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【#創作大賞2024】蒼に溶ける 第4章 ① 相談

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残暑の蒸し返すような陽射しの中で、ツクツクボウシの鳴き声が狭い境内に溢れ返っている。四十九日の法要で訪れた時はようやく蝉が鳴き始めたばかりだったことを思うと、暑いながらも季節は確実に移っていることを感じさせた。

「――ああ、鈴村さんのお嬢様ですね。ようこそいらっしゃいました。暑かったでしょう。どうぞお入りください」

妙遠寺の檀家専用のインターフォンを押すと、住職が自ら扉を開けて結依を迎えてくれた。

「すみません、急なお願いをしてしまって……」

いえいえと柔らかな笑みを浮かべて、住職は結依を控えの部屋へ案内した。四十九日の法要で来た時に案内されたのと同じ場所だ。前と同じように住職の妻と思しき女性が、冷えた麦茶とおしぼりを持って現れる。
その女性が部屋を出ていくのを待って、結依は口を開いた。

「あの、本当に無理なお願いをしてしまって申し訳ありません。今日、ここに伺ったのは……」

だが住職は首を振って、穏やかに結依の言葉を留めた。

「はい、この前のお電話で大まかな事情は承りました。先日のお母様のご納骨はお嬢様のご存じないことだった、お母様も本来はご当家のお墓に入るのをお望みではなかった、ということで間違いはございませんでしょうか」

事前の電話では、緊張のあまりずいぶん支離滅裂な説明になってしまったものの、何とか要旨が伝わっていることに結依はほっとした。

「そのとおりです。父には何度も納骨は待ってほしい、話し合いをしたいと伝えていたんですが……」

住職はなるほどというように、静かに頷いた。

「まず今の状況を整理させていただきますと、今月の初め頃……えーと6日の日曜日ですね。この日にお母様のご納骨がありました。もちろんここではなく、お墓の方にお父様とお兄様がお越しになりました。わたくしが、お嬢様はとお訊ねしたところ『娘も出席する予定だったが、体調不良で来られなくなった』とお父様が仰ったのですが……」

「違います。私は納骨のことは何も聞いていませんでした。父からも兄からも」

そうでしたか、と住職は小さく呟くと、かすかなため息を洩らした。

「本来ですと葬儀にせよ法要にせよ、あるいは納骨にせよ、ご遺族の意見が揃った上で行うのが理想なのは言うを待ちません。ですがご親族の中で意見が分かれるのも、また珍しいことではございません。ですので今回のようなお話の場合、当方としましても施主様……つまりお父様からご依頼があった以上、納骨をしないというわけにはいかないのです。お嬢様には大変お気の毒とは思うのですが」

結依は強く首を振った。

「それはよく判っています。ただ単に自分の意見が無視されたというだけなら、腹立たしいし残念なことではあっても、私も引き下がらざるを得ません。はっきり言えばそれは家の中の話ですし、お寺さんとは何の関係も責任もないことなので」

「――お嬢様が気になさっているのは、お母様のご遺志ということですね」

住職は結依の心を見透かすように会話の先を拾った。

「すみません、こんな話をお寺の方にお聞かせするのが失礼なことは重々承知なんですが……」

結依はためらいがちに切り出した。

「確かに母は生前、明確に『鈴村家の墓に入るつもりはない』と宣言したわけではありません。ですが娘の私に『できれば入りたくない、死んだ後ぐらいは自由になりたい』と言っていました。もっともそれはさすがに父には言えなかったようですが」

住職は別段気を悪くした様子もなく、穏やかな表情で頷いた。

「それはお母様としても、確かに言いにくいでしょうね」
「そうです。でもその一方で、母は埋葬の方法については父に希望を伝えていたんです。実は母は……」
「――火葬が怖いから、水火葬をお望みだった」

結依はぽかんと口を開けた。

「……なぜご存知なんですか? 父がそう言ったんですか?」

住職は静かに首を振った。

「お母様ご自身が、私にそう仰ったのです」


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