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「補助金頼み」の限界。空き家あふれる日本に今こそ必要な、市民が建物を守る仕組みと税制の話

今日はあるニュース記事を見て、ぼくがずっと気になっていることを書こうとおもいます。

空き家の話、といえば「危ない建物をどう処分するか」とか「どうやって売るか」という話が多いですよね。

でも今日取り上げたいのは、その逆側の話です。「壊したら絶対に取り返せない建物」を、どう残すか

歴史的な建物、古い町並み、何十年も地域のシンボルとして立ち続けてきた建造物。
そういうものが今、静かに、でも確実に失われています。
しかも「放置されて朽ちた」というより、「どうにもコストが払えなくて、泣く泣く壊した」というケースが多い。

そしてそのコストの問題、実は補助金で解決しようとしても限界があります。

今日はその話をしながら、「市民と税制を組み合わせた、新しい保存の仕組み」について考えてみたいと思います。
難しそうに聞こえるかもしれないけれど、実はこれ、空き家ビジネスに関わるいろんな業種の人に関係のある話なんです。

3億円を個人で調達しようとしている人がいる

最近、こんなニュースを目にしました。

京都市東山区に、「菊榮舎」という築90年超の4連棟長屋があります。
東京で開業医をされている北村直人さん(55歳)が祖父から受け継いだ建物で、遅くとも1933年には存在が確認されている、延べ床面積260平方メートルほどの物件です。

北村さんは「壊したら作り直せない」という思いから修復を決心しました。国の登録有形文化財の登録も目指しているそうです。

でも、その修復費用が3億円超
しかも、伝統工法で直さなければならないという制約があるため、工法が限られてコストがかさむ。
補助金ではとても賄えないため、北村さんは今、カンパを募っています。

これを読んで、ぼくはいろんな感情が混ざりました。「すごいな、その覚悟」という尊敬の気持ちと、「でもこれ、個人が背負える話じゃないよな」という率直な感想と両方です。

そして何より、「こういう建物が日本全国に無数にあって、同じように悩んでいる所有者がいる」という現実があるんですよね。

「補助金があるじゃないか」という声に答えると

ここで「でも補助金あるでしょ」という声が聞こえてきそうです。
確かにあります。
京都市には京町家の改修補助金もあるし、国の制度もある。
でも、ここが正直な話なんですが…。

1件の私有財産に、数千万〜数億円の税金を投入することへの社会的合意は、とても取りにくい。

住民説明会を想像してみてください。「あの家の修復に2億円の税金を使います」と言われたら、どうでしょう。
「それ、公平なの?」という声が出るのは自然なことです。
行政の立場からすると、そこがずっとネックになっています。

それに、補助金には毎年の予算上限があります。
申請が殺到すれば「予算に達し次第終了」になる。
対象物件の選定基準も厳しい。
結果として、修復を必要とする建物の一部しか救えない仕組みになっています。

だからといって「じゃあオーナーが全部自分でどうにかしろ」は、3億円の壁を前にした北村さんのケースを見ればわかるように、現実的ではない。

「税金頼み」でも「オーナー丸投げ」でもない、第三の道が必要なんです。

イギリスには「市民が建物を買い取る」仕組みがある

その第三の道として、ぼくがずっと注目しているのが、イギリスのナショナルトラストの考え方です。

ここは少し説明します。
ナショナルトラストというのは、ざっくりいうと「市民や企業からの寄付・会費をもとに、歴史的な建造物や自然環境を買い取り、修復・運営する民間団体の仕組み」のことです。
日本でいえば、自然保護のNPOが土地を買い取って守るイメージに近いですが、その建物版です。

これを建造物に特化させた形が、ヘリテージ・トラストと呼ばれる考え方です。

面白いのは、「ただ保存するだけ」じゃないところ。
修復した建物を、ホテルにしたり、カフェにしたり、コワーキングスペースにしたりして収益化し、その収益を次の修復費用に回す。
保存と活用が一体になっているから、自走できる。

