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【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第14話)#創作大賞2024

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 十和子の家を出ると、丈太郎はすぐさま片桐に電話をかけた。なかなか出ない。二度、三度と立て続けにかけたが、電源を切っているのか応答はなかった。先輩の家ってどこだっけ? このまま家に戻る気になれず、丈太郎は片桐の自宅の所在地を思い出そうとする。

 以前会話の中でK市に住んでいると言っていた気がしたが、具体的にどこら辺なのかが思い出せない。一瞬佐野に聞いてみようとして、思いとどまった。先輩の家知ってどうすんだ? と根掘り葉掘り聞かれるのが目に見えている。

 今、佐野にエネルギーを使う気にはなれなかった。自分でもまだうまく心の整理がついていないのに。仕方なく、片桐のSNSにメッセージを送った。大事な話があります。会って話をしたいです。「連絡ください」と拝み倒しているクマのスタンプを何個も貼り付けてやった。これだけ送ったら通知で気づくだろう。

 片桐から電話がかかってきたのはそれから三時間後だった。丈太郎は駅の近くの書店で時間を潰していた。
「ごめんごめん! 今日塾の模試があったんだ」
片桐の声はあまり申し訳なさそうではなかった。丈太郎は興奮を抑えきれず、ついつい「ひどいですよ!」と叫んでしまった。

「電源落としておかないとなんないから、気づくのが遅れた。なに? なんかあったの?」
「本当に、ひどいです」
「だから……」
「俺を疑っておきながら、片桐先輩だって……」
 そこまで言って、片桐がどうやってユキネちゃんの怖がっていたものを知ったのかが分からず、丈太郎は言葉を切った。

「あれ、小芝井? もしもし?」
 突然無音になったことに、戸惑い気味の片桐の声。
「駅前のバーガーポテトで待ってます。すぐ来てください」
それだけ言って、丈太郎は電話を切った。

 夕方の『バーガーポテト』はカップルや塾帰りの高校生でごった返していた。週末には来るもんじゃないな、と丈太郎は今更後悔する。土曜日なのに制服姿で現れた片桐は、ここに来るまでの時間でなにかを察したのか、どこか後ろめたそうな顔をしていた。

 座れる場所が空いてなかったので、ポテトと飲み物をテイクアウトして近くの公園に移動した。もう辺りに小さな子供の姿はなく、ゾウの形の滑り台の周りに、なにかのイベント帰りと思われる男子高校生の集団が固まっているだけだった。それぞれにスマホに目を落とし、時々大きな声で笑い合っている。

 その様子を眺めながら、二人は街灯横のベンチに並んで腰掛けた。
「今日十和子さんちに行ってきました」
Lサイズのウーロン茶を一口飲んだ後で、丈太郎は口火を切った。
「ユキネちゃんのことがどうしても気になって」
ゆっくりと片桐をみる。

 片桐は居心地悪そうに尻を動かし、深く息を吐いた。ごく短い沈黙ののちに、
「僕が連絡係になった意味がないじゃないか」
やや自嘲気味に口の端を上げた。

「十和子さんから全部聞きましたよ」
「あ、うん……」
「どういうことなのかちゃんと説明してくれますか?」
「と、言うと?」
「とぼけたってダメですよ。俺はもう全部分かってるんだから」
「そっか……」
片桐は観念したのか、フゥ―ッと息を吐いた後に空を仰いだ。

「とりあえず、僕も小芝井と同類ってことで……」
「要するに?」
片桐は、どこからどう話せばいいかな、と言いながら沈黙した。この話を曖昧に誤魔化すこともできたはずだが、丈太郎の真剣な眼差しに触れて、片桐なりに丁寧に説明しようとしているようだった。

「まあ、同類と言っても僕は見えちゃいけないものが視えるってだけ。小芝井みたいに犬や猫とコミュニケーションを取ることはできない。本当に、ただ視えるだけだから、お祓いとか、なんでこの人に憑いてるのかとか、そういうのはまったく分からない」
「言ってくれればよかったのに」
「言うことになんの意味がある?」

「なんかよく分かんないけど、裏切られたような気分なんですよ。すべて分かってた上で十和子さんのところに一緒に付いてきたんだなとか、俺がユキネちゃんとうまく意思疎通できなくて困ってた横で、先輩は全部見通してたんだなとか……。もっと遡れば、部室で先輩にこの能力のこと告白したとき、先輩、こう言ったんですよね。動物の心の声が聞こえるなんてにわかには信じがたいって。普通そんなこと言います? 自分も似たようなもんなのに」
丈太郎は自然と声が大きくなるのを止めることができなかった。いつも冷静沈着な片桐が動揺しているのを見て、さらに裏切られたような気分になる。

「僕は、どうすればいい?」
「別にどうもしなくていいです。謝ったりしないでくださいね。だって、俺と先輩は友達でもなんでもないし。俺が勝手にイラついているだけですから」
一瞬、片桐の肩がピクっと上がった。
「ただ、これだけは言わせてください。俺は動物と飼い主の絆が一層深まればいいなと思って、求められるならどこにだって行こうくらいの気持ちなんですよ。先輩はこれを商売にするんじゃないかとか余計な心配してくれたみたいですけど、バカにするなって感じです」
少し言葉が過ぎるかなと思いつつ、止まらない。

「そう言えば佐野が言ってましたよね。先輩はたまに保護者ヅラするって。なんか今ならその言葉の意味がよーく分かる。俺がユキネちゃんのことで悩んだり不安になっているのを見て、先輩は心の中で笑ってたんですね」
「そんなことない!」
片桐は叫んで勢いよく立ち上がった。腕が小刻みに震えていた。


#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門


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