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【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第12話)#創作大賞2024

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 月子と話し合って、手紙はなるべくシンプルなものがいいという結論に至っている。多くを語らない方が逆に不安を煽ることができる。

 透視で見たことを全部箇条書きにして、最後に「悪は滅びる 罪悪の淵で後悔することのなきように」と殴り書きっぽい書体で印字した。文は月子のアイディアだ。なんか、ママって敵に回したくないかも。星来は心の底からそう思った。

 手紙は放課後、いじめっ子リーダーが帰ったのを確認してからシューズボックスに入れておいた。翌朝手紙を見つけたのは確実だが、午前中はいつもの強気な態度でクラス中にピリピリした空気を張り巡らせていた。それがお昼休みを境にガラッと切り替わった。私の手紙、お弁当のあとに読んでくれたのかしら。星来は誰にも気づかれないようにひっそりと笑った。

「明日からちゃんと心を入れ替えてくれればいいわね」
と月子。
「ねえ、もしあの手紙が効きすぎたらどうする?」
星来は少し不安になった。
「親に相談して警察に通報されたりしたら……」

「対策は取ってるんだから大丈夫。ちゃんとタイピングした文章だし、指紋を付けないように手袋を付けて封をしてるし。それに自分が犯罪まがいのことをやっているのよ。ずっと仲良くしていた友達のことをSNSで誹謗中傷したり。ちゃんと頭のある子なら自分のやったことを棚に上げて被害者ヅラなんてできないはずよ。でも、万が一そんなことになっても心配ないわ。だって、仮に盗撮を疑ったとしてもどこにも証拠はないわけだから」
確かに。星来は月子の顔を見てうんうんと頷いた。

「さあ、そろそろ夕飯にしましょ。パパが戻ってくる頃よ」
ベッドから立ち上がりニッコリ微笑む月子を見て、星来は改めてママってすごい、と思った。私の最大の理解者。私の大切なママ。いつだって弱いものの味方。

 三人での夕食を終えて二階の自分の部屋に戻ると、スマホの通知ランプが点滅していた。確認するとSNSのフォトグラファーアカウントに数件コメントが寄せられていた。

 一つ一つ確認する。いつも仲良くしてもらっている同じフォト仲間のエリーさんとりゅうさん、鎌倉でカフェを営んでいるシンケンさん、茶道家のおしょうさん、最近フォローしたばかりのジョウくん。

 ジョウくんだけ「くん」付けなのは、面識があるからだ。星来がグランプリを受賞した県主催のフォトコンで部門賞十名のうちの一人がジョウくんだった。表彰式で挨拶をしたようだが、星来は緊張していて誰となにを話したかもよく覚えていない。

 記念写真で山本さんの後ろの列の向かって右から二番目にいたのが俺です、とDMのやり取りで教えてもらった。写真を見てもピンと来なかったが、眼鏡にややくせっ毛の浅黒い肌のジョウくんは、受賞者の中でも一人だけ背筋がピンとしていて目立っていた。

 こちらが確実に喜ぶようなコメントを頻繁にくれるのに、いつも慌ただしさにかまけて「ありがとうございます」としか返信できずにいた。どんな人かな? とアカウントを見に行くと、並んだ作品の美しさに一瞬で心を奪われた。

 ジョウくんの被写体は「日常」だった。野良猫とか神社の鳥居とか木漏れ日とか夜の街灯の灯りに浮かび上がる雪とか。見ているだけで匂いや音が聞こえてくるような。儚げで物憂げで、どこか懐かしい雰囲気。誰もが経験しているわけじゃないのに、誰もが心の奥深くに抱え持っているような不思議な感覚。こういう子が天才って言うのね、きっと……。

 少し嫉妬心も芽生える。と同時に、抗えない吸引力で惹き寄せられている自分にも気づく。

 気がつくとフォローバックボタンを押していた。いつも熱烈なコメントをくれるから、もしかしたら喜んでくれるかな、と淡い期待を抱いていたが、ジョウくんからのメッセージは来なかった。

 ウソ……。ちょっと、なんか。私って痛い女になってない? 胸の奥がザワザワするような羞恥心が襲ってきた。ちょっとでも好意的に捉えてもらっていると思っていた自分が恥ずかしい。穴があったらそこに入って誰かから土を被せてもらいたい。

 ジョウくんからのメッセージが来たのは二日後だった。本当はすぐにでもお礼メッセージを送りたかったのだが、頭を怪我してしまい、しばらく安静にしていたとのことだった。なんだ、そういう事情があったのか。星来は安堵した。今までこんなに安堵したことある? と言うくらい心の底からホッとしていた。

 その後のDMのやり取りで、実はフォトコンで顔を合わせており、軽く挨拶も交わしていたことが分かった。写真で見る溌剌としたジョウくんと、SNSの横顔モノクロアイコンのギャップには思わず笑ってしまいそうになったけれど、きっとそういうところも含めて彼の魅力になっているんだろうなと思った。


#創作大賞204
#ファンタジー小説部門


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