見出し画像

博物館に行きたいと思う人の裾野を広げたい!博物館の建物を魅せてみた話(後編)

何か事業を行うときは、基本的にはその成果物で語りたいところではあるけれど、担当として何を考えていたのかの背景も、せっかくだから伝えていきたいという考えで書いていたら、筆が止まらない・・・!
まさかの2部(後編もそれなり長さ)になってしまった。


この記事は、

の続きにあたるものである。

前編では、博物館に行きたいと思う人の裾野を広げるという視点から、博物館の建物自体に注目することで、新たな来館者層を獲得できるのではないかという考えを紹介した。建物にフォーカスすることで、これまで「博物館に行こう!」と思うことが少なかった人びとが、博物館に目を向けるきっかけになり得る、ということである。

その上で、そうした考え方のもとから、僕が内容を監修する立場で実施した、北海道博物館の建築にフォーカスを当てた事業としての3つの取り組み(リーフレット、ショートムービー、フォトコンテスト)を紹介し、佐藤武夫という建築家が設計したこの建築に対する、個人的な思い入れについても触れた。

今回は、それぞれの事業における企画・制作時の考え方について具体的に紹介していく。そうした事業があったことさえわかっていれば、前回を見なくても良いのかもしれないが、むしろ今回より、前回の考え方の方が見てもらいたいかも?


博物館の”建物”にフォーカスした事業(の続き)

①北海道博物館の"建築"と"僕"

は、前回触れた、建物に対する個人的な思い入れ。今回は、その続きから。

②リーフレットで"みどころ"をどう表現するか

北海道博物館の「建築」ページからリーフレットを見られるので、ぜひ閲覧していただきたい。(直リンクはこちら

みどころ部分の背景の絵を描いたのは僕だ。これは夜な夜なiPadを使って気合い入れて描いた。頑張った。

無断転載禁止

ここに、みどころのテキストを配置して、みどころマップをつくり、建設経緯やコンセプト的な大きい話などは、裏面(表面?)に文章で入れたのである。
リーフレットの制作にあたって、考えたことは大きく3つ

  • 手元でみどころを見ながら、館内をまわっていく楽しみをつくりたい
    建物は、やはり実物をみて、個々人がどう感じるかが基本的には一番大事。そのため、情報はできるだけ少なくし、最低限になるように泣く泣く抑えた(それでも多い・・・)。また無料スペースのみの紹介にとどめ、あえて展示のことはほぼ全く見せないようにしてみた。
    ただ説明するだけでなく、やってみよう!として能動性を持った館内周遊ができるようにしてみた。

  • 建物内部だけでなく、建物の外観や外構、どのような環境の中に立っているのか、を一枚の絵で表現したい
    この建物は、設立経緯からして森林に囲まれているという前提がとても大切なため、建物内部だけでなく、外観や外構もきちんと表現するようにした。これがなかなか難しく、絵を描くのもそうだけど、構図を考えるのも本当に苦労した。"新たな来館者層"というコンセプトを考え、展示室を描かないと割り切ったときに、ようやく建物の外形をしっかりと表現することができたのである。
    (見下ろす角度を決めるのに、CADで簡単な3Dモデルを作って、ぐりぐり動かして、絵になっている角度が一番ちょうど良さそうという結論になった)

  • できるだけ堅苦しくない、柔らかい見た目や文章表現にしたい
    リーフレットを手に取って、開いたときの第一印象が重要だと思ったので、3DCGのようなパキッとした見た目ではなく、手書きの柔らかい感じが良いのかなあと考えていた。CAD使って3Dにした方がよほど楽だったのだろうけど。
    文章も中高生以上くらいを対象にしつつ、専門用語はできるだけ使わない言い回しにするなどを心がけた。これがなかなか難しかった。

