に掛かっていたものの、お盆の繁忙期もあって仕事が忙しく、気がつけばもう9月も半ばに入っていた。
そんな時、唐突に父の晃雄から電話があったのだ。画面通知を見た途端、結依は不吉な予感がした。
「もう納骨したって!? どういうことなの!?」
予感は的中した。事もあろうに晃雄は、開口一番「お母さんの納骨はこちらで済ませておいた」と来たのだ。
「済ませたってなに!? お父さんが一人でやったってこと!?」
声を荒げる結依に反して、電話口の父の声は憎らしいぐらい平坦だった。
「そんなわけないだろう。ちゃんと妙遠寺の坊さんに墓地まで来てもらって、そこでお経を上げて……」
「そうじゃなくて! お父さんとお坊さんだけだったの? お兄ちゃんは?」
「――いたぞ、大樹も」
結依は体中の血液が一気に逆流するような衝撃を覚えた。
「一体どういうことなの。なんで私には連絡してくれなかったの?」
「なんでって、おまえがそんなこと言うのか、結依。おまえは納骨に反対なんだろう? 散骨がいいとか言ってたじゃないか。まさかそんな馬鹿な真似させるわけにはいかんからな」
「馬鹿な真似って……何よ、その言い方! しかも勝手に納骨しちゃうなんてひどいじゃない!」
電話の向こうからため息にも似た、だるそうな声が流れてきた。
「そうでもしないと、また当日おまえが何か言い出しかねないだろう。墓の前でごちゃごちゃ揉めたんじゃ、寺も困るしご先祖にも申し訳ないからな」「だからその前にちゃんと話し合おうって、四十九日が終わった時もそう言ったでしょう!」
結依は必死に怒りを堪えながら、何とか言葉を絞り出した。
「私だって、何が何でも散骨にしてって言ってるわけじゃないよ。ちゃんと私の意見を聞いた上で話し合いをしてほしいんだってば」
「おまえのは話し合いじゃないだろう。人の話も聞かずにただ自分の意見を頑固に主張してるだけじゃないか。お父さんはちゃんと何度も説明したはずだぞ。うちの家に相応しいきちんとした埋葬をするべきなのに、それをしないっていうのは……」
人の話を聞かないだなんてどの口が、という罵りが舌先まで出掛かるのを何とか呑み込む。
「何も火葬だけがちゃんとした埋葬ってわけじゃ……」
「おまえは物が判ってないんだ。若い奴らはそれでいいかもしれんがな、お父さんのいる世界では、そういう儀礼を軽んじる姿勢は恥ずかしいことなんだ。そういう古くからのものを大事にすることが、結局は自分にも返ってくるんだよ」
声を荒げるでもなく妙に淡々とした声の、噛んで含めるような物言いが耳に纏わりついて何とも不快極まりない。だが何より議論がまったく噛み合わないことに、結依は我が親ながら目眩がする思いだった。
――きっとお母さんもこんな気持ちだったんだ。
何を言っても、何を訴えても、結局は夫の思考の枠から外れたものは一切聞き届けられず、挙句は物の分別を教え込むかのような反応しか返ってこない。いっそのこと怒鳴られでもした方が、却ってこちらも思い切って反論できようものを、妙にこちらの劣等感を引きずり出された上に、どうせ伝わらないという諦めが二重に舌を縛るのだ。母も、そしてまた自分も。
結依は無言で電話を切ると、そのまま呆然と宙を眺めた。
「ごめんね、お母さん……」
狭い2DKのダイニングに一人佇む結依の目から、ひとすじの涙が静かに流れた。
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