ここ、重要なポイントです。
行政の補助金は「もらって終わり」になりがちですが、ヘリテージ・トラストの仕組みでは、修復した建物が収益を生み続けることで、次の建物の修復資金になる。
そう、お金の循環が生まれるんです。

でも、なぜ民間の仕組みが回るのか。そこに「税制」がある

「寄付を集めても、そんな大金集まらないでしょ」と思いますよね。ぼくもそう思いました。

でも、欧米でナショナルトラストが機能している理由が一つあって、それが税制優遇です。

ものすごくシンプルに言うと、「寄付した分だけ、自分の税金が安くなる」という仕組みです。
所得税の控除や法人税の控除が強力に設計されていて、「寄付は損」じゃなく「寄付はある意味、税金の使い道を自分で選ぶこと」に近い感覚になる。

実はこれが大きいんです。
人は、「税金として国に払って、どこかに使われる」よりも、「自分が残したいものを守るために、直接お金を出す」という行為に、はるかに強い動機を感じます。

日本でも、この感覚に近いものがすでに動き始めています。そう、ふるさと納税のガバメントクラウドファンディング(GCF)です。

日本の萌芽。ガバメントクラウドファンディングという実験

GCFは、自治体がふるさと納税の仕組みを使って、特定のプロジェクトへの寄付を募る制度です。
「返礼品はないけれど、このお寺の屋根修繕に寄付できる」「この古民家を残すために使ってください」という形で、市民が使い道を指定してお金を出せる。

実際に、歴史的建造物の修復や、空き家活用プロジェクトに向けたGCFはすでにいくつも走っています。
集まるお金の規模は小さいですが、「市民が地域の建物を守るために直接お金を出す」という文化の萌芽として、ぼくはこれをとても面白い動きだと思っています。

ただ、正直なところ、今のGCFはまだ「気持ちのある人が寄付する」レベルです。
イギリスのナショナルトラストのように億単位のお金が動く仕組みにはなっていない。
なぜかというと、税制優遇の力がまだ弱いからです。

ふるさと納税は税額控除があるから広がりましたよね。
あの仕組みを、歴史的建造物の保存にもっと強力に適用できれば…そう考えると、話が変わってきます。

税金を「免除する」という発想の転換

ここでぼくが一つ提案したいのは、「行政がお金を出す」のではなく「税金を免除する」という形での支援です。

たとえば、こんな仕組みが考えられます。

歴史的価値のある建物の所有者が、建物を一定の保存基準に従って維持・修復した場合、固定資産税を大幅に減免する。
あるいは、その建物を民間の保存団体(ヘリテージ・トラスト的な組織)に寄付・移転した場合、相続税や贈与税を優遇する。
さらに、そういった保存団体への寄付に対して、企業・個人の所得控除を手厚くする。

行政は直接お金を出していない。
でも「税金を取らない」という形で、実質的に支援している。
これ、発想としては間接的な税投入なんですが、補助金と決定的に違うのは「市民や企業が自分で選んだ」という感覚が伴うことです。

「あそこの長屋を残したいから寄付した」「税金が少し安くなるなら、自分の判断でこの建物の保存に使おう」という選択が生まれる。
これが、市民の当事者意識につながります。

マッチングギフトという考え方

さらに一歩進めると、マッチングギフトという仕組みも面白いと思っています。

「多くの人が残したい(=寄付が集まっている)物件に、行政が同額または一定割合の税金を上乗せして支援する」という方式です。

市民が選んだものに、行政が乗っかる。
これ、「民意が反映された税金の使い道」になるので、「なんであの建物に何億円も使うんだ」という批判が格段に出にくくなります。
市民が先にお金を出して「これを残したい」と意思表示しているわけだから。

合理的で、説明しやすい。
ぼくはこれが、補助金だけに頼らない歴史的建造物保存の次のモデルになりうると思っています。

所有者が動けない理由も、整理しておく

ここで少し、所有者の目線でも考えてみたいと思います。
ぼくもこういう相談を受けることが多いのでよくわかるんです。

歴史的な建物を持つ所有者の多くが、「残したい気持ちはある」一方で、動けずにいます。なぜか。

まず、「いくらかかるか怖くて見積もりすら取れない」という心理があります。
北村さんの3億円という数字を聞いたら、そうなりますよね。
「知らなければよかった」という感情は、動けなくなる大きな要因です。