というイメージを持ち、手書きでやったるか!と、ちょっと無茶をして取り組んだのである。これは自分を褒めたい。

レイアウトデザインについては、受注した印刷会社がやってくださった。短期間なのに口出しも多く大変だったと思うけど、かなりいい感じに収まったのでありがたかった。

ちなみに、館内に提案する前段階の、自分の中での検討案が出てきたので、チラ見せ。2枚目のポップアップカードやペーパークラフトとかは、今でもちょとやりたいなと思っている。

この構図では、見せたい空間が被ってしまっているのがよくわかると思う
手持ち系のいろいろをとりあえず書き出してみた、みたいなやつ

③ショートムービーで魅せたかったこと

建物の魅力を思う存分詰め込んだショートムービー。
これは、僕自身が一から構成を組んだのではなく、受注した業者さんから提案されたコンテやナレーションのテキスト等に対する「監修」という立場で関わらせてもらった。
かなりの傑作をつくってくださったと、今でも感謝している。
短期間の期間限定公開しかしていなかったのを、最近常時公開に切り替えたので、ぜひ見てほしい。

詳しくは、最後のおまけの研究ノートを見ていただきたいが、僕自身が建物の魅力を語る上で強く主張したかったことは、

  • この建物は佐藤武夫の実質的な遺作で、佐藤武夫イズムがふんだんに注ぎ込まれているということ

  • 北海道百年記念事業という一大事業の中でつくられたもので、この建築単体のみでは魅力を語りきれず、建物の配置や他の施設との関係まで広げて魅力を伝えたいということ

  • さまざまな芸術家の作品が、単独で存在しているのではなく、明確な意図を持って建築と一体となっていること

  • 建物に込められたコンセプトをしっかり考えていたからこそ上記の表現が成立しているため、「北海道開拓記念館(現北海道博物館)」だから生まれた傑作であること

あたりである。

受注業者さんは、僕のアツい想いを汲んで、力を入れて制作していただいた。
プロポーザルの説明会でエピソードとして話した、完成後に女子中学生から「建築によって初めて感動させられました」という手紙が届いた話を基軸にして、それを追体験しつつ佐藤武夫の発言などを織り込みながら、ストーリー性のある魅力的な内容になっていて、想像を大きく超える完成度でつくっていただいた。

撮影の時にはでしゃばって、俳優さんに、こういう風に目線を動かして感動しているふうに、とか指示もしちゃったりして、楽しかった。

受注業者はプロポーザルを経て決定しているので、他の業者さんだったらどういう動画になっていたのか、それはそれで気になるけれどもね。

④フォトコンテストではこんなにも知らない見え方があったのかと感心したのよな

フォトコンテストは、「建物」「思い出」の2部門制で募集した。当初は、事業の出発点からして建築写真を求めるようなイメージから企画が立ち上がったが、最初期の担当者間での会議の中で、以下のような視点から、単なる建築のかっこいい写真を募集するだけではない方法を考えた。

  • 建物とともに歩んだ50年間の思い出も見られると嬉しい
    →アルバムとかを引っ張り出して世代間対話の機会になると良い

  • 建築写真だとハードルが高いので、気軽に投稿できるような、ハードル低めになるとよい

  • 上記と関連するが、家族の写真を撮るきっかけになると良い

こうして「思い出」部門を作ったのはとても良かったのではないかと思う。

僕自身はフォトコンテストに関しては、そうしたコンセプトの検討と、チラシデザイン、公式X(当時はtwitter)の運用( #森のちゃれんが50周年 )などを担当し、事業の進行自体は、他の職員に担っていただいた。

事業の概要や結果は以下のリンクから閲覧可能。ぜひ見てほしい。

当然ながら、受賞作以外の応募作品にもすべて目をとおしているが、この角度・視点からはこんな風に見えるのか、と新たな発見が多くあった。

例えば、「建物」部門最優秀賞の「刻まれた歴史」という作品は、1年をとおして冬至付近というわずかな期間の、さらに一瞬の時間を切り取ったもので、西日がそこまで壁面にあたることがあるなんて、全く知らなかったので本当にびっくりした。その次の12月にタイムラプスで光の動きを定点撮影したほどの驚きだった。

また、「思い出」部門最優秀賞の「彩りの会話」という作品では、見事に建築とヒューマンスケールとの対比があり、いかにこの建築が壮大なスケールのもと計画されているかがよくわかる作品になっている。

さらに、「建物」部門優秀賞の「映画の舞台」という作品は、この階段をそのような視点で見たことは全くなかったなと感心したものであった。それ以降その階段を利用するたびに、さながら映画のスターになったかのような気分になっている。

と、受賞作品全てに語れることがあるし、このような発見が受賞作以外にも多くあったのだが、さすがにこのプライベートアカウントでは写真を出せないので、この感動を伝えられないのがもどかしいが・・・

おそらく佐藤武夫自身も想像だにしない視点で建築を捉えている方が多く、いかに建築というものの受け取り方や見え方が、個々人によって違うのかがよくわかる気づきを得た。

だからこそ、ショートムービーのところで触れたような、女子中学生に思わず手紙を書かせてしまうほどの感動を与える建築になっていることが、本当にすごいことなのだろうと思う。

事業を振り返って思うこと

以上、個別の事業について考えていたことについては、なんとなく書き記せたのかなと思う(マイナーアップデートを繰り返すかもしれないけれど)。

フォトコンテストの授賞式や作品展、各種成果物のお披露目などを、2022年3月26日にイベントとして実施した。合わせて、ウェブサイトに建築に特化したページを公開した。

リーフレットは、印刷分がわずかな期間で無くなり、ショートムービーは3ヶ月程度の限定公開で2000回程度の再生数(これはもっと見てほしかった。常時公開したから無限リピートして。)、何よりの実感として、明らかに建築についての質問が増えた。中には建築を見に来ました、といってくださる方もいて(そういう方で質問されるのも珍しいタイプな気がするけど)、これは本当に嬉しい!
来館された方が建築に目を向けてくださるのは、ミュージアムカフェで机にリーフレットをラミネートして置いてくださっているのも大きいと思う。

そうした実感から、

博物館に行きたいと思う人の裾野を広げたい!

という考え方に対する、たしかな手応えは感じることができた。

とはいえ、それによって目に見えて入館者数が変わったかと言われると、うーん。。。
また、どうしても短期的なブースト感も否めず、改めてあの時の盛り上がりを再燃できるような、予算を使わずにできる新たな手立てを考えているところである。まずは建築ページをもっと楽しくしないとなあ。

この大好きな建築を、より多くの人に知ってもらって、足を運んでもらって、博物館にもついでにはまってもらう。
少なくとも現職にいるうちは、"裾野"を広げる試みをし続けたいと思う。

余談すぎるが、
この事業のあと、気を抜いたところで体調を崩して持病持ちになってしまった。事業の思い出と、今も尾をひく持病とが、心と身体に残り続けていくのだろうな。

以上、当時まだ20代の若造が、50年間あまり触れられてなかった博物館の"建築"に光を当ててみたら、体調を崩してしまったので健康には気をつけようという話。でした(違う)。


おまけ

この事業からしばらく経って、当時調べたことを、当館研究紀要に専門的なテキストとしてきちんとまとめた。文章ベースで20ページ以上にわたる大作になってしまったが(汗)
建築に興味がある方はぜひご笑覧いただきたい。この建物の魅力を知るだけでなく、一つの建物をじっくり考えるとはどういうことか、という建築論にもつながる・・・のかな?

鈴木明世「北海道開拓記念館(現・北海道博物館)の建築にみられる建築家・佐藤武夫の設計意図」『北海道博物館研究紀要』10号(北海道博物館, 2025.03,pp.23-46

研究紀要自体のページはこちら

北海道新聞を購読している人は、さっぽろ10区の以下の記事がかなりいい感じに建物の良いところをまとめてくださった。気軽にささっと読めて良い。

毎日新聞を購読している人は、ぜひ以下の記事を。レトロの美は美しい。