次に、「相続で揉めている」「権利関係が複雑で動かせない」というケースも多い。
歴史的な建物ほど築年数が古く、相続を繰り返している間に権利者が増えていることが多い。
全員の合意を取るのが大変で、結果として誰も決定できないまま放置される。

さらに、「残したいけど、自分が持ち続けることのリスクも怖い」という葛藤もあります。
維持費、固定資産税、万一の事故責任。「愛着があるから手放したくない」と「このまま持ち続けることへの不安」が同時に存在している。

この心理的な葛藤を、「保存団体への移転」「税制優遇付きの寄付」という選択肢がほぐしてくれる可能性があります。
「手放す=諦める」ではなく、「良い形で次の手に渡す=建物を救う」という選択肢が増えることで、所有者が動きやすくなる。

今のうちに準備しておくといいこと

では、空き家ビジネスに関わる事業者として、今のうちにやっておくと良さそうなことを整理します。

① 自分の商圏の歴史的建造物リストを作っておく

国の登録有形文化財、各自治体が指定している歴史的建造物、伝統的建造物群保存地区。こういった情報は、意外と整理されないまま埋もれています。自分のエリアにどんな対象物件があるかを把握しておくだけで、「相談が来たときに動ける」状態になります。

② 伝統工法・古建築に詳しい専門家とのネットワークを作っておく

修復案件が来たとき、「伝統工法を扱える工務店を知っている」「文化財登録のサポートができる建築士を紹介できる」というのは、大きな強みになります。今のうちに関係を作っておくことをおすすめします。

③ GCFの成功事例を把握しておく

地域の自治体がGCFで歴史的建造物の修復資金を集めた事例は、すでにいくつもあります。どんなプロジェクトがどのくらいの金額を集めたか、事例を把握しておくと、所有者への説明材料になります。「こういう事例があります」という一言が、相手の背中を押すことがあります。

④ 税制の動向を追っておく

歴史的建造物に関する税制は、今まさに議論が進んでいる領域です。固定資産税の減免、相続税の特例、寄付税制の拡充。こういった動きをキャッチしておくと、「タイミングが来たとき」に素早く動けます。専門の士業との定期的な情報交換の機会を持っておくと良いと思います。

⑤ 「保存×活用」の成功モデルを自分の言葉で語れるようにしておく

所有者に相談されたとき、「残すとこんな可能性がありますよ」と具体的なイメージで話せるかどうかが、意思決定の分かれ目になります。古民家をカフェにした事例、歴史的建物をゲストハウスにした事例、地域住民の集会所として活用した事例。引き出しを増やしておくことが、最大の武器になります。

というわけで

歴史的建造物の保存は、「補助金だけ」では限界があります。
「オーナー個人に任せる」のも、3億円という壁を前にすれば現実的ではない。

そこに、「市民の寄付+税制優遇」を組み合わせた第三の道が必要で、日本でもGCFという形でその新しい芽が生まれています。

ただ、これはまだ制度が追いついていない段階です。
だからこそ、「制度が整う前から動いている人」が、整ったあとに大きな強みを持てます。

空き家ビジネスに関わるみなさんにとって、歴史的建造物の保存・活用というテーマは、今後間違いなく大きな案件領域になっていきます。
「難しそうだから後回し」ではなく、「今のうちに少しだけ情報を集めておく」という姿勢が、数年後の差になるんじゃないかと思っています。

京都の菊榮舎の修復が、無事に成功してほしいと思う一方で、ぼくは「北村さんのような覚悟を持つ人が、もっと動きやすくなる仕組み」を社会全体で作ることが必要だと感じています。

建物は、人が関わり続けることで生きていきます。
空き家もそう。放置が問題なんであって、建物自体は悪くない。
残したいという意志と、それを支える仕組みとが重なったとき、地域の宝は本当に守られていくと思います。

今日は少し長くなりましたが、何か気になることがあれば、気軽にコメントやメッセージをください。

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